NASA 氷衛星探査機 Europa Clipper「エウロパ・クリッパーが、深宇宙をドライブするための車輪を手に入れた」

原文 : November 23, 2022 : NASA's Europa Clipper Gets Its Wheels for Traveling in Deep Space


木星の衛星 Europa(エウロパ)に向かう巨大な宇宙機は、四基の大きなリアクションホイールで姿勢を制御する。
 

Imahe caption :
NASA 探査機エウロパ・クリッパーの本体に幅 2 フィートのリアクションホイールを取り付ける技術者たち。同宇宙機は2024年の打ち上げに向けて、組み立て、試験、打ち上げ作業の段階にある。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

NASA が送り届けた火星探査機が赤い惑星を歩き回り、科学獲得のために頑丈な車輪に頼っているように、大概の惑星間航行宇宙機も、リアクションホイール(RW)と呼ばれる「車輪」に頼って向けるべく方向を維持しているのだ。NASA JPL(ジェット推進研究所)のエンジニアと技術者は、エウロパ・クリッパーに四基のリアクション・ホイールを装着し、木星の氷衛星エウロパの旅に向かう準備を進める。

NASA の宇宙機が深宇宙を通り抜け、木星の軌道に到達したのち数十回に渡ってエウロパ近傍をフライバイ科学観測するとき、RW(リアクションホイール)は、アンテナが地球方向を指せるように、またカメラなどの科学機器が観測に向けた方向を保てるように姿勢を安定させる。

鉄、アルミニウム、チタンでできた幅 2 フィート程度の RW は、高速回転してトルクを生み出し、オービターを反対方向に回転させる。アイザック・ニュートンの運動の第三法則は、深宇宙でも適用され、根本的な現象を説明する。つまり、「すべての作用には、等しく反対の反作用がある」ということから、RW の回転に対する反作用を利用して宇宙機は姿勢を制御する。
RW のモーターが金属製のホイールを一方向に加速すると、宇宙機は反対方向に動く。
 

2024年に打ち上げられて2030年に木星系に到着するエウロパ・クリッパーは、この反応輪である RW がなければ科学探査を行うことができない。エウロパには広大な海洋が拡がり、生命維持に適した環境である可能性があると科学者たちは考えている。探査機は、衛星の大気、表面、内部のデータを収集する。これらの情報は、海洋、氷殻、氷殻内水を宇宙空間に放出する可能性のあるプリュームの構造を科学者が知る上で役立つものである。

木星を周回する間、エウロパ・クリッパーは RW により数えきれない旋回を行う。スラスターを使えば旋回は可能だが、、スラスターの燃料には限りがある。RW の稼働は、宇宙機に設置された太陽電池アレイから供給される電力で賄える。

ウィークポイントは、RW からの反応動作は非常に遅いことだ。エウロパ・クリッパーの RW は、機体を 180 度回転させるのに約 90 分かかる。この動きは非常に緩やかで、遠くから見れば人間の目にはわからないほどだ。宇宙機の回転は、時計の針の 1/3 程度だ。

また RW は、経年劣化等により磨耗することが欠点でもある。NASA Dawn(ドーン)探査機でもホイールの摩耗が起こったため(はやぶさ初号機、「はやぶさ2」でも発生した)、エンジニアは利用可能な燃料でスラスターを使って機体を回転させることとなった。エウロパ・クリッパーでは四基のホイールを備え、そのうち三基を交互に稼働させて姿勢制御を行い、摩耗を均等にする手段を講じる(これは「はやぶさ2」探査機でも試みた手法であり、はやぶさ初号機の経験則から成る)。これにより、一基のホイールが故障しても「予備」のホイールを導入することができるのだ。

Imahe caption :
組立・試験・打ち上げ運用段階にあるエウロパ・クリッパーの本体下面に、エンジニアと技術者がリアクションホイールを取り付けているところ。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

ホイールの取り付けは、組立・試験・打ち上げの各段階の中で最新のステップのひとつだ。JPL には科学観測機器が続々と到着し、探査機に追加装備されている。そして、2024年10月の打ち上げに向けて、様々なテストが今後行われる。18 億マイル(約 29 億キロメートル)超彼方への旅を経て、エウロパ・クリッパーはこの氷の世界の秘密を解き明かす作業を開始する。
 

More About the Mission(ミッションの詳細)

エウロパクリッパーなどのミッションは、宇宙生物学の分野、つまり私たちにとって既知である生命が存在する可能性のある遠い氷世界の変数と条件に関する学際的な研究への貢献を促す。エウロパクリッパーは生命探査ミッションではないが、木星衛星エウロパの詳細な観測を行い、氷下に海洋がある氷衛星に、生命を維持する能力があるかどうかを調べる。エウロパの生命居住性を理解することは、科学者が地球上で生命がどのように発達したか、そして我々の惑星地球外において生命発見の可能性についての理解を向上させる。

カリフォルニア工科大学がカリフォルニア州パサデナで管理している JPL は、ワシントンにある NASA の科学ミッション局の APL と協力して、エウロパクリッパーミッションの開発を主導している。アラバマ州ハンツビルにある NASA のマーシャル宇宙飛行センターにある惑星ミッションプログラムオフィスは、エウロパクリッパーミッションのプログラム管理を実行する。

エウロパクリッパーの詳細については、以下を参照いただきたい。

NASA's Europa Clipper
 

News Media Contact

Gretchen McCartney
Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.

Karen Fox / Alana Johnson
NASA Headquarters, Washington

2022-081



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office