NASA 氷衛星探査機 Europa Clipper「エウロパの表面氷殻の回転に氷殻下海洋流が影響している可能性があるとの研究結果が発表される」

原文 : March 13, 2023 : Study Finds Ocean Currents May Affect Rotation of Europa’s Icy Crust


木星の衛星エウロパの表層を覆う氷殻が内部と異なる速度で回転するメカニズムについて、近年の研究により新たな論説が明かされた。近い将来、NASA のエウロパ・クリッパーがこれについて詳しく調査する予定だ。
 

Imahe caption :
この木星の氷衛星エウロパの撮像は、2022年09月29日に NASA Juno 探査機が接近フライバイした際に、JunoCam imager(ジュノーカムイメージャ)によって捉えられたもの。NASA 探査機「エウロパ・クリッパー」は、2030年に木星周回軌道に到達し、その後、衛星をフライバイ探査する予定。
Credit : NASA/JPL-Caltech/SwRI
 

NASA の科学者は、木星衛星エウロパが表面を覆う氷殻の下に内部海洋が存在する強力な証拠を、これまでの探査・観測により得ていた。新しいコンピュータモデリングによると、この水は氷殻に対して押圧を与えており、時間の経過とともに氷殻の移動を速めたり遅くしたりしている可能性がある。

科学者たちは、エウロパの氷の殻は下の海洋や底部の岩石質とは異なる速度で回転していることを把握しており、表面氷殻は自由に浮遊しているのではないかと推測している。今回のモデリングは、エウロパの表面下海洋が氷の殻の移動・回転に寄与している可能性を示す初めての結果だ。

この研究では、エウロパの海洋がその上に乗っ掛かる氷殻に与える水平方向の力である抗力を計算することが重要な要素だった。この研究により、海洋の力と氷の層に対する抗力が、エウロパの表面で行われる形成状況の一部を説明できる可能性が示唆された。海洋に押されたり引っ張られたりして、氷殻がゆっくりと時間をかけて伸びたり崩れたりすることで、亀裂や隆起が生じていた可能性が考えられる。

オックスフォード大学の研究者であり、「JGR: Planets」に掲載されたこの研究の主執筆者である Hamish Hay(ハミッシュ・ヘイ)は、「これ以前からエウロパの海洋では、加熱と冷却によって海流を駆動させていることが実験室の実験やモデル化によって推察されていた」と述べている。ヘイは、南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)の博士研究員として、この研究を行った。
「今、我々が導いた結果は、これまで考えられなかった海洋と氷殻の回転の間の結合機構を強く論じている」

次期エウロパ探査計画のエウロパ・クリッパーによる観測では、氷殻の回転速度を正確に把握することが可能だ。エウロパ・クリッパーが撮影した画像を、ガリレオやボイジャー探査機が過去に撮影した画像と比較すれば、氷の表面の位置を調べることができ、エウロパの氷殻の位置が時間とともに変化しているかどうかを判断できる可能性が高い。

何十年もの間、惑星科学者たちは、エウロパの氷殻が内部よりも速く回転しているのではないか、と議論してきた。しかし、海の動きと関連付けるのではなく、科学者たちは外部の力に注目してきた。それは木星だ。木星の重力がエウロパを引っ張ることで、エウロパの氷殻も引っ張られ、回転が速くなっているのではないかと考えたのだ。

「海の循環が氷殻に影響を与えるとは、まったく予想外だった」と、共著者で JPL のエウロパ・クリッパー・プロジェクトサイエンティストである Robert Pappalardo(ロバート・パッパラルド)は言う。
「それは大きな驚きだった。地質学者は通常、”海が表面殻を動かしている”とは考えない。エウロパの表面に見られる亀裂や隆起が、氷殻下の海洋の循環と関連しているかもしれないとは考えないのだ」と述べている。

エウロパ・クリッパーは、現在 JPL で組み立て、試験、打ち上げ運用の段階にあり、2024年に打ち上げられる予定だ。2030年に木星の周回を開始し、エウロパを約 50 回のフライバイを実施し、高性能の観測機器群を駆使して科学データを収集する予定である。ミッションの目的は、深い内部海洋を持つエウロパが生命存在に適した条件を持つかどうかを判断することにある。
 

Like a Pot of Water(ポットオブウォーターのように)

この論文では、地球の海を研究するために開発された技術を使い、NASA のスーパーコンピューターを使ってエウロパの海の大規模モデルを作成した。水がどのように循環しているのか、また加熱や冷却がその動きにどのような影響を与えるのか、その複雑さを探った。

科学者たちは、エウロパの下部海洋は、岩石コア内の放射性崩壊と木星による潮汐加熱により、下から加熱されていると考えている。ストーブの上の鍋で水が温まっていくように、エウロパの温かい水は海洋の上部に上昇する。

シミュレーションでは、最初は垂直に循環していたが、エウロパ全体の自転により、流れる水はより水平な方向、つまり東西や西東の流れに変遷していった。研究者らは抗力を考慮したシミュレーションを行い、流れが十分に速ければ、上空の氷に十分な抗力を与えて氷殻の回転速度を速くしたり遅くしたりできることを突き止めた。内部加熱の量、つまり海洋の循環パターンが時間とともに変化し、氷殻の回転を速めたり遅くしたりする可能性が考えられるのだ。

「この研究は、他の海洋世界の自転速度が時間とともにどのような変化を経たかを理解する上で重要かもしれない」と、ヘイは言う。
「そして、これらの天体の表面と内部の海の潜在的な結合機構について判った今、我々はエウロパと同様に、こうした地質学的歴史についてより多くを学ぶことができるかもしれない」
 

More About the Mission(ミッションの詳細)

エウロパクリッパーなどのミッションは、宇宙生物学の分野、つまり私たちにとって既知である生命が存在する可能性のある遠い氷世界の変数と条件に関する学際的な研究への貢献を促す。エウロパクリッパーは生命探査ミッションではないが、木星衛星エウロパの詳細な観測を行い、氷下に海洋がある氷衛星に、生命を維持する能力があるかどうかを調べる。エウロパの生命居住性を理解することは、科学者が地球上で生命がどのように発達したか、そして我々の惑星地球外において生命発見の可能性についての理解を向上させる。

カリフォルニア工科大学がカリフォルニア州パサデナで管理している JPL は、ワシントンにある NASA の科学ミッション局の APL と協力して、エウロパクリッパーミッションの開発を主導している。アラバマ州ハンツビルにある NASA のマーシャル宇宙飛行センターにある惑星ミッションプログラムオフィスは、エウロパクリッパーミッションのプログラム管理を実行する。

エウロパクリッパーの詳細については、以下を参照いただきたい。

NASA's Europa Clipper
 

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Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.

Karen Fox / Alana Johnson
NASA Headquarters, Washington

2023-033



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office