NASA ボイジャー探査機「ボイジャー1号機、トリッキーなスラスター交換が成功!」

原文 : September 10, 2024 - Voyager 1 Team Accomplishes Tricky Thruster Swap
 


ボイジャー探査機はスラスタを使って地球方向を向いているが、宇宙滞在 47 年を経て、スラスタに配られた燃料チューブの一部が詰まってしまった。
 

Imahe caption :
NASA ボイジャー探査機の模型。双子のボイジャーは1977年から飛行し、太陽圏の外側を探査している。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

NASA 探査機 Voyager(ボイジャー)1号機運用チームのエンジニアたちは、探査機のスラスタの問題を軽減することに成功した。このスラスタは、地上局からのコマンドを受信し、エンジニアリング・データを送り返し、収集中のユニークな科学データを提供できるように、はるか遠方に位置する探査機を地球方向に向け続けている。

スラスタ内部の燃料チューブが 47 年の歳月を経て、二酸化ケイ素で目詰まりを起こしたのである。この目詰まりは、スラスタが効率よく力を発生させる能力を低下させる。数週間にわたる入念な計画の後、チームは別のスラスタに切り替えた。

このスラスタの燃料は液体ヒドラジンであり、気体になって数十ミリ秒のパフで放出され、探査機のアンテナを地球に向かって緩やかに傾ける。もし詰まったスラスタが健全であれば、この短いパルスを 1 日に約 40 回行う必要がある。

ボイジャーの両探査機は、3 セットのスラスタを備えている。2 セットの姿勢推進用スラスターと 1 セットの軌道修正用マヌーバ・スラスタである。ミッションにおいて惑星フライバイの際には、両方のタイプのスラスタが異なる目的で使用された。しかし、ボイジャー1号機は太陽系外への不変の航路を進むため、スラスターの必要性はよりシンプルになり、どちらのスラスターでも探査機を地球に向けることができる。

2002年、南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)を拠点とするミッションのエンジニアリング・チームは、ポインティングに使用されている姿勢推進スラスタ・ブランチの燃料チューブの一部が詰まっていることに気づき、第 2 ブランチに切り替えた。2018年にそのブランチに目詰まりの兆候が見られたため、チームは軌道修正マヌーバ・スラスタに切り替え、それ以来そのブランチを使用している。

現在、これらの軌道修正スラスタ・チューブは、2018年にチームが切り替えたときの元のブランチよりもさらに詰まっている。詰まったチューブはスラスタ内部にある。このチューブによって燃料を触媒床に導き、そこでガスに変える。(これらはヒドラジンをスラスタに送る燃料チューブとは異なる)。チューブ開口部の直径はもともと 0.01 インチ(0.25 ミリメートル)しかなかったが、目詰まりによって 0.0015 インチ(0.035 ミリメートル)、つまり人間の髪の毛の約半分の幅にまで小さくなった。その結果、チームは姿勢推進スラスタの分岐を一つに戻す必要が生じた。
 

スラスタのウォームアップ

異なるスラスタへの切り替えは、1980年、あるいは2002年のミッションでは比較的簡単な作業だっただろう。しかし、探査機の老朽化によって、主に電力供給と温度に関する新たな課題が生じた。このミッションでは、プルトニウムの崩壊によって生成され、徐々に減少していく電力を節約するため、1、2号両探査機で、一部のヒータを含む、必要でない搭載システムをすべてオフにした。

このような措置は電力を削減するために有効であったが、同時に探査機の寒冷化を招き、熱を発生させる他の必須ではなかったシステムの停止によってその影響はさらに大きくなった。その結果、姿勢推進スラスタへの供給パイプが冷たくなり、その状態でスラスタの電源を入れると、パイプが損傷してスラスタが使えなくなる恐れがあった。

チームは、スイッチの前に、不要なヒータをオンにしてスラスタを温めるのが最良の選択だと判断した。しかし、ボイジャー・チームが直面した多くの困難と同様に、これは「パズル」となった。探査機の電力供給は非常に低いため、必要でないヒータをオンにすると、ヒータに十分な電力を供給するために他の何かをオフにしなければならなくなる。

この問題を検討した結果、まだ稼働中の科学機器のひとつを期間限定でオフにすることは、その機器がオンラインに戻らなくなる危険性があるため、除外された。さらなる調査と計画の結果、エンジニアリング・チームは、探査機のメイン・ヒータの一つを一時間まで安全にオフにし、スラスタ・ヒータをオンにするのに十分な電力を確保できると判断した。

それは成功した。08月27日、彼らは必要なスラスタ・ブランチが活動を再開し、ボイジャー1号機を地球に向けていることを確認した。

「我々が今後下さなければならない決断は、かつてよりもずっと多くの分析と慎重さを必要とすることになるだろう」とボイジャーを管理している JPL(ジェット推進研究所)のボイジャー・プロジェクト・マネージャー、Suzanne Dodd(スザンヌ・ドッド)は語った。

ボイジャーズ探査機は星間空間を探査している。太陽によって作られた粒子と磁場の泡の外側の領域で、他の宇宙機が今後も長い間訪れることのない場所である。ミッションの科学チームは、ボイジャー両探査機を可能な限り長く継続させ、星間環境がどのようなものかを明らかにし続けられるよう取り組んでいる。

ボイジャーの詳細は以下からご覧頂きたい。

https://voyager.jpl.nasa.gov/
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office