NEA 地球近傍小惑星「NASA Scout(スカウト)システムが小惑星の衝突を予測」

原文 : March 15, 2022 : NASA System Predicts Impact of Small Asteroid


小惑星「2022 EB5」は、地球を危機に陥れるには小さ過ぎたようだが、このような大気圏に衝突する前の小惑星を事前に観測するのは、今回で五度目となる。
 

Imahe caption :
このアニメーションは、小惑星「2022 EB5」が2022年03月11日(EST)に地球大気圏に衝突する前の太陽周回軌道を表している。大きめの動画ファイルなので静止画像とした。本文ウェブからご覧いただきたい。
Credit : NASA/JPL-Caltech
 

2022年03月11日、小さな小惑星が地球の大気圏に突入し、ノルウェー沖上空において崩壊に至った。しかし、この出来事は突然に起こったものではなく、恐れおののくほどの驚きでもなかった。天文学者は、小惑星が衝突する場所と時間を正確に予測し、その通りに衝突することを知っていたのだ。

小惑星が衝突する二時間程前に、ハンガリー北部のピシュケシュテトゥー天文台の K. Sarneczky(サルネツキー)が、小天体情報を網羅する Minor Planet Center(小惑星センター:MPC)に通報した。直後、MPC の Near-Earth Object Confirmation Page(地球近傍天体確認ウェブ紙)に掲載され(この時点で仮符号「2022 EB5」が打たれる)、未知の小惑星であることを確認するために行われる追加観測のためのフラグが立った。

直後、NASA が運用する天体衝突の危険度を評価するシステム(NEOCP Hazard Assessment)である Scout(スカウト)が、発見者サルネツキーからの報告にあった初期測定値から「2022 EB5」の軌道計算を行った。スカウトのシステムは「2022 EB5」が地球の大気に衝突すると判断すると即座に、Center for Near Earth Object Studies(地球近傍天体研究センター:CNEOS)と NASA's Planetary Defense Coordination Office(NASA 惑星防衛調整局:PDCO)に警告を発し、スカウトのウェブページにフラグを立てて地球近傍天体観測コミュニティに速報を流した。
NASA JPL(ジェット推進研究所)運用の CNEOS が管理するスカウトは、MPC 小惑星センターのデータベースを自動的に検索し、報告された天体観測情報データを探す。CNEOS は、惑星防衛調整局(PDCO)を支援し、衝突の危険性評価を改善するための既知のすべての地球近傍小惑星の軌道を計算している。
 

いろんな部署が並んでいてややこしいですが、以下簡単に。

発見者サルネツキー → MPC に報告
MPC → NEO 確認ページ掲載(仮符号「2022 EB5」付与)
直後、天体衝突危険度評価システム スカウト発動
スカウト → 報告天体の軌道計算実施
スカウト → CNEOS と PDCO に衝突警告を速報

このような感じでしょうか。仮符号「2022 EB5」は、それ自体が観測年月と報告順番を表しています。
 

「スカウトによる軌道計算によって報告天体が地球衝突物だと初めて認識した時点での単一観測所での観測回数は 40 分間に 14 回程度であった。我々スカウトチームは、初期報告としてグリーンランド西部からノルウェー沖までの衝突可能性範囲を確定した」と語るのは、JPL でスカウトを開発したナビゲーションエンジニアの Davide Farnocchia(ダビデ・ファルノキア?)。
「その後の多くの観測所による小惑星の追跡観測により、その軌道と衝突位置特定の計算がさらに正確になって行った。

Imahe caption :
アイズ・オン・アステロイドは、科学データを使って、太陽を回る小惑星や彗星の軌道を視覚化した、完全インタラクティブな作品だ。ズームインして、お気に入りの宇宙機と一緒に、地球近くの魅力的な天体を美しい 3D で探索して欲しいが、例によってここでは画像のみ。本文ウェブからご覧いただきたい。
Credit : NASA
 

スカウトの解析により、
「2022 EB5」の大気圏突入が、グリーンランドの東海岸から約 300 マイル(470 キロメートル)、アイスランドの北東にあるノルウェーの島、ヤンマイエン島の南西であることを弾き出した。
東部標準時(EST)の午後05時23分(太平洋標準時の午後02時23分)、「2022 EB5」はスカウトの予測通りのコースで大気圏に突入し、低周波音検出器で予測通りの時間に地球衝突が起こったことが確認された。
 

地球に接近してきた小惑星の観測結果と、低周波音測定器による衝突時のエネルギー測定の結果から、「2022 EB5」の大きさは約 2 m と推定される。このサイズの小惑星は、衝突前(あるいは地球に大接近する前)の数時間にのみ、検出可能な光度に達する。NASA が惑星防衛調整局(Planetary Defense Coordination Office)の通常ミッションとしての検出・警告レベルの天体にははるかに及ばない規模であった。

「「2022 EB5」のような小さな天体は宇宙には数多く存在し、およそ 10 ヶ月に一度の割合で地球大気圏に衝突している」と、JPL の CNEOS のディレクターである Paul Chodas(ポール・チョダス)は言う。
「しかし、これらの小惑星のうち、実際に宇宙空間で検出され、地球衝突前に広範囲に観測されたものはほとんど無い。何故なら、これらの天体は常に最後の数時間までは非常に暗く佇み、検出を目指す望遠鏡がその任を果たすには、適度な時間に天体が存在する空の適所を観測しなければならないからだ」
このような小さな天体の観測が果たせた場合、それは「偶然」という言葉で表現するしかない。
 

地球に危機をもたらす衝突可能性のある大きな天体は、地球に接近するよりずっと遠くで発見されるだろう。NASA の目標は、そのような天体を追跡し、軌道を計算することで万が一にも衝突の可能性がある場合、事前に速く通知できるようにすることである。しかし、今回のような非常に小さな小惑星の事象によっても惑星防衛コミュニティはその能力を発揮することができ、CNEOS の衝突予測モデルが、より大きな天体の衝突の可能性に対する対応の場合でも、非常に有効であることを確信することができたのだ。

「2022 EB5」は、地球の大気圏に突入する前に宇宙で検出された小惑星としては五番目となる。地球に衝突する前に発見され、追跡が行われた初めての小惑星は、2008年10月にスーダン上空で大気圏に突入し、分裂し粉砕した「2008 TC3」である。この小惑星は、幅 13 フィート(4 メートル)の大きさで、ヌビア砂漠に何百もの小さな隕石をばらまいた。今後、観測精度の向上により、地上に到達前に崩壊する規模の天体が地球大気圏に突入する前に検出されるという、我々にとって被害が極小で微弱な天体発見が増えることだろう。

CNEOS、小惑星、地球近傍天体に関するより詳しい情報は、以下をご覧いただきたい。

Center for NEO Studies

Asteroid Watch

NASA's Planetary Defense Coordination Office(NASA 惑星防衛調整局:PDCO)の詳細については、以下。

Planetary Defense | NASA

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2022-032



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

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