ボイジャー探査機 : ボイジャー1号機が捉えた「プラズマ波の放出」
NASA JPL News (Ja) : May 11, 2021. Published


原子密度の低い星間空間でボイジャー1号機は、これまでバーストの検出は散発的であったが、今回、長く延びる一連の波を測定した。

これまでの歴史上のすべての宇宙機は、太陽によって張り巡らされた磁気バブルである太陽圏内での探査・測定がすべてであった。しかし2012年08月25日、ボイジャー1号機はそれを越えた。太陽圏の境界を越えて星間空間に入り、太陽圏外を測定する最初の人工物となった。恒星間航行から8年が経ち、ボイジャー1号機からのデータを注意深く「聞く」ことで、そのフロンティアがどのようなものかについての新しい洞察が得られている。
 

NASA の双子のボイジャー探査機の一つを描いたイラスト。 二機のボイジャーは、太陽圏の外側領域である星間空間を航行中だ。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

私たちの太陽圏が星間海域を航行する船と例えると、ボイジャー1号機は海流を調査するために甲板から着水したばかりの「筏(いかだ)」のようなものだ。今のところ、「ボイジャー筏」が感じる荒れた海は、ほとんどが太陽圏からの影響によるものだが、さらに遠く星間空間を辿って、いつかは宇宙のより深い源からの攪拌を感知することになるだろう。その時点で我々の太陽圏の存在は、ボイジャーが得る検出値から完全に消えていく。

「より純粋な星間空間を見極めるためにボイジャーがどこまで到達する必要があるかについて、いくつかのアイデアを持っている」と、博士号を取得したばかりの Stella Ocker(ステラ・オッカー)は述べている。オッカーはニューヨーク州イサカにあるコーネル大学の学生であり、ボイジャーチームの最新メンバーだ。
「しかし、いつその時点に到達するかについては不明なところが多い」

月曜日(この記事リリースの前日)に「Nature Astronomy(ネイチャーアストロノミー」で発表された今回のボイジャーデータに関するオッカーの新しい研究は、星間空間における物質の密度の最初の連続測定であるかもしれないことを示唆する。
「この検出は、星間空間媒体の密度を測定する新たな方法を提供し、太陽系から近くの星間物質の構造を探査するための新しい経路を開く」とオッカーは述べている。

天文学者が呼ぶ「星間物質」を想起してみると、それは粒子と放射線による広がりのあるスープ状(波が砕けた後の白く泡立った状態を指す)であり、静かで穏やかな環境を思い浮かべるかもしれないが、それは間違いだろう。

「私は「静止星間物質」というフレーズを使ったが、それら物質が特に静止していない場所をたくさん見つけることもできる」と、コーネル大学の宇宙物理学者で今回の論文の共著者である Jim Cordes(ジム・コーデス)は述べている。

海洋もそうであるように、星間物質はうねる波の流れがぶつかる「しけ」の中にいる。その最大のものは我々が住む銀河の自転から来ている。宇宙がそれ自体を上塗りし、数十光年にわたってうねりを示しているからだ。より小さな(実際は巨大だが)波が超新星の爆発から星間空間でうねり出し、規模は数十億マイルも伸びていく。感知する波で最小の波紋はほとんどの場合、太陽による「噴火」が太陽圏の内層に浸透する空間を通して出てくる我々自身の太陽による衝撃波からくる波だ。

このようなぶつかり合う波は、星間物質の密度・分布についての手がかりを我々に伝える。これは、太陽圏の姿、星がどのように形成されるか、さらにボイジャーによる計測値は、銀河内にある我々自身の位置についての理解を促す指標とも言える。これらの波が星間空間を通して反響する際に、それらの周りの電子を震わせる。そしてその波の密度に応じて、特徴的な周波数で鳴り響いている。その「リンギング」のピッチが高いほど、電子密度は高くなる。ボイジャー1号機搭載のプラズマ波サブシステムは、探査機の後ろ 30 フィート(10 メートル)に突き出た二つの「バニーイヤー」アンテナなどにより、「リンギング」を聞くことができるように設計されていた。
 

ボイジャー1号機に搭載された「バニーイヤー」と呼ばれるアンテナ。プラズマ波サブシステムおよび他の機器で使用される。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

太陽圏を出てから三か月後の2012年11月、ボイジャー1号機は初めて星間空間からの音を捉えた。その六か月後、新たに別の「笛」が鳴り響いた。今度はより大きく、さらに高い音色で鳴り続けたのだ。その時ボイジャーは、星間物質が徐々に厚くなってきていることを感じ取っていたはずだ。
 

ボイジャー1号機が捉えた星間空間の「笛の音」。 ボイジャー1号機のプラズマ波計測機器は、2012年10月から11月、および2013年04月から05月に、高密度の星間プラズマもしくはイオン化ガスによるものとみられる振動を検出した。画像から YouTube 動画にリンクしている。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

これらの瞬間的な「笛の音」は、今日まで得られているボイジャーからのデータでは不規則な間隔で継続して見られる。このような現象を捉えることは星間物質の密度を研究するためには最良な方法だが、ある程度の忍耐がさらに必要だ。

「それらは年に一度しか確認することができないので偶然の出来事とも言えるが、これに依存して考えると、星間空間物質の密度・分布が不均一であることを意味することになる」とオッカーは述べた。

オッカーは、太陽から時折伝播する衝撃波に依存しない星間物質密度の実測値により、誤差を埋める作業を行うことにした。

ボイジャー1号機のデータをフィルタリングし、弱いが一貫性のある信号を検索した結果、彼女は有望な候補を見つけた。それは2017年半ば、別の「笛の音」を捉えた頃に現れ始めたものだった。

「これは実際にはワン・ノートだった」とオッカーは言った。
「時間の経過とともに、それが変化していることを確認できるが、周波数の動き方によって星間物質密度がどのように変化しているかが理解することができた」
 

ボイジャー1号のプラズマ波サブシステムデータから得た、弱いがほぼ連続的なプラズマ振動イベント(このグラフィックでは細い赤い線で表示)。強い信号(下側の青い背景)のみを示すグラフと、弱い信号を示すフィルター処理されたデータを表示した。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/Stella Ocker
 

オッカーは、新たな「笛の音」である信号をプラズマ波の放出(plasma wave emission)と呼び、それは、さも星間空間物質分布の軌跡を表しているように見えた。突然の「笛の音」がデータ上に現れると、放出トーンである周波数はそれらとともに上下する。信号はまた、地球の上層大気で観測されるものに似ており、そこでは電子分布状態を知ることができる。

「これは本当にエキサイティングだ。これまでで最も長く広い空間で、長時間に渡って定期的にサンプリングできるからだ」とオッカーは述べる。
「これにより、ボイジャーによって作成された、星間物質とその密度を印した最も完全なマップが得ることができる」

ボイジャー1号機周辺の星間媒体としての電子密度は、2013年に上昇し始め、2015年半ば頃に現在のレベルに達し、密度が約 40 倍に増加した。探査機からは、2020年の初めに終了した分析データセット全体を通して多少の変動はあるものの、現在も同様の密度範囲にあるように見えるはずだ。

オッカーと彼女の同僚は現在、「プラズマ波の放出」がどのように生成されるかについての物理モデルを開発しようとしている。これは、「プラズマ波の放出」起源を理解するための鍵となる一歩だ。その間、ボイジャー1号機のプラズマ波サブシステムは、探査機から遠く離れた我々の元にデータを送り返し続ける。ボイジャーによる度重なる新たな発見は、我々が存在する宇宙の家について常に再考させられる可能性を秘めている。
 

ボイジャーの詳細は以下からご覧頂きたい。

https://voyager.jpl.nasa.gov/
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office