NASA Cassini-Huygens(カッシーニ・ホイヘンス)mission「カッシーニ・データから、エンケラドスで生命を生み出すエネルギー源と分子を発見」

原文 : December 14, 2023 : NASA Study Finds Life-Sparking Energy Source and Molecule at Enceladus


ある研究が、NASA の Cassini(カッシーニ)探査機が土星の氷衛星で収集したデータにズームインし、生命にとって重要な成分と、その燃料となる超強力なエネルギー源の証拠を発見した。
 

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土星衛星エンケラドスの氷下海洋からの水が、巨大な亀裂から宇宙空間に吹き出している。2010年にこの画像を撮影した NASA の探査機カッシーニは、氷の粒子を採取し、科学者たちはデータから新たな発見をし続けている。
Credit : NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute
 

科学者たちは、土星の衛星 Enceladus(エンケラドス)から噴出している氷の粒と水蒸気の巨大なプリュームに有機化合物が豊富に含まれていることを確認していた。現在、NASA カッシーニ・ミッションのデータを分析する科学者たちは、生命棲息可能性の証拠を求めてさらに一歩進む。彼らは、生命の起源の鍵となる分子であるシアン化水素の存在が確かなものであることを強く認識した。

研究者たちはまた、衛星の表面氷殻の下からプリュームを供給している海洋状が、強力な化学エネルギー源を保持しているという証拠も発見した。このエネルギー源は、地球上では生物の燃料となる有機化合物である。

12月14日(木)に「Nature Astronomy」誌に発表されたこの発見は、この小さな衛星の内部には、これまで考えられていたよりもはるかに多くの化学エネルギーが存在する可能性を示している。利用可能なエネルギーが多ければ多いほど生命が増殖し、維持される可能性は高くなる。

「我々の研究は、エンケラドスが生命の構成要素を作り出し、代謝反応によって生命を維持するために最も重要な分子を宿主としていることのさらなる証拠となる」と、南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)で働きながら研究の大部分を行ったハーバード大学の博士課程学生である主著者の Jonah Peter(ジョナ・ピーター)は語った。
「エンケラドスは生命存在のための基本的な条件を満たしているように見えるだけでなく、複雑な生体分子がそこでどのように形成されるのか、またどのような化学的経路が関与している可能性があるのかを我々は今理解し始めた」
 

万能でエネルギッシュ

「シアン化水素の発見は、生命の起源に関するほとんどの理論の出発点であるため、かなり興奮した」とピーターは言う。我々が知るように、生命はアミノ酸のような構成要素を必要とし、シアン化水素はアミノ酸を形成するのに必要な最も重要で万能な分子のひとつだ。シアン化水素の分子はさまざまに積み重ねることができるため、著者たちはシアン化水素をアミノ酸前駆体の「スイス・アーミー・ナイフ」と呼んでいる。

「代替モデルを検証して、われわれの結果に穴を開けようとすればするほど、逆にその証拠はより強固なものになっていった」とピーターは語る。
「最終的には、シアン化水素を含まずに、プリュームから得られたデータの化学組成を一致させる方法はないことが明らかになった」
 

2017年、科学者たちはエンケラドスにおいて生命が存在した場合、その海洋内で生命を維持するための化学的証拠を発見した。プリューム内の二酸化炭素、メタン、水素の組み合わせは、メタンを生成する代謝プロセスを示唆していた。メタン生成は地球上に広く存在し、私たちの惑星の生命の起源に重要であった可能性を持つ。

著者らは酸化された有機化合物の数々を発見し、エンケラドスの氷殻下海洋には生命を維持するための化学的経路が数多く存在する可能性を科学者たちに示した。酸化は化学エネルギーの放出を促進するからだ。

「メタン生成が、エネルギーという点では小さな腕時計の電池のようなものだとすれば、我々が導いた結果は、エンケラドスの海洋が、存在するかもしれない生命に大量のエネルギーを供給できる、車のバッテリーのような役割を提供するかもしれないことを示唆している」と、この研究の共著者であり、新たな結果につながった取り組みの主任研究者である JPL の Kevin Hand(ケビン・ハンド)は語った。
 

数学が導く

カッシーニがエンケラドスで発見した状況を再現するために実験室での実験や地球化学モデリングを用いた以前の研究とは異なり、新しい研究の著者たちは詳細な統計分析に頼った。彼らは、土星周辺のガス、イオン、氷粒を研究するカッシーニのイオン・中性質量分析計によって収集されたデータを調べた。

データに含まれる情報量を定量化することで著者らは、異なる化学化合物がカッシーニ・データからのシグナルをどの程度説明できるかという微妙な違いを突き止めることができた。

「観測されたデータを一致させようとするとき、パズルのピースのように組み合わされる可能性のあるものがたくさんある」とピーターは言う。
「我々は、限られたデータセットを過剰に解釈することなく、どのパズルのピースの組み合わせがプリューム組成に最もマッチし、データを最大限に活用できるかを解明するために、数学と統計モデリングを使用した」

科学者たちにとって、エンケラドスで生命が誕生したかどうかの答えを出すには、まだ長い道のりがある。しかし、ピーターが指摘したように、この新しい研究は、研究室でテストすることができる生命の化学的経路を示すものとなっている。

一方でカッシーニ・ミッションは、エンケラドスが活動的な衛星であることを明らかにした後も、ずっと探査を続けていた。2017年、探査機を意図的に土星の大気圏に突入させることでこのミッションは終了した。
「我々が今も行う研究は、カッシーニ・ミッションが終了した一方で、その観測が土星とその衛星(謎に包まれたエンケラドスを含む)についての新たな洞察を我々に提供し続けていることを示している」と、研究の共著者であり、カッシーニ・チームのメンバーであった JPL の惑星科学者である Tom Nordheim(トム・ノードハイム)は語った。
 

More About the Mission(ミッションの詳細)

カッシーニ・ホイヘンス・ミッションは、NASA、ESA(欧州宇宙機関)、イタリア宇宙機関の共同プロジェクトである。カリフォルニア州パサデナにあるカリフォルニア工科大学の一部門である JPL(ジェット推進研究所)は、ワシントンにある NASA 科学ミッション本部(Science Mission Directorate)総括の下、ミッションを管理した。JPL はまた、カッシーニ探査機の設計、開発、組み立ても担っている。

カッシーニ・ホイヘンス・ミッションの詳細については、以下を参照いただきたい。

Cassini-Huygens
 

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Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.

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2023-120



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office