NASA InSight(インサイト)ミッション「InSight(インサイト)火星着陸機は、砂嵐に耐えるのか」

原文 : October 07, 2022 - NASA’s InSight Waits Out Dust Storm


InSight チームは、着陸機の電力を枯渇させないための措置を懸命に講じている。
 

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NASA 火星着陸機 InSight は、ミッション開始から1211日目の火星日(ソル)である2022年04月24日に、この最後の自撮り写真を撮影した。2018年11月にランダーが火星に着陸して以来、ランダーのソーラーパネルが塵に覆われ、その電力レベルが徐々に低下している状態だ。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

近い将来終了すると予想されている NASA InSight(インサイト)ミッションでは、火星の南半球に大陸規模の砂嵐が渦巻く中、ソーラーパネルによる発電力の低下が進行していることが確認された。NASA マーズ・リコネイサンス・オービター(Mars Reconnaissance Orbiter : MRO)が2022年09月21日に初めて観測したこの嵐は、インサイトからおよそ2,175 マイル(3,500 キロメートル)の距離にあり、当初は着陸機への影響はほとんどなかった。

ミッションチームは、太陽電池アレイに塵が蓄積することで着実に低下している着陸機の電力レベルを注意深く監視している。10月03日(月)までに、嵐はさらに大きくなり、大量の塵が舞い上がって火星大気の塵の靄の厚さがインサイトの周りで 40 % 近くも増加した。ランダーのパネルに届く太陽光が少なくなり、そのエネルギーは火星日(ソル)あたり 425 W/h からわずか 275 W/h にまで減少した。

インサイトの地震計は、火星日(ソル)一日おきに約 24 時間作動させている。しかし、太陽光発電の減少により、1 ソルをおいてバッテリーを完全に充電するほどのエネルギーは残っていない。現在の放電速度では、着陸船は数週間しか稼働できない。そこで、エネルギーを節約するために、ミッションは今後二週間、インサイトの地震計をオフにする予定だ。

「電力に関して我々のいるところは ”bottom rung”(最下層)だ。今、我々が居るのは一階だった」と、インサイトプロジェクトマネージャーで、南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)の Chuck Scott(チャック・スコット)は言った。
「今を乗り切れば、冬まで稼働し続けることができるだろう。しかし、、、次に来る嵐が心配だ」

チームは、インサイトミッションが今年の10月下旬から2023年01月の間に終了すると見積もっていた。これは、ソーラーパネルに付着した塵がどれだけ発電量を減らすかという予測に基づく。ランダーはその主要な使命をとっくに終え、現在は、赤い惑星の深部について詳細を明らかにする火星地震の測定による「ボーナス科学」を行ってきた。しかしその延長ミッションも終了に近づいていることが窺える。
 

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この火星図に見られるベージュ色の雲は、NASA マーズ・リコネイサンス・オービター(MRO)に搭載されたマーズ・カラー・イメージャー・カメラが2022年09月29日に捉えた大陸規模の砂嵐。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/MSSS
 

火星の嵐を調べてみる

この大規模で局所的な嵐も今やピークを迎え、崩壊期に入ったことを窺わせる兆しがある。MRO 搭載のの火星気候サウンダーは、ダストが太陽光を吸収することによって起こる熱を測定する装置であり、嵐を測定したところ、成長が鈍化していることが確認されたのだ。また、赤い惑星の全球マップを毎日作成し、嵐を最初に発見した Mars Color Imager camera(火星カラーイメージャカメラ)の写真で観測されたダストの上昇する雲は、以前ほど急速に拡大していないことも判っている。

この地域的な嵐の発生は珍しいものではなく、この種の嵐は今年に入ってから三回起こっている。火星の砂嵐は一年中いつでも発生するが、北半球の秋から冬にかけては、より多くより大きな砂嵐が発生しており、その時期は今は終わりつつある。

火星の砂嵐は、ハリウッド映画等で描かれているほど激しくも劇的でもない。風速は時速 60 マイル(約 97 キロメートル)にもなるが、火星の空気は薄いので、地球上の嵐に比べるとほんのわずかな強さしかない。嵐はたいていは厄介なものだ。大気圏上空に舞い上がった塵は、時には数週間かけてゆっくりと火星表面に落ちて積もる。
 

科学者たちは稀に、火星のほぼ全域を覆う、惑星を取り囲むような砂嵐に成長するのを目撃することがある。これらの惑星全球規模の砂嵐の一つが2018年に発生し、NASA のソーラー電力型探査機 Opportunity(オポチュニティ)を終焉に導いた。

NASA の Curiosity(キュリオシテ)と(Perseverance)パーシビアランス探査車は原子力発電であるため、エネルギーに影響を及ぼす砂嵐の心配はない。しかし、太陽電池で動く Ingenuity helicopter(インジェニュイティ・ヘリコプタ)は、背景のヘイズ(もや)が全体的に増加していることに気づいている。

MRO は、火星表面での NASA ミッションが安全に活動できるよう嵐を監視するだけでなく、これらの嵐がどのように、そしてなぜ形成されるのかについての貴重なデータを 17 年間かけて収集してきた。
「我々は、嵐がいつ起こるかを詳細に予測できるように、嵐の発生パターンを掴もうとしている」と MRO チームの Rich Zurek(ズーレック)は言った。
「私たちは嵐を観測するたびに、火星の大気についての知識を蓄積している」
 

ミッションの詳細

JPL は、NASA Science Mission Directorate である インサイト(InSight)を運用・管理している。インサイトはアラバマ州ハンツビルのマーシャル宇宙飛行センターが管理するNASA ディスカバリープログラムの一つである。デンバーのロックヒード・マーティン・スペース社は、クルーズ・ステージとランダーを含むインサイト火星着陸探査機を製造し、ミッションのための宇宙船操作をサポートしている。

フランス国立中央科学院(CNES)やドイツ航空宇宙センター(DLR)を含む多くの欧州のパートナーが、インサイトミッションをサポートしている。CNES は、ドイツのマックス・プランク研究所(MPS)、スイスのスイス工科大学(ETH)、インペリアル・カレッジ、UK オックスフォード大学からのサポートを得て、内部構造のための耐震実験装置(SEIS)を開発し、DLR からは熱流および物理特性パッケージ(HP3)装置を提供された。
 

インサイトプロジェクトの詳細は以下をご覧頂きたい。

NASA InSight Mission

NASA InSight マーズディープコアミッション



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office