Space Topics 2022
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NASA 最長継続ミッションであるボイジャー、宇宙で45年の歴史を刻む
ボイジャー探査機「NASA 最長継続ミッションであるボイジャー、宇宙で45年の歴史を刻む」
原文 : August 17, 2022 - Voyager, NASA’s Longest-Lived Mission, Logs 45 Years in Space
1977年に打ち上げられたボイジャーは、NASA で最も長く運用されているミッションであり、恒星間空間を探査した唯一の宇宙機でもある。
1977年03月23日に NASA JPL で撮影されたアーカイブ画像。同年末の打ち上げに向けてボイジャー2号探査機を準備するエンジニアの様子。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
NASA の二機のボイジャーは、ある意味、その時代のタイムカプセルとも言える存在だ。データを記録するために8トラックのテープレコーダを搭載し、メモリは現代の携帯電話の約 300 万分の 1、データ転送速度は 5G インターネット接続の約 3 万 8000 分の 1 だ。
しかし、ボイジャーは宇宙探査の最先端を走り続けている。NASA ジェット推進研究所(JPL)が管理・運営するボイジャーは、星間空間(太陽系と他の星系間の宇宙空間)を探査した唯一の探査機だ。
太陽と惑星は、太陽の磁場と太陽風(太陽からの荷電粒子)の外向き流によって作られる保護的な泡状のヘリオスフィア(Heliosphere))と呼ばれる太陽圏に存在している。ボイジャーより若い研究者たちは、ボイジャーの観測と新しいミッションのデータを組み合わせて、太陽と太陽圏が星間空間とどのように相互作用しているかをより深く把握しようとしている。
「太陽物理学ミッションは、コロナや太陽大気の最も外側の部分の理解から、地球や大気、星間空間など太陽系全体における太陽の影響の調査まで、太陽に関する貴重な洞察を提供する」と、ワシントンの NASA 本部の太陽物理学部門のディレクター、Nicola Fox(ニコラ・フォックス)は述べている。
「この 45 年間、ボイジャーミッションはこうした知識を獲得し、他の探査機にはない方法で、太陽とその影響に関する我々の理解を変えるために不可欠な存在だった」
ボイジャーは宇宙における地球大使でもあり、二機それぞれが地球上の生命を記した画像、当時の地球が理解する科学の基本原理の図、自然の音や多言語による挨拶、音楽などの音声を刻んだ「黄金のレコード」を積載している。金でコーティングされたレコードは、探査機と出会うかもしれない知的生命体への宇宙の「瓶詰めのメッセージ」として機能する。宇宙空間で金が分解され、宇宙線に侵食される過程を辿るとして、このレコードは 10 億年以上その情報を保ち続けるだろう。
1976年11月18日、ボイジャーの音響振動試験とパイロショック(衛星の射出や多段ロケットにおける多段の分離に使われるような炸薬の爆発による結果として、構造に伝搬する高周波数・大振幅の応力波に対する構造の応答)試験に取り組む技術者たちの様子。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
期待以上の成果
1977年08月20日に打ち上げられたボイジャー2号と、09月05日に打ち上げられたボイジャー1号は、木星と土星に向かったが、ボイジャー1号の方が航行速度が速く、先に木星と土星に到達した。この二機の探査機によって、太陽系の二大惑星とその衛星について多くのことが明らかとなった。ボイジャー2号はまた、天王星(1986年)と海王星(1989年)に接近した最初で唯一の探査機となり、人類にこれらの遠い世界の驚くべき眺望と洞察を与えた。
ボイジャー2号がこれらの飛行を行っている間、ボイジャー1号は太陽圏の境界(ヘリオポーズ)に向かっていた。2012年、ボイジャー1号は太陽圏から脱出する際、宇宙線(星の爆発によって発生する高エネルギー粒子)の 70 % が太陽圏によって遮断(保護)されていることを発見した。ボイジャー2号は惑星探査を終えた後、太陽圏の境界まで進み、2018年に脱出した。この領域で得られた双子の探査機の複合データは、太陽圏の正確な形状に関するこれまでの説を覆すものであった。
ボイジャー1号と2号は、1977年の打ち上げ以来、多くのことを成し遂げてきた。このインフォグラフィックは、四つの外惑星へのアプローチや太陽圏からの脱出など、ミッションの主要なマイルストーンを表している。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
「現在、ボイジャーは星間空間という未知の領域を観測し人類に伝えている」と、JPL のボイジャーの副プロジェクトサイエンティスト、Linda Spilker(リンダ・スピルカー)は述べた。
「これは、我々の主星である太陽が、太陽圏の外の粒子や磁場とどのように相互作用するかを直接研究することができた初めての例だ。科学者が星と星の間の部分的な領域を理解し、この領域に関するいくつかの理論を覆しつつ、将来のミッションに重要な情報を渡すための助力となるものだ」
長い旅
ボイジャーのチームは長年にわたり、このような成熟した宇宙機の運用に伴う課題を克服することに熟達しており、時には引退した同僚であった研究者に専門知識を求めたり、数十年前に書かれた文書を掘り起こしたりしている。
それぞれのボイジャーは、放射性同位体熱電気転換器(RTG)を動力源としている。プルトニウムが崩壊すると、熱出力が減少し、ボイジャーは電力を失う。それを補うために、チームは必要のないシステムをすべてオフにし、かつては必須とされていた、まだ動作している機器を宇宙の極寒の温度から守るためのヒーターなどもオフにした。2019年以降、ヒーターをオフにした五つの機器は、テストし設定した最低気温を大幅に下回っているにもかかわらず、まだ動作している。
過日、ボイジャー1号に搭載されているシステムの一つで、ステータス情報が文字化けする不具合が発生した。しかし、システムおよび探査機は正常に動作しており、システムそのものではなく、ステータスデータの生成に問題があることが示唆された。技術チームが問題の解決または回避策を模索する間、探査機は科学観測データを送信し続けている。
※ 後に未使用のコンピュータが関わっていることが判明した。
「ボイジャーは素晴らしい発見をし続け、新しい世代の科学者やエンジニアにインスピレーションを与えてきた。ミッションがいつまで続くかは判らないが、地球から遠く離れるにつれて、探査機がさらに多くの科学的な驚きを与えてくれることは確かだ」と、プロジェクトマネージャの Suzanne Dodd(スザンヌ・ドッド)は語った。
ボイジャーの詳細は以下からご覧頂きたい。
Akira IMOTO
Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan