NASA Artemis I 計画「ソーラーセイルミッション NEA Scout」

NEA Scout(ニア・スカウト)探査機は、スクールバスより小さいと推定される小惑星を訪れる。これまで宇宙機が探査した中で最も小さい小惑星へのアプローチだ。
 

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NEA Scout は、シューボックスサイズの小型 CubeSat(左上)と、ラケットボールコートほどの大きさのアルミコーティングされた薄いソーラーセイル(左下)で構成されている。SLS Artemis I で打ち上げられた後、セイル展開した宇宙機は、太陽光を利用して小惑星へと向かう(右)。
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SLS(スペースローンチシステム)の初フライトである 「Artemis I 計画(無人オリオン宇宙船)」により、セカンダリーペイロードとして打ち上げられる NASA のシューボックスサイズの地球近傍小惑星探査機は、これまで探査機が到達した中で最も小さい小惑星を追う。このクラスのミッションは NASA では初めてのものだ。

NEA Scout 探査機が追う小惑星 2020 GE は、大きさが 60 フィート(18 メートル)以下の地球近傍小惑星(Near Earth Asteroid)である。330 フィート(100 メートル)以下の小惑星は、これまで近接探査されたことがない。探査機は科学カメラを駆使して接近し、天体の大きさ、形、自転、表面の性質を測定し、2020 GE を包む塵や破片を探査する予定だ。

搭載される科学カメラの解像度は 10 cm 以下であり、2020 GE が岩のように固いのか、それとも OSIRIS-REx が探査した小惑星 Bennu(ベンヌあるいはベヌー)のような大きな小惑星のように、小さな岩や塵が集まってできているのか、科学者チームが判断するのを助ける。

NASA JPL(ジェット推進研究所)の Julie Castillo-Rogez(ジュリー・カスティロ・ロゲス)主任研究員は、「地球上の観測機関が検出した NEA(地球近傍小惑星)のなかで、 NEA Scout のターゲットがいくつか特定されたが、それらはすべて 16~100 フィート(5~30 メートル)以下のサイズだ」と述べている。
「現在の我々にとっての 2020 GE のような小惑星は、探査機を送るに当ってほとんど未知の小惑星カテゴリだ」

2020 GE は、NASA's Planetary Defense Coordination Office(NASA 惑星防衛調整室)の地球近傍天体探索の一環として実施されたアリゾナ大学の Catalina Sky Survey(カタリナ・スカイ・サーベイ)によって、2020年03月12日に発見された。
 

NASA's Advanced Exploration Systems Division(先進探査システム部門)のもと、アラバマ州ハンツビルのマーシャル宇宙飛行センターと JPL が開発した NEA Scout 探査機は、微小サイズの NEA への理解を深めるために実施される科学技術実証ミッションである。6 ユニット構成の CubeSat を使用し、Space Launch System (SLS) ロケットに積載される 10 基のセカンダリーペイロードの内の 1 基として積載される予定だ。NEA Scout は打ち上げられた後、ロケット本体とオリオン宇宙船をつなぐアダプターリングに取り付けられたディスペンサーから解き放たれ展開されることになる。

Near Scout 探査ミッションは、小惑星の資源を利用する将来の有人およびロボット・ミッションのための機敏な偵察機として機能する。またこのクラスの NEA が地球に及ぼす重要なインパクトに関する知見を得ることも求める。
 

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アイズ・オン・アステロイドは、小惑星や彗星が太陽の周りを回る軌道を、科学データを使って可視化したものです。ズームインして、お気に入りの宇宙船と一緒に、これらの魅力的な地球近傍天体を探検したり遊べます。ここではスクリーンショットのみですので、原文ニュース内からお遊びくださいませ。
Image Credit : NASA
 

「地球防衛の観点からは大型の小惑星が最も懸念されるが、2020 GE クラスの天体ははるかに一般的で個体数が多く、サイズが小さいにも拘らず、我々の惑星に重大な危機をもたらす可能性がある」と Castillo-Rogez(カスティロ-ロジェス)は述べた。チェリャビンスク隕石落下事故は、直径約 65 フィート(20 メートル)の小さな小惑星によって引き起こされた。2013年02月15日にロシアの都市の上で爆発し、衝撃波が発生して街中の窓が割れ、1,600人以上の人々が負傷した。それは、2020 GE と同じクラスの地球近傍小惑星によるものだった。
 

小さくて高性能

小惑星 2020 GE を探査するのは、NEA Scout のミッションの一部に過ぎない。到達するのが深宇宙であることを想定したソーラーセイル技術の実証も行う。打ち上げ後、ディスペンサーから放出されると、ステンレス合金のブームを使ってソーラーセイルを広げ、小さなパッケージからラケットボールコートほどの大きさ、つまり 925 平方フィート(86 平方メートル)のセイルに拡大されていく。

髪の毛の太さよりも薄い、プラスチックコーティングされたアルミニウム製のこの軽量で鏡のようなセイルは、太陽から放射される光の量子粒子であるソーラーフォトンを反射して推力を発生させる。NEA Scout の推進力のほとんどはこのセイルが担うが、限られた推進剤を使用する小型のコールドガス・スラスタも操縦や軌道調整の補助に使用される。

「このプロジェクトの発端は、【小さな宇宙機によって深宇宙探査を行い、低コストで有用な科学を生み出すことは本当に可能か】という問いからだ。小惑星の特性評価ミッションを実施する場合、CubeSat では推進システムとそれに必要な燃料を搭載するための十分なスペースを割けないからだ。大きな挑戦となった」
ミッションの技術主任研究員であるマーシャル(Marshall Space Flight Center)の Les Johnson(レス・ジョンソン)はこのように語る。

太陽光は微弱ながらも一定の力として物体に作用するので、大きなソーラーセイルを展開した小さな宇宙機は、最終的に秒速何キロもの速さまで加速し移動することができる。ジョンソンによれば、ソーラーセイルは、小型の宇宙機に適した推進システムである。NEA Scout は帆を傾けることによって、表面に当たる太陽光の角度を変えて推力調整や航行軌道調整を行う。まさにヨットが風を利用して海洋を航行するように操縦を行うように。

2023年09月に小惑星 2020 GE が地球に大接近する。それまでに月による重力アシストを利用して NEA Scout は小惑星に追いつけるだけの速度確保を行う。そして、接近した小惑星の 1 マイル以内に近づく前に、ミッションナビゲーターが NEA Scout の軌道を微調整する。

「NEA Scout は、おそらくこれまでで最もゆったりとした小惑星フライバイを行うことになるだろう」とロゲスは言う。
「おかげで数時間かけて貴重な科学を収集し、このクラスの小惑星がどのようなものかを”その場観測”できるのだ」

NEA Scout ミッションは、今後のソーラーセイル探査の指標となるものと言える。NASA が実施する Advanced Composite Solar Sail System(先進的な複合型ソーラーセイルシステム)は、2022年の打ち上げ後、CubeSat からソーラーセイルを展開するための軽量ブームを実証する予定だ。その後、2025年に 18,000 平方フィート(約 1,700 平方メートル)のソーラーセイル技術実証機「ソーラークルーザー」がソーラーパワーにより太陽に向かって移動し、続く将来のミッションで太陽がもたらす宇宙天気からの影響について調査する予定である。

NASA NEA Scout ミッションの詳細については、以下をご覧頂きたい。

Advanced Exploration Systems - NEA Scout

当サイトでの SLS Artemis I 計画詳細は以下にある。

月世界へ! オリオン宇宙船を乗せた SLS ファーストフライト

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Ian J. O’Neill
Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.
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Molly Porter
Marshall Space Flight Center, Huntsville, Ala.
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Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office