Space Topics 2021
JPL News (Ja) 日本語訳解説
Research Report : ナトリウムの噴出で説明ができた!「小惑星ファエトンが彗星のように振る舞う活動」
原文 : August 16, 2021 : Fizzing Sodium Could Explain Asteroid Phaethon’s Cometlike Activity
Research Report : ナトリウムの噴出で説明ができた!「小惑星ファエトンが彗星のように振る舞う活動」
小惑星が太陽周辺を通過する際に、太陽に炙られた表面からナトリウムが放出されている可能性があることがモデルや実験で示されており、これが小惑星増光の要因ではないかとみられる最新の実験結果が公開された。
Imahe caption :
小惑星ファエトンが太陽に熱せられている様子。小惑星の表面が高温になると、ファエトンを形成する岩石に含まれるナトリウムが蒸発して宇宙空間に放出され、彗星のように明るくなり、小さな岩石の小片が飛び散ることがある。
Credit : NASA/JPL-Caltech/IPAC
彗星が太陽近傍を通過する際、太陽が彗星を加熱し、表面の氷が宇宙空間にガス状で放出される。塵や岩石が巻き込まれたそのガスが明るい尾を作り、それがまるでベールのように核から何百キロも離れたところまで伸びていくのだ。
彗星には多様な容で氷が含まれているが、小惑星は主に岩石で、このような壮大な光景を作り出すことは知られていなかった。しかし、今回の研究では(以前から推測されていたが)、氷をあまり含まない地球近傍の小惑星ファエトンが、彗星のような活動をしている可能性があることがわかってきた。
ふたご座流星群の母天体として知られるファエトンは、太陽に近づくと明るく増光する幅 3.6 マイル(5.8 キロ)の小惑星として登録されている。彗星の場合は通常、このような動きをしている。彗星は、熱を帯びると表面の氷が蒸発して活動が活発になり、放出されたガスや塵が太陽光を散乱させて明るくなる。ではこの小惑星は、氷が蒸発するのではないにもかかわらず、なぜ明るく増光するのだろうか?
その原因は、ナトリウムの存在にあるのかもしれない。
研究チームの説明によると、ファエトンの細長く延びる 524 日周期の楕円軌道は、水星の軌道にかなり近い位置にまで達し、その間、太陽は小惑星の表面を華氏約 1,390 度(摂氏 750 度)まで加熱している。ここまで温められる軌道であれば、小惑星の表面にある水や二酸化炭素、一酸化炭素の氷は、とっくに焼き尽くされているはずだ。しかし、この温度にまで達すると、岩石中に含まれるナトリウムが蒸発して宇宙に向かって放出される可能性が考えられる。
「ファエトンは、太陽に近づくにつれて活発になる不思議な天体だ」と、カリフォルニア工科大学の研究機関である IPAC の科学者である Joseph Masiero(ジョセフ・マシエロ)は述べる。
「この天体が小惑星であり、ふたご座流星群の起源であることはわかっている。だが、氷はほとんど含まれていないので、小惑星に比較的多く含まれるナトリウムが、この粒子放出活動の原動力になっているのではないかと興味を持ったんだ」
Asteroid-Meteor Connection(小惑星と隕石の関係)
マシエロらのチームは、「ふたご座流星群」の観測結果からヒントを得た。宇宙から飛来した岩石の小片であるメテオロイドは、流星として地球の大気圏を通過するとその流星体は崩壊する。しかし、その崩壊前に大気との摩擦で流星体の周囲の空気が数千度に達して発光する。この光の色からは、隕石に含まれる元素を見ることができる。例えば、ナトリウムはオレンジ色を帯びる。地上観測からは、「ふたご座流星群」にはナトリウムが少ないことが知られている。
これまでは、ファエトンから放出されたこの小さな岩石の小片が、天体を離れた後にナトリウムを失ったのではないかと考えられていた。今回の研究により、このナトリウムが、ファエトン本体からの「ふたご座流星群」の放出に重要な役割を果たしているのではないかと考えることができる。
研究者らは推測する。
小惑星ファエトンが太陽に近づくと、まずナトリウムが加熱されて気化すると考えられる。この過程で、ファエトン表面にあったナトリウムはとっくに枯渇しているが、天体内のナトリウムは水星軌道くらいまで近づくと今でも熱せられて気化し、ファエトンの外殻の割れ目や亀裂を通って宇宙に噴出する。この噴出イベントは、岩石の小片を表面から宇宙空間へ押し出すのに十分な勢いを持つ。このナトリウムの噴出により、ファエトンが彗星のように増光する理由だけでなく、「ふたご座流星群」の素がファエトンから放出される仕組みや、その放出物にナトリウムがほとんど含まれていないことも説明できる。
「ファエトンのような小惑星は重力が非常に弱いため、表面の岩石小片を弾いたり、割れ目から岩石を吹き飛ばすのに、それほど大きな力は必要ない」と、南カリフォルニアにある NASA JPL の科学者で、今回の研究の共著者である Bjorn Davidsson(ビョルン・デビッドソン)は、述べている。
「氷の彗星の表面から炙られて噴出する蒸気のような爆発的なものではなく、安定して弾ける炭酸水の泡、フィズのようななものだろう」
Lab Tests Required(必要なラボでの実験)
ファエトンを含む小惑星を形成する岩石から、ナトリウムの蒸気噴出が発生するのかどうか、研究者たちは1969年にメキシコに落下した「Allende(アエンデ)隕石*」のサンプルを JPL のラボで実験してみた。この隕石は、ファエトン規模の小惑星から飛来したものとみられており、太陽系初期に形成された「炭素質コンドライト」と呼ばれるクラスの隕石に属している(その数は非常に少ない)。研究チームは、この隕石の小片をファエトンが太陽に近づくときと同程度の温度まで加熱した。
「この温度は、岩石の成分からナトリウムが気体に相転移するレベルだ」と、JPL の科学者で研究の共著者である Yang Liu(ヤン・リゥ)は述べた。
「サンプル鉱物の実験前、後を比較したところ、ナトリウムは失われていたが、他の元素は残っていた。このことは、ファエトンでも同じことが起きている可能性を示唆しており、我々の実験モデルの結果はファエトンにも当てはまる思われる」
今回の研究は、太陽系内の小天体を「小惑星」と「彗星」のように単純に分類できないことを示し、氷の含有量だけでなく、どのような元素がどのような温度条件で気化するかによってもその分類が異なることを示す証拠が増えてきたことを裏付けるものである。
「我々の最新の実験による結果は、条件が整えば、いくつかの活動的な小惑星の性質がナトリウムの昇華(相転移)によって説明できるかもしれないということであり、小惑星と彗星の間のスペクトルによる「仕分け」は、これまで我々が認識していたよりもさらに複雑になってきた」とマシエロは述べている。
「Volatility of Sodium in Carbonaceous Chondrites at Temperatures Consistent with Low-Perihelia Asteroids」と題されたこの研究成果は、2021年08月16日付の「The Planetary Science Journal」に掲載された。
Article by Ian J. O'Neill
Akira IMOTO
Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan