NASA InSight Mission「NASA 火星着陸探査機インサイトは、四年余りにわたる科学活動の終焉を迎える」

原文 : December 21, 2022 - NASA Retires InSight Mars Lander Mission After Years of Science


太陽電池駆動の InSight(インサイト)着陸機は、赤い惑星火星で四年余りの観測活動を行い、枯渇しつつあった電力が完全に喪失し、興味深い火星内部探査ミッションは終焉を迎えた。
 

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インサイトは、ミッション開始から1211日目となる2022年04月24日に、自撮り画像としては最後になる撮像を行った。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)のミッション・コントローラーは、InSight(インサイト)着陸機との通信が二度に渡って途絶え、宇宙機の太陽電池がエネルギー切れ(エンジニアが「デッドバス」と呼ぶ状態)に陥ったと結論づけた。

NASA は以前から、インサイト着陸機が二回の通信試行で失敗した場合、ミッションの終了を宣言することを決めていた。NASA は念のため着陸機からの信号を聞き続けるが、現時点では着陸船から連絡が来る可能性は低いと考えられている。着陸機が最後に地球と交信したのは12月15日だった。
 

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インサイトが撮影した最後の画像のひとつ。2022年12月11日、ミッションの 1436 日目の火星日(ソル)に撮影されたもので、火星表面にある地震計が写っている。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

「私はこのミッションの打ち上がるところ、そして火星への見事な着陸を見守った。宇宙機に別れを告げることは常に悲しいことだが、インサイトが行った魅力的な科学は祝福すべきものだ」と、ワシントンの NASA 科学ミッション本部副長官 Thomas Zurbuchen(トーマス・ザブーケン)は述べている。
「このディスカバリー計画によるインサイト・ミッションから得られた地震データだけを取っても、火星のみならず、地球を含む他の岩石天体について非常に大きな洞察を我々は得ることができた」

InSight は、” Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport ” の略で、火星の深部を探査することを目的としている。ランダーのデータから、火星の内部層、表面下に残る驚くほど強力な磁気ダイナモ、火星の天候、そして多くの地震活動が探査によって明かされた。

高感度地震計と、フランスの宇宙機関 CNES(Centre National d'Etudes Spatiales)およびチューリッヒ工科大学が運営する日々の火星震監視により、昨年末にボルダーサイズの氷塊を発掘した最大の隕石衝突による地震を含む 1319 件の火星震が検出された。
 

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インサイトは、ロボットアームの先端にある機器展開カメラ(IDC)を使って、2019年04月25日に火星のこの夕焼けを撮影した。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

このような隕石衝突は、科学者による惑星の表面年代測定を行うために大きな手掛かりとなり、そのデータは、惑星の地殻、マントル、コア研究について、科学者の視線を大きく広げる。

「地球外のミッションで地震学が焦点となったのは、宇宙飛行士が月に地震計を持ち込んだアポロ計画以来のことだ」と、インサイトの地震計の主任研究者であるパリ地球物理学研究所の Philippe Lognonne(フィリップ・ロニョネ)は述べている。
「我々は新しい研究分野を開拓し、科学チームはその過程で学んだ総てのことによって大きく自信を深めていくものだ」
 

地震計観測は、主要なミッション項目であった。着陸機の太陽電池パネルに蓄積する塵が徐々にそのエネルギーを減少させる中、電源を入れたままにしていた最後の科学機器であった。

「インサイトは、その名に恥じない活躍をした。火星の研究に携わってきた科学者として、このミッションを成功に導いた世界中の人々のチーム全体の努力で着陸機が次々と成し遂げた成果を見るのはとてもスリリングだった」と、ミッションを管理する JPL の Laurie Leshin(ローリー・レシン)所長は語る。
「確かに、お別れは悲しいが、インサイトの遺産は今後も長く生き続け、情報を与え、魅力的なインスピレーションを我々に与えるだろう」

すべての火星ミッションが、火星特有の困難に直面する。インサイトも同様だ。火星内部の熱計測、火星形成時に残されたエネルギー量を計測するためのセンサーを搭載したテザーを引きながら、5 メートル下まで掘り進む予定だった。

他のミッションで見られるような緩い砂地用に設計された「モグラ」は、インサイトが着陸した周辺の予想外にごつごつした土壌ではトラクションを得ることができなかった。ドイツ航空宇宙センター(DLR)から提供されたこの装置は、最終的に僅か 16 インチ(40 センチ)程度の掘削に留められたが、それでもこの装置は、火星の土壌の物理的および熱的特性に関する貴重なデータを収集した。これは将来、人間やロボットが地下を掘ろうとする際に参考になる。

JPL と DLR のエンジニアが着陸機のロボットアームを活用することにより、ミッションは可能な限り「モグラ」を埋めた。このアームと小型スクープは、主に科学機器を火星表面に設置するためのものだったが、電力が低下し始めたインサイトの太陽電池パネルからほこりを取り除く掃除も行った。

「着陸後の四年間、インサイトは火星の友人であり仲間だと思っていたので、別れを告げるのは辛いことなんだ」と、ミッションの主任研究員である JPL の Bruce Banerdt(ブルース・バナート)は述べる。
「でもこのミッションの終焉は、豊穣な科学を実らせた上での引退とも言える」
 

ミッションの詳細

JPL は、NASA Science Mission Directorate である インサイト(InSight)を運用・管理している。インサイトはアラバマ州ハンツビルのマーシャル宇宙飛行センターが管理するNASA ディスカバリープログラムの一つである。デンバーのロックヒード・マーティン・スペース社は、クルーズ・ステージとランダーを含むインサイト火星着陸探査機を製造し、ミッションのための宇宙船操作をサポートしている。

フランス国立中央科学院(CNES)やドイツ航空宇宙センター(DLR)を含む多くの欧州のパートナーが、インサイトミッションをサポートしている。CNES は、ドイツのマックス・プランク研究所(MPS)、スイスのスイス工科大学(ETH)、インペリアル・カレッジ、UK オックスフォード大学からのサポートを得て、内部構造のための耐震実験装置(SEIS)を開発し、DLR からは熱流および物理特性パッケージ(HP3)装置を提供された。
 

インサイトプロジェクトの詳細は以下をご覧頂きたい。

NASA InSight Mission

NASA InSight マーズディープコアミッション



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office