Dawn Mission「NASA Dawn(ドーン)探査機が巨大小惑星 Vesta(ベスタ)探査で発見した溝をさらに精査する」

原文 : December 20, 2024 - Lab Work Digs Into Gullies Seen on Giant Asteroid Vesta by NASA´s Dawn
 

フロー形成として知られるこれらの水路状構造は、真空である宇宙空間にさらされているため、液体存在には不向きと思われる天体に刻み込まれたように見えるかもしれない。
 

Imahe caption :
NASA Dawn(ドーン)探査機は、2012年に巨大な小惑星ベスタの軌道を離れる際にこの画像を撮影した。フレーミング・カメラは画像の中央にある北極を見下ろしていた。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA
 

太陽系の多くの天体の表面はクレーターだらけで、46 億年もの間、隕石やその他の宇宙ゴミに打ちのめされてきたことを、その表面ははっきりと物語っている。しかし、ドーン探査機が探査した巨大小惑星ベスタを含むいくつかの天体では、表面に深い溝(ガリー)があり、その起源は完全には解明されていない。

代表的な仮説は、隕石衝突などの地球物理学的プロセスや、太陽への露出による温度変化によって引き起こされた、乾燥したデブリの流れから形成されたというものである。しかし、NASA 支援による最近の研究では、ベスタの衝突が、未だ明かされてはいない地質学的プロセス、すなわち、溝を刻み、堆積物の扇状地を堆積させる突発的な短時間の水流を引き起こした可能性があることを示すいくつかの証拠が得られている。「Planetary Science Journal」誌に掲載されたこの研究は、ベスタの状況を模倣する実験装置を使うことで、水流となる液体が何からできていたのか、そして凍結するまでに要した時間の流れを初めて詳説した。

ベスタに凍った塩水が堆積していることは未確認だが、科学者たちは以前、隕石の衝突によって、ベスタのような惑星の表面下にある氷が露出して溶けた可能性があるという仮説を立てた。そのシナリオでは、このプロセスによって生じた流れが、地球と同じような溝やその他の表面の特徴を刻んだ可能性がある。

しかし、空気のない世界(大気のない天体で、宇宙の強烈な真空にさらされている)が、液体が流れて溝を造るのに十分な時間、地表に液体を保つことができるだろうか?そのようなプロセスは、液体は真空中ですぐに不安定化し、圧力が下がると気体に変化するという理解とは反する。

「衝撃が表面で液体の流れを引き起こすだけでなく、液体が表面の構造を作り出すには十分な活動時間が必要だ」と、実験が行われた南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)のプロジェクト・リーダーで惑星科学者の Jennifer Scully(ジェニファー・スカリー)は言う。
「どのくらいの期間なのか?ほとんどの液体は、このような大気のない天体ではすぐに不安定になってしまう」

重要な成分は塩化ナトリウム、つまり食卓塩であることが判明した。実験によると、ベスタのような条件下では、純水はほとんど瞬時に凍るが、塩辛い液体は少なくとも1時間は流動性を保つことがわかった。
サンアントニオにある Southwest Research Institute(サウスウエスト研究所)の主執筆者 Michael J. Poston(マイケル・J・ポストン)は、「これは、ベスタで確認された流体による表面構造を形成するのに十分な時間だ」と語る。

2007年に打ち上げられたドーン探査機は、火星と木星の間にあるメイン・ベルト小惑星帯に移動し、ベスタを 14 カ月間、ケレスを約 4 年間周回した。2018年にミッションが終了する前に、ケレスには表面下にかん水の貯蔵庫があり、現在も内部から地表にかん水が移動している可能性があるという証拠を発見した。最近の研究は、ケレスのプロセスについての洞察を提供しつつも、氷と塩が衝突によって加熱されたときに塩辛い液体を生成する可能性があるベスタに焦点を当てているのだと科学者たちは述べていた。
 

ベスタ環境を地上で再現する

隕石衝突後のベスタのような状態を再現するために、科学者たちは JPL の DUSTIE(Dirty Under-vacuum Simulation Testbed for Icy Environments)と呼ばれる実験室を利用した。液体サンプルを取り囲む気圧を急速に下げることで、表面にやってくる液体の周りの環境を模倣した。真空状態にさらされた純水は瞬時に凍結した。しかし、塩分を含んだ液体は、凍結する前に流れ続け、相当時間長く留まった。

彼らが実験した塩水は、1インチ(数センチ)強の深さだった。科学者たちは、数ヤードから数十ヤードの深さがあるベスタでの流れは、再凍結にさらに時間がかかるだろうと結論づけた。

研究者たちはまた、塩水の上に形成されると考えられている凍った物質の「ふた」を再現することもできた。本質的に凍った上層部である蓋は、その下にある液体を安定させ、宇宙の真空(この場合は DUSTIE チャンバーの真空)にさらされないように保護し、再び凍結する前に液体が長く流れることを助ける。

この現象は、地球上で溶岩が冷たい地表温度にさらされたときよりも溶岩チューブ内でより遠くまで流れるのと似ている。また、火星の泥火山の可能性や、木星の衛星エウロパの火山から氷を噴出した可能性のある火山のモデリング研究とも一致する。

「私たちの結果は、実験室での実験を用いて、様々な世界で液体がどれくらい持続するかを理解するための、増えつつある研究成果を現実に近づけるものなのだ」とスカリーは語った。
 

More About the Mission(ミッションの詳細)

カリフォルニア州パサデナにあるカリフォルニア工科大学の一部門である JPL ジェット推進研究所は、ドーン・ミッションを管理する。ドーンは、アラバマ州ハンツビルにある NASA マーシャル宇宙飛行センターによって管理されている総局のディスカバリー計画プロジェクトである。JPL は、ドーン・ミッションサイエンス全体を担当し、バージニア州ダレスのノース・ロップ・グラマンは、宇宙船を設計および製造した。ドイツ航空宇宙センター、マックス・プランク太陽系研究所、イタリア宇宙機関、イタリア国立天体物理学研究所は、ミッションチームの国際的なパートナーである。
 

ミッションの詳細については、以下を参照いただきたい。

Dawn
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO. TPSJ Editorial Office