Space Topics 2022
JPL News (Ja) 日本語訳解説
InSight(インサイト)火星着陸機が火星で驚異的な隕石衝突を検出
NASA InSight(インサイト)ミッション「InSight(インサイト)火星着陸機が火星で驚異的な隕石衝突を検出」
原文 : October 27, 2022 - NASA's InSight Lander Detects Stunning Meteoroid Impact on Mars
マーズ・リコネイサンス・オービター(MRO)火星周回機のカメラが新しいクレータを発見し、InSight 着陸機はクレータ形成の際、火星面の揺れを検出した。
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2021年12月24日、火星のアマゾニス平原地帯で隕石の衝突によって形成された衝突クレーターをマーズ・リコネイサンス・オービターに搭載された高解像度画像科学実験(HiRISEカメラ)が捉えた。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
NASA InSight(インサイト)着陸機は、昨年(2021年)12月24日にマグニチュード 4 の火星震を記録したが、科学者のその後の分析によってその原因が明かされた。NASA が宇宙探査を始めて以来、火星で目撃された最大級の天体衝突と推定される。さらに、この衝突によって、火星の赤道近くに埋まっていた玉石大の氷の塊が掘り起こされ発見された。この発見は、NASA による将来の火星有人探査計画にも影響を与えるものである。
マーズ・リコネイサンス・オービター(MRO)が撮影した地震前後の画像にある新たなクレータを確認、科学者たちはこの地震が隕石衝突によるものだと判断した。火星面を揺るがす大きな衝撃の様子を見る貴重な機会であり、この出来事とその影響は、10月27日(木)に科学雑誌「サイエンス」に掲載された二編の論文に詳述されている。
この隕石は 16~39 フィート(5~12 メートル)あったと推定され、地球の大気圏では燃え尽きるほど小さいが、火星の薄い大気(密度は地球の 1% に過ぎない)では燃え尽きなかったのだろう。アマゾニス平原(Amazonis Planitia)と呼ばれる地域での衝突は、およそ幅 492 フィート(150 メートル)、深さ 70 フィート(21 メートル)のクレーターを形成した。この衝突によって投げ出された噴出物の一部は、23 マイル(37 キロメートル)先まで飛んでいった。
画像や火星震探査のデータから、このクレータ形成は太陽系のどの場所でも目撃できた最大級のクレータであるとみられる。火星にはもっと大きなクレータがたくさんあるが、それらはかなり古く、人類による火星探査が行われるよりずっと昔のものだ。
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この動画は、インサイト火星着陸機が、2021年12月24日、ミッション開始から1094日目の火星日(ソル)に巨大隕石衝突を検知し、記録した信号を地震計と音波で再現したもの。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/CNES/Imperial College
インサイトミッションの衝突科学ワーキンググループを率いるブラウン大学の Ingrid Daubar(イングリッド・ドーバル)は、「このサイズの新鮮な衝突クレータを発見するのは前例が無い」と述べている。
「地質学的な歴史におけるエキサイティングな瞬間であり、我々はそれを目撃することができた」
インサイト着陸機は、太陽電池パネルに付着した塵のために、ここ数ヶ月で電力が急激に減少している。現在、探査機は今後六週間以内にシャットダウンする見込みで、ミッションの科学活動は停止している。
インサイトミッションは、惑星の地殻、マントル、コアを調査・研究している。火星震波検出はこのミッションの主目的であり、火星の内層の大きさ、深さ、組成を明らかにしてきた。2018年11月の着陸以来、インサイトは 1,318 回の火星震を検出し、その中にはより小さな隕石の衝突によって引き起こされたものも幾つか含まれていると見られている。
しかし、昨年12月の衝突による振動は、表面波(地球を含む惑星の地殻の上部に沿って波打つ地震波の一種)が観測された初めてのものであった。このビッグインパクトに関連する二つの科学論文のうち二稿目は、科学者が火星の地殻の構造を研究するためにこれらの振動波をどのように利用するかについて述べている。
クレーターハンターとしての連携
2021年末、インサイトの科学者たちは、12月24日に大きな火星震を検出したことを他のチームに報告した。クレータは、翌年の2022年02月11日に、MRO に搭載された二機のカメラを製造・運用する Malin Space Science Systems(MSSS)所属の科学者によって発見された。コンテクストカメラ(CTX)は白黒の中解像度画像を提供し、マーズカラーイメージャ(MARCI)は惑星全体の日次マップを作成して科学者がインサイトの太陽電力をさらに低下させた最近の地域的砂嵐などの大規模な気象変化を追跡できるように設定されている。
MARCI のデータでは、衝突の爆風域が確認でき、衝突発生の24時間以内を特定することができた。これらの観測結果は震源地と相関性があり、12月24日の大きな火星震の原因は隕石の衝突であることを決定的なものにした。
MSSS の軌道科学運用グループを率いる Liliya Posiolova(リリヤ・ポジオロヴァ)は、「衝突の画像は、巨大なクレータ、撒き散らかされた氷、火星の塵の中に保存された劇的な爆発地帯など、これまで見たこともないものだった」と述べた。
「衝突衝撃、大気の爆発、そして何マイルも外に放出された破片を目撃する場合はどのような感じなのか、想像せずにはいられなかった」
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このアニメーションは、火星の隕石衝突クレータのフライオーバーを描いたもので、玉石大の氷の塊に囲まれたクレータを描く。マーズ・リコネイサンス・オービターに搭載された高解像度画像科学実験(HiRISE)カメラのデータを使用して作成されたもの。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
火星の表面形成年代を明らかにするためには、クレータがどのような割合で出現しているのかを明らかにすることが重要である。火星や月などの古くから変化の少ない表面には、地球よりも多くのクレータが残されている。地球では、侵食とプレートテクトニクスのプロセスによって、古い地表の特徴が消されてしまうからだ。
また、新しいクレータは、表面下にある物質を露出させる。今回は、衝突によって飛び散った大きな氷の塊を、MRO の高解像度画像処理実験(HiRISE)カラーカメラで撮影することができた。
表面下の氷は、飲料水、農業、ロケットの推進剤など、さまざまなニーズに対応できる、火星を訪れる宇宙飛行士にとって重要な資源となる可能性があるのだ。火星の赤道付近は最も暖かい場所であり、宇宙飛行士にとって快適な場所でもあるが、これまで埋もれた氷の存在は明かされていなかった。
ミッションの詳細
JPL は、NASA Science Mission Directorate である インサイト(InSight)を運用・管理している。インサイトはアラバマ州ハンツビルのマーシャル宇宙飛行センターが管理するNASA ディスカバリープログラムの一つである。デンバーのロックヒード・マーティン・スペース社は、クルーズ・ステージとランダーを含むインサイト火星着陸探査機を製造し、ミッションのための宇宙船操作をサポートしている。
フランス国立中央科学院(CNES)やドイツ航空宇宙センター(DLR)を含む多くの欧州のパートナーが、インサイトミッションをサポートしている。CNES は、ドイツのマックス・プランク研究所(MPS)、スイスのスイス工科大学(ETH)、インペリアル・カレッジ、UK オックスフォード大学からのサポートを得て、内部構造のための耐震実験装置(SEIS)を開発し、DLR からは熱流および物理特性パッケージ(HP3)装置を提供された。
インサイトプロジェクトの詳細は以下をご覧頂きたい。
Akira IMOTO
Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan