NASA Juno(ジュノー)ミッション「Juno 探査機が聴いた衛星ガニメデの声」

原文 : December 17, 2021 : NASA's Juno Spacecraft 'Hears' Jupiter's Moon


木星探査機 Juno による衛星ガニメデフライバイで収集された音声トラックは、ドラマチックな臨場感を提供してくれる。これは、アメリカ地球物理学連合秋季大会(American Geophysical Union Fall Meeting)のブリーフィングで、木星探査ミッションの科学者たちが共有したハイライトのひとつである。
 

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探査機ジュノーが2021年06月07日にガニメデをフライバイした際に、ジュノーカム・イメージャが取得した画像。最接近時、ジュノーはその表面から 645 マイル(1,038 キロメートル)以内にいた。尚、ウェブ紙レイアウトの都合で、左に 90 度傾けた。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS
 

ガニメデ・フライバイの音、磁場、木星と地球の海や大気の比較などが、ニューオーリンズで開催されたアメリカ地球物理学連合秋季大会で行われた NASA のジュノー木星探査に関する説明会で語られた。

サンアントニオにある Southwest Research Institute(サウスウエスト研究所)のジュノー主任研究者である Scott Bolton(スコット・ボルトン)は、2021年06月07日にミッションが木星の衛星ガニメデを近接フライバイを行った際に収集したデータから生成した50 秒間の音声トラックを初めて公開した。木星の磁気圏で発生する電気・磁気電波に同調するジュノの観測装置「Waves」は、それらの放射データを収集した。そして、その周波数を音声の範囲に置き換え、音声トラックを作成した。

「このサウンドトラックは、探査機としては 20 年以上ぶりにガニメデをフライバイする Juno に同乗しているような気分にさせるほどワイルドなものだ」とボルトンは言う。
「耳を澄ませば、録音の中盤あたりで急激に高周波に変化しているのが聞こえるが、これはガニメデ磁気圏の違う領域に入ったことを示している」
 

2021年06月07日に、Juno 探査機が木星衛星ガニメデをフライバイした際に収集した電波の放射を、ビジュアルと音声で紹介している。
Credit : NASA/JPL-Caltech/SwRI/Univ of Iowa
 

「Waves」から得たデータの詳細な解析とモデリングは現在進行中である。
「最接近直後の周波数の変化は、ガニメデの夜側から昼側へフライバイしたタイミングである可能性がある」と、アイオワ大学の William Kurth(ウィリアム・カース)は言う。彼は Juno ミッションにおける電磁波観測の主任共同研究者である。

Juno がガニメデに最接近したとき(ミッションの34回目の木星周回中)、探査機はガニメデの表面から 645 マイル(1,038 キロメートル)以内にあり、相対速度は時速 41,600 マイル(67,000 キロメートル)で移動していた。
 

強力な磁気圏を持つ木星

メリーランド州グリーンベルトにある NASA's Goddard Space Flight Center(NASA ゴダード宇宙飛行センター)の Jack Connerney(ジャック・コナーニー)は、Juno の磁力計の主任研究員で、ミッションの副主任研究員でもある。彼のチームは、これまでに得られたデータから木星磁場の詳細な地図を作成した。
 

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この画像は、2021年11月29日にジュノーの38回目の木星フライバイの際、ジュノーの可視光イメージャである「JunoCam」が捉えた木星の大きな二つ回転嵐を示している。木星の北緯 50 度 05 分、高度 3,815 マイル(6,140 キロメートル)で取得されたもの。画像からは、2.5 マイル(4 キロメートル)ほどの大気の細部まで識別できる。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS
 

Juno の主要ミッションで、辿った 32 の軌道から収集されたデータをもとに作成されたこの地図は、巨大ガス惑星の赤道上にある謎の磁気異常、グレートブルースポットに関する新しい知見を提供するものだ。Juno の獲得データは、木星の磁場に変化が起きていること、グレートブルースポットが木星内部の他の部分に対して毎秒約 2 インチ(4 センチ)の速度で東に移動しており、約 350 年で木星を一周していることを示している。

一方、木星の赤道直下にある寿命が非常に長い大気高気圧である大赤斑は、比較的速い速度で西向きに漂っており、約 4 年半で木星を一周している。

さらに、木星の帯状風(zonal winds:東西に走るジェット気流で、いわゆる木星の縞模様、帯状模様)がグレートブルースポットを引き離していることも、新しい地図から解る。これは、木星表面で測定された帯状風が、高高度表層から木星内部の奥深くまで到達していることを意味する。

Juno によって新しい磁場マップが創られたことにより、地球の磁場との比較もできるようになった。このデータは、木星内部のダイナモ作用(天体が磁場を発生させるメカニズム)が、「ヘリウムの雨」環境より下層で起こる金属水素による作用を示唆するものである。

Juno によって収集された探査データは、木星に限らず、地球を含む他の惑星のダイナモ効果の謎への理解をさらに深めることになるだろう。
 

地球の海洋と木星大気

カリフォルニア大学サンディエゴ校のスクリップス海洋学研究所(Scripps Institution of Oceanography)の海洋物理学者でポスドク研究員である Lia Siegelman(リア・シーゲルマン)は、木星の極にあるサイクロンが、博士課程在学中に研究した地球海洋の渦と似ていることに気づき、木星大気ダイナミクスの研究に進んだ。

シーゲルマンは、「木星サイクロン周辺の乱流の豊かさや、フィラメント、小さな渦を見たとき、地球海洋で見られる渦の周りの乱流を思い出した」と話す。
「これらは、流れのトレーサーとして機能するプランクトンの発生によって明らかになる地球の海の渦の高解像度衛星画像で詳細を見ることが出来る」

木星の極で発生した単一の初期形態の渦は、我々が木星で見る渦の幾何学的パターンが自発的に出現し、永続的に木星表面に留まることを示している。つまり、木星極で発生するような基本的な幾何学的配置が、我々に見せる興味深い構造に変化することを可能にしているのだ。

木星のエネルギーシステムは地球のそれより遥かに大きなスケールを持つが、木星大気の力学を理解することは、我々の地球で起こっている物理的なメカニズムを理解することに繋がるのかもしれない。
 

ペルセウス座

また、Juno チームは、木星の薄く微かなダストリングを内側から撮影した最新の画像を公開した。探査機搭載のステラリファレンスユニット(Stellar Reference Unit:星間座標によるナビゲーションシステム)のナビゲーションカメラで外側に向けて撮像したものだ。この画像で最も明るく見える細い帯とその周辺の暗い領域は、木星の小さな衛星である Metis(メティス)と Adrastea(アドラステア)から発生した塵に由来する。また、ペルセウス座も写っている。

「5億マイルも離れた探査機から、これらの見慣れた星座を眺めることができるなんて素晴らしい。息をのむような美しさだ」と、NASA JPL(ジェット推進研究所)の Juno ステラリファレンスユニット主任共同研究者である Heidi Becker(ハイディ・ベッカー)は語る。
「しかし、総てのものが、地球からの夜空を鑑賞したときと同じように見えている。我々がどれほど小さな存在か、未知数の知るべき領域が無制限に待ち受けていることを想起させる、いわゆる「畏敬の念(awe-inspiring)」を抱かせるものだ」
 

ミッションの詳細

Juno ミッションは、NASA JPL(ジェット推進研究所)が管理している。プロジェクトは、サンアントニオにあるサウスウエスト研究所所属のスコット J. ボルトンがチームを率いる。
Juno は NASA のニューフロンティア計画の一部であり、アラバマ州ハンツビルの NASA マーシャル宇宙飛行センターにおいて、NASA 科学ミッション本部が管理している。宇宙船の製造・運用は、デンバーにあるロッキード・マーチン・スペース社が行っている。

Juno の詳細については、以下のURLを参照頂きたい。

Juno - mission to Jupiter

Mission Juno
 

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Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.

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Southwest Research Institute, San Antonio
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office