NASA ボイジャー探査機「ボイジャー1号機、コマンド一時停止前にバックアップ・スラスターを再起動」

原文 : May 14, 2025 - NASA´s Voyager 1 Revives Backup Thrusters Before Command Pause
 


ミッションチームは、数十年前から使用停止となっていたスラスターを調整し、通信アンテナがアップグレードのためオフラインとなる前に作業を完了することを試みた。
 

Imahe caption :
NASA の宇宙機であるボイジャー探査機は、1977年に打ち上げられ、現在、時速約 35,000 マイル(56,000 キロメートル)で恒星間空間を飛行している。このアーティスト・コンセプトは、探査機の一つが高速で遠ざかっていく様子を描いている。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

カリフォルニア南部にある NASA JPL(ジェット推進研究所)のエンジニアたちは、2004年から使用不能とされていたボイジャー1号機の推進器セットを復活させた。推進器の修理・調整には創造性とリスクが伴ったが、チームは、燃料管に堆積物が蓄積し、今秋にも機能停止する可能性がある現在稼働中の推進器セットのバックアップとして、これらの推進器を準備したいと考えている。

さらに、ミッションは05月04日までに長期間使用されていなかったスラスターの可用性を確保する必要があった。この日以後、ボイジャー1号とその双子のボイジャー2号にコマンドを送信する地球向けのアンテナが、数ヶ月にわたるアップグレードのためオフラインになるためだ。
 

スラスターの目詰まり

ボイジャーは1977年に打ち上げられ、時速約 35,000 マイル(56,000 キロメートル)で恒星間空間を飛行している。両宇宙機は、アンテナを地球に向け続けるために上下左右にゆっくりと回転させるが、これは主要なスラスターセットに依存している。これにより、データを地球に送り返し、またはコマンドを受信することが可能となる。
主要スラスターのセット内には、探査機のロール運動を制御する他のスラスターが含まれている。地球から見たロール運動は、アンテナをビニール・レコードのように回転させ、各ボイジャーが自身の方向を定めるためのガイドスターを指し続けるようにしている。両宇宙機は、これらのロール運動用に主要なセットとバックアップのセットをそれぞれ備えている。

【外惑星のフライバイ中に宇宙船の軌道を変更するために設計された別のスラスター・セットは、2018年と2019年に宇宙船で再起動を試みたが、ロール運動を引き起こすことはできなかった。】

スラスター内の詰まりを修復するため、エンジニアは両方のボイジャーの主要スラスター、バックアップ・スラスター、軌道スラスターのセットを切り替えている。しかし、ボイジャー1号機では、二つの小さな内部ヒーターの電源喪失により、主要なロール・スラスターが2004年に機能停止してしまった。エンジニアは破損したヒーターが修復不可能と判断し、ボイジャー1号機のバックアップ・ロール・スラスターのみに依存してスター・トラッカーの向きを調整する方針を採用した。

「当時、チームは主要なロール・スラスターが機能しないことを受け入れることに問題は無かったと思う。なぜなら、完璧なバックアップがあったから」と、NASA のミッションを管理する JPL のボイジャー・ミッション・マネージャー、Kareem Badaruddin(カリーム・バダールディン)は述べた。
「正直なところ、当時の彼らはボイジャー・ミッションがさらに 20 年間継続するとは思っていなかったのだろう」

しかし、宇宙船のロール運動を制御する能力がなければ、ミッションを脅かすさまざまな問題が発生する可能性があるため、エンジニアリング・チームは2004年のスラスター故障の再検討に臨んだ。
彼らは、ヒーターの電源供給を制御する回路に予期せぬ変化や障害が発生し、スイッチが誤った位置に切り替わった可能性を疑い始めた。もしスイッチを元の位置に戻すことができれば、ヒーターが再び機能し、2004年から使用されてきたバックアップ・ロール・スラスターが完全に詰まってしまった場合でも、主要なロール・スラスターを再活性化して使用できるようになる可能性がある。
 

通信中断

解決にはいくつかの課題をクリアする必要があった。チームはまず休止状態のロール・スラスターを起動し、その後にヒーターの修理と再起動を試みる必要があった。その間、宇宙機のスター・トラッカーがガイド・スターから過度に逸脱した場合、長期間休止状態だったロール・スラスターが自動的に点火される仕組みになっていた(宇宙機のプログラムによるもの)。そして、スラスターが作動した際にヒーターがまだオフの状態であれば、小さな爆発を引き起こす可能性があったため、チームはスター・トラッカーを可能な限り正確に指向する必要があった。

これは時間との戦いであり、チームは追われるように時間的圧力を受けていた:2025年05月04日から2026年02月まで、オーストラリアのキャンベラにある NASA DSN(ディープ・スペース・ネットワーク)の一部である 230 フィート(70 メートル)幅のアンテナ「ディープ・スペース・ステーション 43(DSS - 43)」がアップグレード工事を実施する予定だった。その期間の大部分でオフラインとなり、08月と12月に短い期間のみ稼働する予定であった。

DSN は、地球の自転に伴い宇宙機との恒常的な通信を確保するため、世界中に均等に配置された三か所の複合施設(カリフォルニアのゴールドストーン、マドリード、オーストラリア)を有しているが、DSS - 43 はボイジャーにコマンドを送信するための十分な信号出力を持つ唯一のアンテナだ。

「これらのアンテナのアップグレードは、将来の有人月面着陸にとっても重要であり、また、ボイジャーが発見した成果を基盤とする深宇宙の科学ミッションの通信容量を拡大するものとなる」と、JPL のディープ・スペース・ネットワークを管理するボイジャー・プロジェクト・マネージャ兼インタープラネット・ネットワーク・ディレクターの Suzanne Dodd(スーザン・ドッド)は述べた。
「このようなダウンタイムは過去に経験したことがあるため、可能な限りの準備を進めていく」

チームは、08月に一時的に再稼働する予定のアンテナが使用可能になるまでに、長期間使用されていなかったスラスタが機能するように確認したいと考えていた。その時点で、現在ボイジャー1号で使用されているスラスタは完全に詰まっている可能性があったからだ。

【事前準備が功を奏した】
03月20日、チームは探査機が送信済みコマンドを実行する様子を観察した。ボイジャーへの遠大な距離のため、無線信号は探査機から地球まで 23 時間以上かかります。つまり、チームが観察した現象はほぼ一日前の履歴となる。もしテストが失敗していれば、ボイジャーは既に危険な状況に陥っていたかもしれない。しかし観察 20 分以内に、チームはスラスタのヒータ温度が急上昇するのを確認し、成功を確信した。

「それは本当に素晴らしい瞬間だった。その日のチームの士気は非常に高かった」と、JPLのミッション推進責任者である Todd Barber(トッド・バーバー)は述べた。
「これらのスラスタは死んだものとされていた。それは正当な結論だった。ただ、我々ののエンジニアの一人が、もしかしたら別の原因があり、それが修正可能かもしれないという洞察を持ったのが奇跡の始まりだった。これはボイジャーにとっては、また別の奇跡的な救済でもあった」

ボイジャー1号と2号は、それぞれ地球から約 150 億マイル(250 億キロメートル)と 130 億マイル(210 億キロメートル)の距離にある。四つの外惑星の探査を終えた後、これらは太陽の粒子と磁場によって生成される保護的な泡であるヘリオスフィアの外側、惑星の向こう側にある恒星間空間からデータを送信した唯一の探査機だ。

NASA のボイジャーミッションの詳細については、以下をご覧頂きたい。

https://voyager.jpl.nasa.gov/
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office