JPL News (Ja) - Space Topics 2022
JPL News (Ja) 日本語訳解説
アポフィスを危険な小惑星の代用として惑星防衛演習を実施
原文 : May 31, 2022 : Planetary Defense Exercise Uses Apophis as Hazardous Asteroid Stand-In
Planetary Defense「アポフィスを危険な小惑星の代用として惑星防衛演習を実施」
この国際演習には、NASA の科学者や NEOWISE ミッションなど、18 カ国から 100 人以上が参加した。
Imahe caption :
左上から時計回りに、2021年の惑星防衛演習に参加した三つの天文台。NASA ゴールドストーン惑星レーダー、カタリナ・スカイ・サーベイのマウント・レモン望遠鏡、NASA NEOWISE ミッション。左下は、2029年にアポフィスが接近する経路を示したイラスト。
Credit : NASA/JPL-Caltech/University of Arizona
地球に危機をもたらす可能性のある大きな小惑星を監視することは、世界的に実施される重要な取り組みだ。そのため、国際的な惑星防衛コミュニティでは、実際の小惑星の接近を、潜在的に危険な「新しい」小惑星との模擬遭遇として見立て、運用の準備状況をテストすることがある。このようにして得られた教訓は、将来、実際にこのシナリオを実行する必要が生じた場合、地球規模の被害を少しでも抑える、あるいはその危機を防止することができるかもしれない。
昨年、世界中の 100 人以上の天文学者が参加して、既知の危険な大型小惑星を惑星防衛監視のデータベースから削除し、新たに適切に検出できるかどうかを確認する演習が行われた。この訓練では、小惑星が「発見」されただけでなく、追跡しながら地球に衝突する可能性が常に見直され、最終的に衝突の可能性が排除された。
国際小惑星警報ネットワーク(IAWN)と NASA の惑星防衛調整局(PDCO)の協力により行われたこの訓練は、最初の発見からその後の特性評価まで、国際惑星防衛コミュニティが迅速に行動し、新しい地球接近小惑星の発見がもたらす危険性を特定し評価できることを確認するものであった。この演習の結果は、05月31日(火)に「Planetary Science Journal」に掲載された研究論文に詳述されている。
この演習では、実在する小惑星アポフィスに焦点を当てた。2004年の発見からしばらくの間、アポフィスは2029年以降に地球に衝突する可能性が高いと評価されていた。しかし、発見後数回の接近による追跡観測の結果、アポフィスの軌道は改良され、今後100年以上は衝突の危険性がないことがわかっている。今回の訓練では、2020年12月から2021年03月にかけて行われたアポフィスの直近の地球接近の科学的観測結果が、惑星防衛コミュニティによって活用された。
「現実の科学的情報導入によって、検出から軌道決定、小惑星の物理的特性の測定、さらには地球に衝突するかどうか、どこで衝突するかの判断まで、惑星防衛について対応する側にどのような一連の応答があるのかについてストレステストを行った」と、キャンペーンを主導したアリゾナ大学月惑星研究所の Vishnu Reddy(ヴィシュヌ・レディ)准教授は述べている。
「新しい」ターゲットを追跡する
天文学者は、アポフィスが2020年12月上旬に地球に接近することを知っていた。しかし、よりリアリティを持たせるために、小惑星の位置測定で国際的に知られる小惑星センター(MPC)は、アポフィスの最新の観測データを過去の観測から関連付かない工夫をし、未知の小惑星であるかのように設定した。小惑星が接近したとき、観測データにはアポフィスの記録がなかったのだ。
2020年12月04日、小惑星が明るくなり始めると、アリゾナ州の NASA が提供するカタリナ・スカイ・サーベイが初めて検出し、小惑星センターに天体のアストロメトリ(空での位置)を報告した。この観測ではアポフィスの記録がなかったため、この小惑星は新規の検出として記録された。その後、ハワイにある NASA 小惑星地球衝突最終警告システム (ATLAS) とパノラマ調査望遠鏡・迅速応答システム (Pan-STARRS) からも検出された。
アポフィスが NASA の近地球天体広視野赤外線探査機 (NEOWISE) の視野に入ったとき、MPC は地上の調査望遠鏡による観測とリンクして、小惑星が空を移動している様子を示した。12月23日、MPC は「新しい」地球近傍小惑星の発見を発表した。演習参加者は、その軌道と地球に衝突する可能性があるかどうかを評価するために、すぐに追加の測定値を集めた。
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このアポフィスの画像は、2021年03月08日から10日にかけて、小惑星が約 1060 万マイル(約 1700 万キロメートル)の距離に接近した際に、カリフォルニア州の NASA ゴールドストーンの Deep Space Communications Complex(深宇宙通信施設)とウエストバージニア州のグリーンバンク望遠鏡の電波アンテナで記録されたもの。
Credit : NASA/JPL-Caltech and NSF/AUI/GBO
JPL 近地球天体研究センター (CNEOS) の軌道決定計算を主導した NASA ジェット推進研究所(JPL)の航法エンジニア、Davide Farnocchia(ダビデ・ファーノッキア)は、「現実にはアポフィスが 2029 年に地球に衝突しないことがわかっていても、調査望遠鏡からのわずか数日の天体測定データでゼロから始めると、その年の天体衝突を理論上可能にする軌道の「大きな不確かさ」があった」と語っている。
2021年03月の小惑星接近の際、JPL の天文学者はカリフォルニアにある NASA の 230 フィート(70 メートル)ゴールドストーン太陽系レーダーを使って、小惑星の画像と速度、距離を精密に測定しました。これらの観測と他の観測所からの測定値を組み合わせることで、天文学者はアポフィスの軌道を改良し、演習の目的である2029年の衝突を除外することができた。(演習期間終了後の再測定で、100年以上にわたる衝突の可能性を排除することができた)
NEOWISE Homes in
地上観測では地球大気中の水分が光を吸収してしまうため、地球大気のはるか上空を周回する NEOWISE により、地上では不可能なアポフィスの赤外線観測を実現した。
NEOWISE の主任研究員である Amy Mainzer(エイミー・マインザー)と共に二つ目の論文を執筆したアリゾナ大学学部生の Akash Satpathy(アカシュ・サパシー)は、「宇宙から収集した独自の赤外線データは、この演習の結果に大きく貢献できた」と述べ、彼らのデータを演習に含めた結果を説明した。
「NEOWISE は、アポフィスの再発見を確認すると同時に、その大きさや形、さらには組成や表面の特性に関する手がかりなど、惑星防衛評価に使用できる貴重な情報を迅速に収集することができた」
カリフォルニア州シリコンバレーにある NASA エイムズ研究センターの参加科学者は、小惑星の大きさをよりよく理解することで、アポフィスのような小惑星が与える衝撃エネルギーを推定することもできた。そして、実際の状況下で災害対応機関が避難活動を行うのに役立つような、地表の現実的な衝突地点のシミュレーションを行った。
NASA 本部の惑星科学部門に所属する PDCO のプログラム・サイエンティストで、演習参加者を指導した Michael Kelley(マイケル・ケリー)は、「アポフィスの最新の接近の際に惑星防衛コミュニティが団結したのは印象的だった」と述べた。
「演習参加者の多くが遠隔地での作業を余儀なくされた COVID-19 パンデミック時でさえ、我々は非常に効率的に潜在的な危険性を検知し、追跡し、さらに詳細を知ることができた。演習は大成功だった」
その他の主要な惑星防衛演習ワーキンググループのリーダーは、NASA Ames の Jessie Dotson(ジェシー・ドットソン)、南アフリカ天文台の Nicholas Erasmus(ニコラス・エラスムス)、イスラエル Weizmann Institute の David Polishook(デビッド・ポリショック)、パサデナの Caltech-IPAC の Joseph Masiero(ジョセフ・マシエロ)、そして JPL Caltech 部門の Lance Benner(ランス・ベナー)であった。
NEOWISE の後継機である次世代 NEO サーベイヤーは、2026 年までに打ち上げられる予定で、太陽系に存在する地球近傍小惑星について NEOWISE が蓄積してきた知識を大幅に拡張することになる。
CNEOS、小惑星、地球近傍天体についての詳しい情報は、に関するより詳しい情報は、以下をご覧いただきたい。
NASA's Planetary Defense Coordination Office(NASA 惑星防衛調整局:PDCO)の詳細については、以下。
News Media Contact
Ian J. O'Neill
Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.
Karen Fox / Josh Handal / Alana Johnson
Headquarters, Washington
2022-077

Akira IMOTO
Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan