Dawn Mission : 解き明かされた謎「ケレスの高輝度スポットは表面下の塩水噴き出しによる堆積層」


NASA が得た Dawn(ドーン)ミッションからのデータは、長い間解決されていない二つの疑問に答えている。

ケレスの中に液体はあるのか?
準惑星は地質学的に活動的だったのはいつまでだったのか?
 

Imahe caption :
着色されたオッカトル・クレータの画像。アニメイション(1.6 MB)は " こちら " から観れる。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA
 

NASA Dawn(ドーン)探査機は、火星と木星の間にある小惑星メインベルトにある準惑星ケレスの常識外のクローズアップビューを我々にもたらした。2018年10月のミッション終了までに、オービターのフライバイはケレス上空 22 マイル(35 km)未満にまで沈み、ケレスにおいて特徴ある神秘的な明るい領域(高輝度スポット)の鮮明な詳細を明らかにした。

科学者たちは当初、この輝く領域は主に炭酸ナトリウム(ナトリウム、炭素、酸素の化合物)でできた堆積物であると考えていた。それらは、表面まで浸透して蒸発し、反射率の高い塩の表皮として堆積させた。しかし、彼らがまだ決定していなかったのは、その液体がケレスのどこから来たのかということであった。

その後、ミッションの終わり近くに収集されたデータを分析することにより、ドーンの科学者は、液体が塩水または塩分が豊富な水の深い貯水池から来たと結論付けた。ケレスの重力を研究することにより、科学者は準惑星の内部構造について知見を深め、塩水貯留層が深さ約 25 マイル(40 km)、幅数百マイルであることを確認することができた。

ケレスは、太陽系外側にある幾つかの氷衛星のように、大きな惑星との重力相互作用によって生成される内部加熱の恩恵を受けていない。しかし、最も広大な明るいエリアがあるケレスの幅 57 マイル(幅 92 キロメートル)の Occator Crater(オッカトル・クレータ)に焦点を当てた新たな研究は、ケレスが上述の氷衛星のように水が豊富な世界であることを確認している。
 

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ドーン探査機が捉えた準惑星ケレスのオッカトルクレータ領域。複数のキャプチャを組み合わせて着色されたもの。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA
 

オッカトル・クレータの地質学的活動の範囲を含めた調査結果は、2020年08月10日に Nature Astronomy、Nature Geoscience、および Nature Communications 発行による特集論文に掲載されている。

「ドーンは、人類未経験の探査計画によって地球外遠征に着手し、我々が期待していたよりもはるかに多くのことを成し遂げた」と、NASA JPL(ジェット推進研究所)のミッションディレクターである Marc Rayman(マーク・レイマン)は言った。
「その長く生産的な任務の終盤から得たこれらの刺激的な新しい発見は、ケレスに注目した惑星間探検家への素晴らしい賛辞であろう」
 

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準惑星ケレス表面にあるオッカトル・クレータの南東の床を横切るこのビューは、2018年にドーン探査機二回目の拡張ミッション中に、低空フライバイによって取得した画像に基づいて合成された。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA/USRA/LPI
 

Solving the Bright Mystery : 高輝度スポットを謎解く

2015年、ドーン探査機がケレスに到着する以前に、科学者たちは望遠鏡によって拡散した明るい領域に気づいていたが、その性質は不明であった。ドーンはケレスに近づくにつれ、オッカトルクレータ(後に名付けられた)内に写る二つの異なる反射率の高い領域の画像をキャプチャした。これらの領域は、後に「Cerealia Facula」および「Vinalia Faculae}と名付けられた。(「Faculae(白斑)」は明るい領域を意味する。)

科学者たちは、降り注ぐ微小隕石が頻繁にセレスの表面を傷つけ、破壊された破片を表面に散逸させることを知っていた。本来ならば時が経つにつれてそのような現象は、これらの明るい領域を暗くするはずだ。このことから高輝度スポットの明るさは、これらエリアの表面環境は若いものであることが示唆される。エリアの形成過程と、その形成物質がいかに新しいものであるかを解明することが、2017年から2018年に渡るドーンの最後の延長ミッションの主な焦点だった。

研究結果からは、明るい地域が年代が若いことを確認しただけでなく、その形成が200万年未満であることを示した。また、これら堆積過程を推進する地質学的活動が現在に至っても進行中である可能性があることも判った。この結論は、Cerealia Facula(オッカトル・クレータ内の高輝度スポット)に濃縮された塩化合物(水と塩化アンモニウムと化学的に結合した塩化ナトリウム)という、研究者による重要な発見から導かれた。

ケレスの表面では、水を含む塩は数百年以内に急速に脱水していく。しかし、ドーンによる観測結果からは、まだ水が残っていることが示されているため、流体はごく最近、表面に到達したに違いない。これは、オッカトル・クレータエリアの下に液体水が存在することと、内部の奥深くから表面に向けて物質が継続的に供給されていることの証拠である。

科学者たちは、液体が表面に到達することを可能にする二か所の主要な経路を発見した。
「Cerealia Facula の大規模な鉱床では、塩の大部分は約 2,000 万年前に火口を形成した際の衝撃熱によって溶けた表面直下のぬかるみのある地域から供給された」とドーンの主任研究者 Carol Raymond(キャロル・レイモンド)は述べている 。
「衝撃熱による影響は数百万年後に治まった。しかし衝撃はまた、深くて長寿命である貯留層に到達するほどの大きな割れ目を作り、塩水が表面に浸透し続けることを可能にしたようだ」
 

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" Eyes on the SolarSystem " を使ったケレスのインタラクティブ体験のワンショット。 こちら のリンクから別ウィンドウで表示する。下部にある検索機能を使用して、太陽系の他の天体ほとんどすべてを探索する。ズームインして準惑星を回転させると楽しめる。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA/USRA/LPI
 

Active Geology : アクティブな地質学

我々が知る太陽系においては、氷の地質学的活動は主に大惑星に伴する氷衛星で起こり、そこでは惑星との重力の相互作用によって活動が継続される。しかし、その例はケレス表面での塩水の「噴き出し移動」には当てはまらず、他の大惑星に影響を受けない氷が豊富な大きな天体でもケレス同様な活動が行われている可能性があることを示唆している。

オッカトル・クレータの直近の液体移動のいくつかの証拠は明るい堆積物から得られるが、他の手がかりは地球のピンゴ(Pingos) 1) を彷彿とさせる興味深い円錐形の丘の形成物質から得ることができる。これは凍った加圧地下水によって形成された極地の小さな氷の山で、そのような特徴は火星で発見されている。しかしケレスのような準惑星からの発見は初めてだ。

1) Pingos は、永久凍土内の氷に覆われた丘で、高さは3~70 m、直径は30~1,000 m程度。それらは通常、形状が円錐形で、北極や亜北極などの永久凍土環境でのみ成長し、持続する。ピンゴは周辺氷河地形であり、氷河ではない地形またはより寒い気候に関連するプロセスとして定義される。Wiki (En.)
 

科学者は深さ方向の関数としてのケレスの地殻構造の密度を、より大規模にマッピングすることができた。氷が豊富な惑星体としては初めてのことだ。彼らは重力測定を使用して、圧力による単純な効果をはるかに凌いで、ケレスの地殻密度が深さとともに大幅に増加することを発見した。彼らは、ケレスの貯水池が凍結していると同時に、塩と泥が地殻の下部に組み込まれているだろうと推測するに到ったのだ。

ドーン探査機は、搭載する効率的なイオン推進システムにより、ふたつの地球外の目的地(ケレスと巨大な小惑星ベスタ)を周回する(現在もケレスを無操縦周回しているため現在進行形)人類初の宇宙機だ。ドーンの航行制御システムに最後に残る主要な燃料であるヒドラジンを使用したのち、通信のためにドーンが地球を向くことも、電力を生成するために太陽電池アレイを太陽に向けることもできなくなった。ケレスでは、その表面に有機物があり、表面下に液体があることが判明したため、惑星保護規則により、準惑星に数十年間影響を与えないように、探査機を長期間の安定軌道に配置する必要があった。
 

カリフォルニア州パサデナにあるカリフォルニア工科大学の一部門である JPL ジェット推進研究所は、ドーン・ミッションを管理する。ドーンは、アラバマ州ハンツビルにある NASA マーシャル宇宙飛行センターによって管理されている総局のディスカバリー計画プロジェクトである。JPL は、ドーン・ミッションサイエンス全体を担当し、バージニア州ダレスのノース・ロップ・グラマンは、宇宙船を設計および製造した。ドイツ航空宇宙センター、マックス・プランク太陽系研究所、イタリア宇宙機関、イタリア国立天体物理学研究所は、ミッションチームの国際的なパートナーだ。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO. TPSJ Editorial Office