NASA InSight(インサイト)ミッション「InSight 火星着陸機が、火星での隕石衝突を初めて ”聴いた”」

原文 : September 19, 2022 - NASA's InSight‘Hears’ Its First Meteoroid Impacts on Mars


火星着陸船の地震計は、過去二年間に天体衝突による四回の振動を拾った。
 

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これらのクレータは、2021年09月05日、火星への隕石衝突によって形成されたものであり、InSight 着陸機としては初めての天体衝突検出だった。NASA MRO(マーズ・リコネイサンス・オービター)が撮影したこのエンハンス・カラー画像は、衝突によって乱された塵や土が青色で強調されている。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
 

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このコラージュは、InSight の地震計が検出し、NASA MRO(マーズ・リコネイサンス・オービター)搭載の HiRISE カメラで撮影した「2021年09月05日」以外の三回の隕石衝突痕を示している。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
 

InSight は、2020年と2021年に火星に衝突した、四つの宇宙飛来小天体による地震波を検出した。これらは、2018年に InSight が赤い惑星に着陸して以来、探査機の地震計によって検出された初めての衝突であるだけでなく、衝突による地震波と音響波が火星で検出された初めてのケースでもある。

Nature Geoscience(ネイチャー ジオサイエンス)に月曜日掲載された新しい論文では、InSight が位置する火星の Elysium Planitia(エリシウム平原)と呼ばれる地域から 53~180 マイル(85~290 キロメートル)の範囲で起きた衝撃について詳しく説明されている。

確認された四つのメテオロイド(地上に衝突する前の宇宙岩石小天体を指す言葉)のうち、最初のものは最も劇的な火星大気圏内への入射であった。2021年09月05日に火星の大気圏に突入して少なくとも三つの破片に粉砕され、それぞれが衝突クレーターを残した。
 


InSight 着陸機が火星で検出した最初の隕石衝突について詳述する動画。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

その後、NASA マーズ・リコネイサンス・オービター(MRO)が推定衝突地点の上空を飛行し、その位置を確認した。オービターは、モノクロのコンテキスト・カメラを使って、表面に三ヶ所の黒ずんだスポットを発見した。これらのスポットを特定した後、オービターのチームは高解像度画像科学実験カメラ(HiRISE)を使用して、クレーターのカラークローズアップ画像を取得した(隕石は表面に追加のクレーターを残した可能性があるが、HiRISE の画像では小さすぎるため確認できない)。

「InSight によって衝突を検出されるまでに三年間要したが、これらのクレータは非常に美しかったよ」と、論文の共著者で火星衝突の専門家であるブラウン大学の Ingrid Daubar(イングリッド・ドーバル)は述べた。

それ以前のデータを再度調べ上げた結果、科学者たちは、2020年05月27日、2021年02月18日、2021年08月31日の三回の振動検出が、メテオロイドの衝突であったことが確認された。

研究者たちは、なぜ火星でこれほど多くの隕石衝突が検出されなかったのかについて頭を悩ませてきた。赤い惑星は太陽系の主要な小惑星帯に隣接しており、惑星表面に傷をつける宇宙小天体を十分に供給することができる。火星の大気の厚さは地球の 1% に過ぎないため、より多くの小天体が分解されずに表面に到達する。

InSight の地震計はこれまで、1,300 回以上の火震(地震:地球ではないため)を検知している。フランスの宇宙機関である国立宇宙研究センター(CNES)が提供するこの装置は、数千マイル先の地震波も検出できるほど感度が高い。しかし、2021年09月05日の出来事で、このような振動の原因が天体衝突であると確認されたのは初めてのことである。

InSight チームは、他で起きた天体衝突は風によるノイズや大気の季節変化で不明瞭になったのではないかと考えている。しかし、火星への衝突の特徴的な地震信号が発見された今、科学者たちは InSight の約四年間に亘って取得したデータの中に、火星内部振動ではない他の要因によるものがさらに見つかるのではないかと期待している。
 

Listen to a Meteoroid Hitting the Red Planet


InSight 着陸機が記録したデータから作成された火星に隕石が衝突する音響。独特の大気の影響により「ブーン」というような音になっている。この音響クリップは、隕石が火星の大気圏に突入するとき、爆発して破片になるとき、そして地表に衝突するときの三場面が記録されている。
Credit : NASA/JPL-Caltech/CNES/IPGP
 

地震の中に隠れた科学

InSight から得られる地震データは、赤い惑星について深く学ぶための様々な手掛かりを与えてくれる。火星地震の多くは、地下の岩石が熱と圧力によって破砕されることで発生する。それにより生じる地震波が、さまざまな物質の中を移動することによってどのように変化するかを調べることは、火星の地殻、マントル、コアを研究するための有効な手段となる。

これまで確認された四つのメテオロイド衝突は、マグニチュード 2.0 以下の小さな地震を発生させた。2022年05月に発生したマグニチュード 5.0 の地震のように、より大きな地震による振動データは、火星のマントルやコアについての詳細を明らかにすることができる。

しかし、衝突インパクトは火星の時間軸を詳細に伝えるために重要なものとなる。
「天体の衝突履歴は太陽系の時計とも言える」と、論文の主著者であるフランス・トゥールーズにある Institut Superieur de l'Aeronautique et de l'Espace(ISAE:航空宇宙高等学院)の Raphael Garcia(ラファエル・ガルシア)は言う。
「我々は、異なる火星表面の年代を推定するために、これまでそして今後の衝突履歴を得る必要がある」

科学者たちは、その衝突クレータ生成頻度を知ることによって、惑星の表面年齢を概算することができる。クレーターの数が多ければ多いほど、その惑星の表面は古いということになる。現在起きている衝突の頻度に基づいて統計モデルを校正すれば、太陽系形成初期の時期にどれくらいの衝突が起きたかを推定することができるのだ。

InSight が取得したデータは、軌道上からの画像と組み合わせることで、隕石の軌跡や衝撃波の大きさを再構築することが可能だ。すべての隕石は、大気圏に突入すると衝撃波が発生し、地上に落下した際には大きな爆発が生じる。この時、大気中では音波が発生している。爆発が大きければ大きいほど、この音波がインサイトに到達したときに地面の傾斜が大きくなる。着陸船の地震計は、このような現象によって地面がどの方向にどれだけ傾いたかを測定することができるほど感度が高い。

「我々は、衝突のプロセス自体について多くのことを学んでいる」とガルシアは言った。
「クレーターと、検出した地震波や音響波を結びつけることができるようになったのだ」
 

InSight 着陸機は、火星を研究する時間が少ないが残されてはいる。着陸機の太陽電池パネルに堆積した塵は、その出力を低下させ、最終的には探査機のシャットダウンにつながるだろう。正確な時期を予測するのは難しいが、最新の電力測定値に基づいてエンジニアは、着陸機がシャットダウンするのは今年10月から2023年01月までであると見ている。
 

ミッションの詳細

JPL は、NASA Science Mission Directorate である インサイト(InSight)を運用・管理している。インサイトはアラバマ州ハンツビルのマーシャル宇宙飛行センターが管理するNASA ディスカバリープログラムの一つである。デンバーのロックヒード・マーティン・スペース社は、クルーズ・ステージとランダーを含むインサイト火星着陸探査機を製造し、ミッションのための宇宙船操作をサポートしている。

フランス国立中央科学院(CNES)やドイツ航空宇宙センター(DLR)を含む多くの欧州のパートナーが、インサイトミッションをサポートしている。CNES は、ドイツのマックス・プランク研究所(MPS)、スイスのスイス工科大学(ETH)、インペリアル・カレッジ、UK オックスフォード大学からのサポートを得て、内部構造のための耐震実験装置(SEIS)を開発し、DLR からは熱流および物理特性パッケージ(HP3)装置を提供された。
 

インサイトプロジェクトの詳細は以下をご覧頂きたい。

NASA InSight Mission

NASA InSight マーズディープコアミッション



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office