Space Topics 2023
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NASA ボイジャー・チーム、ソフトウェア・パッチの適用とスラスタの延命に注力
NASA ボイジャー探査機「NASA ボイジャー・チーム、ソフトウェア・パッチの適用とスラスタの延命に注力」
原文 : October 20, 2023 - NASA's Voyager Team Focuses on Software Patch, Thrusters
この取り組みは、NASAの恒星間探査機の寿命を延ばすのに役立つはずだ。
NASAのボイジャー1号は、2012年に太陽圏を脱出して星間空間(星と星の間の空間)に突入し、異なる軌道を旅する双子のボイジャー2号は、2018年に1号に続いた。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
NASA の Voyager mission(ボイジャー・ミッション)のエンジニアたちは、1977年に打ち上げられた両宇宙機が、今後何年にもわたって恒星間空間を探査し続けられるようにするための対策を講じている。
その取り組みのひとつが、宇宙機のスラスタの一部にある細いチューブの内部に蓄積していると思われる燃料の残留物に対処することである。このスラスタは、各宇宙機のアンテナを地球に向け続けるために使用される。この種の蓄積は、他の宇宙機でもいくつか確認されている。
チームはまた、昨年ボイジャー1号で発生した不具合の再発を防ぐためのソフトウェア・パッチもアップロードしている。エンジニアたちはこの不具合を解決したが、このパッチはボイジャー1号で再びこの問題が発生したり、双子のボイジャー2号で発生したりするのを防ぐためのものである。
Thruster Buildup(スラスタ内部の蓄積)
ボイジャー1号と2号のスラスタは、主に通信のために宇宙機のアンテナを地球に向け続けるために使用されている。宇宙機は上下、左右、そして車輪のように中心軸の周りの三方向に回転することができる。その際、スラスターが自動的に噴射され、宇宙機のアンテナが地球を向くように向きを変える。
推進剤は燃料ラインを通ってスラスタに流れ、外部燃料ラインよりも 25 倍細い推進剤インレットチューブと呼ばれるスラスタ内部の細いラインを通る。スラスタが噴射するたびに推進剤の残留物が微量ずつ加わり、数十年にわたって徐々に蓄積されていく。推進剤インレットチューブの一部では、その蓄積が著しくなってきている。この蓄積を遅らせるため、ミッションではスラスターを噴射する前に、二機の宇宙機をそれぞれの方向に少し遠くまで回転させることを始めた。これにより、スラスタ噴射の頻度を減らすことができる。
スラスタ回転範囲の調整は、本年09月と10月に送信されたコマンドによって行われ、これによって探査機は各方向に従来よりもほぼ 1 度ずつ遠くまで移動できるようになった。また、ミッションはより少ない回数でより長い噴射を行い、各宇宙船で行われる噴射の総数をさらに減らすことになる。
この調整は、ミッションへの影響を最小限に抑えるために慎重に考案された。探査機がより多く回転することは、科学データの断片が時折失われることを意味するが、それは電話の相手との会話が時折途切れるのと同じようなものである。
エンジニアたちは、スラスタの推進剤注入チューブがいつ完全に詰まるかを確実に知ることはできないが、これらの予防策を講じれば、少なくともあと 5 年、場合によってはもっと長い間、詰まることはないだろうと予想している。チームは、スラスタの寿命をさらに延ばすために、今後数年のうちにさらなる対策を講じることができる。
南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)で、このミッションのプロジェクト・サイエンティストに最近就任した Linda Spilker(リンダ・スピルカー、元カッシーニ PI)は、「ミッションが始まってここまで、エンジニアリング・チームは、私たちがプレイブックを持っていない多くの課題に直面している。それでも彼らは、創造的な解決策を考え出し続け、総てを克服し続けてきた」と語る。
Patching Things Up(パッチ・アップ)
2022年、ボイジャー1号に搭載されたコンピュータが、他に異常が見られず正常に動作しているにもかかわらず、文字化けしたステータスレポートを送り返すようになった。ミッション・エンジニアが問題を特定するのに数カ月を要した。姿勢制御システム(AACS)がコマンドを誤送信し、それを実行せずにコンピュータのメモリに書き込んでいたのだ。そのミスコマンドのひとつが、地上のエンジニアに届く前に AACS のステータスレポートを文字化けさせてしまったのだ。
チームは AACS が誤ったモードに入ったと判断したが、原因を特定できなかったため、この問題が再び発生するかどうかはわからない。ソフトウェア・パッチはそれを防ぐものだ。
JPL のボイジャー・プロジェクトマネージャーである Suzanne Dodd(スザンヌ・ドッド)は、「このパッチは、将来にわたって我々を守り、これらの探査機を可能な限り長く継続させるための保険のようなものだ。これらの探査機は、恒星間宇宙で活動した唯一の探査機であり、彼らが送り返すデータは、我々の住む宇宙を理解する上で、他に類を見ない貴重なものとなっている」と語った。
ボイジャー1号は地球から 150 億マイル以上、ボイジャー2号は 120 億マイル以上を旅している。この距離では、パッチの指示は探査機まで 18 時間以上かかる。宇宙機の年齢と通信のタイムラグにより、パッチが必要不可欠なコードを上書きしたり、宇宙機に意図しない影響を与える危険性がある。そのようなリスクを減らすために、チームは数ヶ月かけてコードを書き、見直し、チェックしてきた。さらに安全上の予防措置として、ボイジャー2号が先にパッチを受け取り、双子のテストベッドとして機能する。ボイジャー1号は他のどの探査機よりも地球から遠いため、そのデータはより貴重なものとなるためだ。
チームは10月20日にパッチをアップロードし、AACS メモリの読み出しを行って、それが正しい場所にあることを確認する。すぐに問題が生じなければ、チームは10月28日(土)にコマンドを発行し、パッチが正常に動作しているかどうかを確認する。
ボイジャーの詳細は以下からご覧頂きたい。
Akira IMOTO
Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan