NASA 氷衛星探査機 Europa Clipper「エウロパクリッパーと地球のホットライン:ハイゲイン・アンテナ据え付け完了」

原文 : August 15, 2023 : NASA’s Europa Probe Gets a Hotline to Earth


2024年10月に打ち上げられる NASA Europa Clipper spacecraft(エウロパ・クリッパー宇宙機)は、数億マイル離れたミッション・コントローラーとの通信のための高利得アンテナの装備を完了した。
 

Imahe caption :
JPL のメインクリーンルームで、エウロパ・クリッパー本体にハイゲイン・アンテナを設置するエンジニアと技術者。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

NASA エウロパ・クリッパーは、氷に覆われた木星の衛星エウロパが、生命存在に適しているかを探査するために設計されている。08月14日、探査機はその探査の中心となるハードウェアの一部、巨大な皿状のハイゲインアンテナを装備した。

探査機本体横幅を超える長さ 3 m(10 フィート)のハイゲイン・アンテナは、エウロパ・クリッパーに搭載される種々のアンテナの中で最も大きく、最も目立つものである。探査機は、地球から約 4 億 4400 万マイル(約 7 億 1500 万キロメートル)離れた、探査機の名前の由来となった氷に覆われた木星衛星エウロパを観測するために、このアンテナは必須だ。ミッションの主な目標は、生命生存可能な環境があるかもしれないエウロパの地下海洋について、さらに詳しく知ることである。
 


設置作業の動画。
 

探査機が木星に到達すると、アンテナは地球に向けられる。その指向性の高い電波を発するのが、ハイゲイン・アンテナだ。この名前は、アンテナのパワーを集中させる能力を意味し、探査機が地球各所にある NASA DSN(ディープ・スペース・ネットワーク)に高出力の信号を送り返すことを可能にする。つまり、多量の科学データを高速で送信することができるのだ。

緻密な構造のアンテナは、南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)の Spacecraft Assembly Facility bay(宇宙船組立施設)で、数時間かけて取り付けられた。
アンテナ設置の数日前、Matthew Bray(マシュー・ブレイ)は「アンテナの運用項目すべての試験をクリアした」と語った。
最終テストの完了後、無線信号をループバックさせることによって、電気通信信号経路が機能していることを確認する。

メリーランド州ローレルにあるジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所(Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory、略称 APL)を拠点とするマシュー・ブレイは、2014年に着手したハイゲイン・アンテナの設計者兼リード・エンジニアである。ブレイにとって、そしてアンテナにとって、ここまでの旅は非常に長いものだった。

この一年間、彼は探査機にアンテナを据え付けるまでに全米を横断してきた。2022年には、バージニア州ハンプトンにある NASA ラングレー研究センターでデータを正確に電波として発する能力のテストを二度行った。この二度の訪問の間に、アンテナはメリーランド州グリーンベルトにある NASA ゴダード宇宙飛行センターにも立ち寄り、打ち上げ時の揺れや宇宙空間の極端な温度環境に耐えられるかどうかの確認のために、振動と熱真空試験を行った。

その後、2022年10月に JPL に運ばれ、フロリダのNASAケネディ宇宙センターへの来年出荷に向けて探査機本体に取り付けられた。

木星への長い旅は、2024年10月にケネディから打ち上げられることから始まる。
 

エウロパを目指すために

「ハイゲインアンテナは、エウロパ・クリッパー探査機を構築する上で最適で重要な組み合わせだ」と JPL のクリッパー・プロジェクトマネージャである Jordan Evans(ジョーダン・エヴァンス)は言う。
「この装備により、探査機がエウロパから科学データを送り返すために必要な能力を得られる。これにより、打ち上げに向けた重要な最終テストの準備が整った」

クリッパー探査機には九つの主要な科学機器が搭載され、大量のデータ取得を目指す。
エウロパの地質と表面を研究するための高解像度のカラー画像とステレオ画像、表面近くに水がある可能性のある暖かいエリアを見つけるための赤外線の熱画像、氷、塩、有機物をマッピングするための反射赤外線、大気ガスと表面物質の構成を決定するのに役立つ紫外線の測定値などがある。

クリッパーは、氷を透過するレーダを使って地下海洋に照射し、その深さとその上にある氷の地殻の厚さを測定する。磁力計は月の磁場を測定し、深海の存在と氷の厚さを確認する。

ハイゲイン・アンテナは、データを33分から52分かけて地球に送り返す。信号の強度と一度に送信できるデータ量は、2003年に八年間の木星探査を終えた NASA ガリレオ探査機のそれをはるかに上回る。

今回のアンテナ設置のために JPL の現場に赴いたのは、APL で無線周波数モジュールを管理する Simmie Berman(シミー・バーマン)である。マシュー・ブレイと同じく、彼女は2014年からアンテナの仕事を始めた。無線周波数モジュールには、宇宙船の通信サブシステム全体と合計七つのアンテナが含まれ、そのなかにハイゲインが含まれる。設置時の彼女の仕事は、アンテナが宇宙船に適切に取り付けられていること、コンポーネントが正しい向きでうまく統合されていることを確認することだった。

APL と JPL のエンジニアは、バーチャルやモックアップを使って何度も取り付けの練習をしてきたが、ハイゲイン・アンテナを探査機本体に最終的に取り付けたのは08月14日となった。

「アンテナ本体の物理的な規模も、一般的な関心という意味でも、これほど大規模なものに取り組んだことはなかった」とバーマンは延べる。
「子供たちは木星がどこにあるか知っている。エウロパがどんな形をしているかも知っている。人類にとり、知識の獲得という意味で、これほど大きな影響を与える可能性のあるプロジェクトに取り組むのは、とてもクール!」

エウロパ・クリッパーは、この大きなマイルストーン(HG アンテナ設置)を完了した後も、太陽系外惑星系への旅に向けた準備として、まだいくつかのステップといくつかのテストを控えている。
 

More About the Mission(ミッションの詳細)

エウロパクリッパーなどのミッションは、宇宙生物学の分野、つまり私たちにとって既知である生命が存在する可能性のある遠い氷世界の変数と条件に関する学際的な研究への貢献を促す。エウロパクリッパーは生命探査ミッションではないが、木星衛星エウロパの詳細な観測を行い、氷下に海洋がある氷衛星に、生命を維持する能力があるかどうかを調べる。エウロパの生命居住性を理解することは、科学者が地球上で生命がどのように発達したか、そして我々の惑星地球外において生命発見の可能性についての理解を向上させる。

カリフォルニア工科大学がカリフォルニア州パサデナで管理している JPL は、ワシントンにある NASA の科学ミッション局の APL と協力して、エウロパクリッパーミッションの開発を主導している。アラバマ州ハンツビルにある NASA のマーシャル宇宙飛行センターにある惑星ミッションプログラムオフィスは、エウロパクリッパーミッションのプログラム管理を実行する。

エウロパクリッパーの詳細については、以下を参照いただきたい。

NASA's Europa Clipper
 

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Gretchen McCartney
Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.

Karen Fox / Alana Johnson
NASA Headquarters, Washington

2023-120



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office