NASA 氷衛星探査機 Europa Clipper「エウロパ・クリッパー探査機、超大型太陽電池アレイの取り付け完了」

原文 : August 27, 2024 : NASA´s Europa Clipper Gets Set of Super-Size Solar Arrays


NASA が惑星探査のために建造した、これまでで最大の宇宙機が、木星の氷衛星エウロパへの旅で電力を供給するための巨大な太陽電池アレイという「翼」を手に入れた。
 

Imahe caption :
08月21日に、フロリダ州のケネディ宇宙センターで撮影されたエウロパ・クリッパー。エンジニアと技術者は、巨大な太陽電池アレイを展開し、飛行中に動作することを確認するためにテストを行った。
Credit : NASA/Frank Michaux
 

エウロパ・クリッパー宇宙機は過日、フロリダにある KSC(ケネディ宇宙センター)で、巨大な太陽電池アレイを装備した。各アレイの長さは約 46.5 フィート(14.2 メートル)、高さは約 13.5 フィート(4.1 メートル)で、NASA が惑星ミッション用に開発した中で最大のものである。地球 - 太陽間の5倍ほどの遠い距離に在る木星衛星エウロパを探査機が観測する間、できるだけ多くの太陽光を吸収できるよう、アレイは大きくなければならない。

アレイは打ち上げのために折り畳まれ、宇宙船本体に固定されているが、宇宙空間で展開されると、エウロパ・クリッパーは 100 フィート(30.5 メートル)以上の長さになる。エンジニアたちが 「ウィング」と呼ぶその大きさは、KSC のペイロード・ハザード・サービス施設のクリーンルームで一度に片方ずつしか開けることができないほどだ。
 

深宇宙惑星間航行
 

Imahe caption :
エウロパ・クリッパー探査機は、エンジニアと技術者が宇宙船の巨大な太陽電池アレイをテストし、収納した。ケネディ宇宙センターのクリーンルームで08月21日に撮影。(レイアウトの都合で 90 度左に傾けた。)
Credit : NASA/Frank Michaux
 

一方、エンジニアたちは、宇宙機に搭載されるトランジスタの耐放射線性テストを評価し続けている。探査機は2030年に木星系に到着するまでに 5 年以上かかるため、寿命が鍵となる。ガス惑星木星の軌道を周回する際、探査機は何度もエウロパのそばをフライバイし、氷殻の下にある海が生命を維持できる環境であるかどうかを調べるために一連の科学機器を駆使する。

太陽系内で地球が浴びる太陽光の 3% から 4% しかない地域で、これらのフライバイ観測に電力を供給するため、各太陽電池アレイは 5 枚のパネルで構成されている。メリーランド州ローレルにあるジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所(APL)とオランダのライデンにあるエアバス社で設計・製造されたこの太陽電池パネルは、一般家庭で使用されるタイプの太陽電池アレイよりもはるかに感度が高く、電力を効率よく活用する宇宙機は発電した電力を最大限に利用する。

木星では、エウロパ・クリッパーのアレイは合計でおよそ 700 ワットの電力を発生、供給する。これは小型の電子レンジやコーヒーメーカーが作動するのに必要なレベルの電力である。宇宙機では、バッテリーがすべての電子機器、科学機器、通信機器、コンピューター、24 基のエンジンを含む推進システム全体を動かすための電力を蓄える。

その一方で、アレイは極寒の中で動作しなければならない。木星の影に入ると、ハードウェアの温度は華氏マイナス 400 度(摂氏マイナス 240 度)まで急降下する。この極限状態でもパネルが動作することを確認するため、エンジニアたちはベルギーのリエージュ宇宙センターの特殊な極低温室でテストを行った。

「宇宙機は快適だ。宇宙船にはヒーターとアクティブ・サーマル・ループがあり、通常の温度範囲に保たれている」と APL のソーラーアレイ製品デリバリー・マネージャ、Taejoo Lee(テジュ・リー)は言う。
「しかし、太陽電池アレイは、ヒーターなしで宇宙の真空にさらされている。完全に受動的だ。なので、どんな環境であろうと、その温度が太陽電池アレイの温度となるのだ」

打ち上げから約 90 分後、アレイは折り畳まれた状態から約 40 分かけて展開する。およそ二週間後、アレイに固定された 6 本のアンテナもフルサイズに展開される。このアンテナは、月の厚い氷殻の中や下にある水を探査するレーダー装置用のもので、アレイに垂直に 57.7 フィート(17.6 メートル)の長さまで展開する巨大なものだ。

「プロジェクト開始当初は、この巨大なアンテナを保持するのに十分な強度を持つソーラーアレイを開発するのは不可能に近いと思っていた」とリーは言う。
「しかし、チームはこの難題に多くの創造性を発揮し、私たちはそれを解決した」
 

More About the Mission(ミッションの詳細)

エウロパ・クリッパーの三つの主な科学目的は、衛星の氷殻の厚さとその下の海との相互作用を決定すること、衛星の組成を調査すること、そして衛星の層構造、形成物質を評価することである。このミッションによるエウロパの詳細な探査は、私たちの惑星以外の生命存在可能な世界の宇宙生物学的可能性を科学者がよりよく理解するのに役立つだろう。

カリフォルニア州パサデナにあるカリフォルニア工科大学が管理する NASA JPL(ジェット推進研究所)は、メリーランド州ローレルにあるジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所と共同で、ワシントンにある NASA の科学ミッション本部主管のエウロパ・クリッパー・ミッションの開発を主導している。宇宙機本体は、JPL とメリーランド州グリーンベルトの NASA ゴダード宇宙飛行センター、アラバマ州ハンツビルの NASA マーシャル宇宙飛行センター、バージニア州ハンプトンの NASA ラングレー研究センターと共同で APL が設計した。マーシャル宇宙飛行センターの惑星ミッション・プログラム・オフィスは、エウロパ・クリッパー・ミッションのプログラム・マネージメントを行っている。

ケネディを拠点とする NASA の打上げサービス・プログラム・チームは、ケネディの打上げ施設 39A からスペース X 社のファルコン・ヘビーロケットで打ち上げられるエウロパ・クリッパー宇宙機を管理している。

エウロパクリッパーの詳細については、以下を参照いただきたい。

NASA´s Europa Clipper
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office