NEO (NEA) 地球近傍小天体探査「NASA ATLAS によって検出された地球周辺を周る小惑星は、月起源の岩塊か」

原文 : January 22, 2025 : Study Finds Earth´s Small Asteroid Visitor Likely Chunk of Moon Rock


この地球近傍天体(NEO)は、数千年前の何らかの衝突によって月から宇宙空間に放出された可能性が高い。そして今、この天体は小惑星や月の科学に新たな知見をもたらすかもしれない。
 

Imahe caption :
通常、小惑星(このアーティスト・コンセプトに描かれたようなもの)は、火星と木星の軌道の間にある小惑星メイン・ベルトから起源を有しているが、近地球天体の小さな一部天体は、衝突によって月面から宇宙空間に放出されたものかもしれない。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

地球近傍小天体 2024 PT5 は昨年、NASA の望遠鏡が、数ヶ月もの間、我々の惑星地球の近くに留まっているのを発見し、世界中の注目を集めた。幅約 33 フィート(10 メートル)のこの小惑星は、地球に危険をもたらすものではないが、太陽を回る軌道は我々の惑星の軌道と密接に一致しており、この小惑星が地球太陽周回軌道周辺で誕生した可能性を示唆している。

「Astrophysical Journal Letters(アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ)」誌に2025年01月14日付けで発表された研究によると、研究者たちは、2024 PT5 が地球系起源であるというさらなる証拠を集めた。

「我々は、この小惑星が月から来たかもしれないという一般的な考えを持っていたが、決定的な証拠は、それが珪酸塩鉱物に富んでいることを発見した時であった。スペクトルが赤くなるような宇宙風化作用がないことから、この小惑星はあまり長い間宇宙にいなかったように見える」と、研究を率いたアリゾナ州ローウェル天文台の天文学者、Teddy Kareta(テディ・カレタ)は言った。

この小惑星は2024年08月07日に、NASA 予算で設置されたハワイ大学の Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System(小惑星地球衝突最終警告システム:ATLAS)の南アフリカのサザーランド望遠鏡によって最初に検出された。カレタのチームは、ローウェル・ディスカバリー・テレスコープとハワイのマウナケア天文台にある NASA Infrared Telescope Facility(赤外線望遠鏡施設:IRTF)の観測から、この小天体の表面から反射された太陽光のスペクトルは、既知のどのタイプの小惑星のものとも一致せず、その代わりに、反射光は月の岩石により近いものであることを示した。
 

過去のロケット残骸ではない

第二の手がかりは、物体の動きを観察することから得られた。小惑星と並んで、過去に打ち上げられたロケットなどの残骸も、地球に似た軌道で見つかることがある。

その軌道の違いは、太陽からの光の粒子である光子の運動量が、宇宙空間で固体の物体にぶつかったときに小さな力を発揮することから生じる太陽放射圧に、それぞれのタイプがどのように反応するかに関係している。多くの光子によるこの運動量の交換は、時間とともに物体をわずかに押しやり、速度を速めたり遅くしたりする。中空のロケットブースターのような人間が作った物体は、風に吹かれた空き缶のような動きをするが、小惑星のような自然の物体は、それほど影響を受けない。

Imahe caption :
小惑星 2024 PT5 を研究する科学者たちは、そのループ状の運動を二つのグラフにプロットした。専門家の目から見ると、これらのグラフは、その天体が地球の重力に捕獲されることなく、代わりに太陽の周りを回る軌道に戻る前に、地球の近くで一時的に留まることを示している。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

2024 PT5 が宇宙ゴミであることを否定するために、南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)が管理する地球近傍天体研究センター(CNEOS)の科学者たちは、その動きを分析した。重力下での物体の動きを精密に計算した結果、最終的に太陽放射圧による付加的な動きを探索することができた。しかしこの場合、物体が人工的なものであるにしては影響が小さすぎることが判明し、2024 PT5 が自然起源の可能性が高いことが証明された。

「スペースデブリと宇宙を漂う岩石は、宇宙空間での動きが若干異なる」と、CNEOS チームと共同研究を行っている JPL の Oscar Fuentes-Munoz(オスカー・フエンテス・ムニョス:NASA 博士研究員)は述べた。
「人間が作った破片は通常比較的軽く、太陽光の圧力に押し流される。2024 PT5 がこのように動かないということは、スペースデブリよりもはるかに密度が高いことを示している」
 

小惑星・月の研究

2024 PT5 の発見により、月に由来すると考えられている既知の小惑星の数が倍増した。2016年に発見された小惑星 469219 Kamo'oalewa は、地球と同じような軌道で太陽の周りを回っており、この小惑星も大きな衝突の後に月表面から放出された可能性があることを示している。望遠鏡がより小さな小惑星に敏感になるにつれて、より多くの潜在的な月のボルダーが発見され、小惑星の珍しい集団を研究する科学者だけでなく、月を研究する科学者にとってもエキサイティングな機会が生まれるだろう。

もし月の小惑星が月の特定の衝突クレーターに直接関連づけることができれば、その小惑星を研究することで、ポックマーク(あばた状)で覆われた月面のクレーター形成過程についての洞察を得ることができる。また、地球の近くを通過した小惑星という形で、月面の地下深くにある物質も、将来の科学者が研究できるようになるかもしれない。

「これは、小惑星の科学者が語る月の物語だ」とカレタは言う。
「小惑星を研究するために出かけたが、2024 PT5 に問うことができるという点で、新しい領域に迷い込んだという珍しい状況なのだ」

ATLAS、IRTF、CNEOS プロジェクトは、ワシントンの NASA 本部にある惑星防衛調整室によって管理されている NASA の惑星防衛プログラムから予算を附されている。
 

小惑星・彗星のニュースや最新情報は、Twitter の @AsteroidWatch をフォローしておくと便利だ。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office