NASA OSIRIS-REx(オシリス・レックス)探査機「小惑星ベンヌ(Bennu)から放出される粒子について」


一昨年末、NASA 小惑星探査機 OSIRIS-REx(オシリス・レックス)が小惑星 Bennu(ベンヌ)に到着後間もなく、ミッションの科学チームによって思いも依らない発見があった。Bennu 表面上からの継続的な宇宙空間への粒子放出が明らかになり、この小惑星は今だ活動中であることを我々に知らしめた。今後も続くベンヌ探査によって得られる観測データやリターンサンプルは、この興味深い粒子放出活動が発生している理由を明らかにする可能性がある。
 

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2019年01月06日に表面から粒子を放出する小惑星 Bennu のこのビューは、NASA OSIRIS-REx 探査機に搭載された NavCam 1 イメージャーによって撮影された二つの画像を組み合わせて作成された。粒子を明確に示すための露出は 5秒。トリミングや各レイヤーの輝度とコントラストの調整など、他の画像処理技術も適用されている。
Image Credit : NASA/Goddard/University of Arizona/Lockheed Martin
 

科学チームがこの現象を初めて確認したのは、探査機が Bennu の初期軌道に突入されてから一週間後の2019年01月06日であった。探査機搭載のナビゲーションカメラで撮影された画像には、Bennu から粒子が放出されるイベントが見られた。一見したところ、探査機から見て粒子は小惑星の後ろの星のように見えたが、綿密な検査で、小惑星がその表面から物質を放出していることが明らかとなった。Bennu とランデブーする探査機にとって、これらの粒子が安全性を損なうことはないと結論付けた後、ミッションはこの粒子放出活動を完全にデータ化するために、予定になかった追加観測を開始した。
 

Bennu's Mysterious Particles


 

このアニメーションは、2019年01月19日に Bennu の表面から放出された粒子のモデル化された軌道を示している。小惑星の表面から放出された後、粒子は短時間 Bennu を周回して表面に落ちるか、または Bennu から宇宙へと逃げ出していった。
 

「Bennu 探査における多くのサプライズの中で、この粒子放出は、私たちの好奇心を大いに刺激し、この謎を解明するために過去数ヶ月を費やした」と、アリゾナ大学ツーソン校(University of Arizona in Tucson)の OSIRIS-REx PI(主任研究者)である Dante Lauretta(ダンテ・ローレッタ)は話す。
「これは、小惑星の活動形態に関する知識を獲得する絶好の機会だ」
 

その後、ミッションチームは、12月06日に発行された科学論文で、粒子放出現象が Bennu の表面の様々な場所で発生していることを説明した。最初のイベントは南半球で発生し、2番目と3番目のイベントは赤道付近で発生した。さらに三つのイベントはすべて、午後遅くの Bennu で「開催」された。つまり、太陽との位置関係から、夕方に近づく時点での発生ということになる。

チームは、Bennu の表面から粒子が放出された後、それが短い時間 Bennu を周回し、その表面に落ちるか、または Bennu から宇宙空間に脱出したことを確認した。観測された粒子は、1 秒あたり最大 10 フィート(3 メートル)で移動し、1 インチ未満から最大 4 インチ(10 センチ)のサイズのものが測定された。01月06日に行われた最大のイベントでは、約 200 個の粒子放出現象が観察された。

チームは、放出イベントを引き起こした可能性のある多種多様なメカニズムを調査し、「流星体衝撃」「熱応力破壊」および「放出された水蒸気」の三つを候補としてリストアップした。

流星の衝突は、Bennu が位置する深宇宙付近ではよく見られ、OSIRIS-REx から観測出来ていない場所で、これらの小さなスペースロックの破片がベンヌに衝突し、衝突の勢いでゆるい粒子を揺らしている可能性がある。

チームはまた、熱破壊がひとつの合理的な説明ではないかと考えている。Bennu の表面温度は、4.3 時間の自転の間に大きくに変化する。夜の時間は非常に寒いが、三つの主要なイベントが発生した午後半ばには小惑星の表面は大幅に暖まる。この温度変化の結果として、岩石が割れたり壊れたりし始め、最終的に粒子が表面から放出されている可能性がある。このサイクルは、熱応力破壊として知られている。

水の放出も小惑星の活動を説明するかもしれない。Bennu 表面の水分で固められた粘土が加熱されると水が解放され、圧力が発生し始める可能性がある。吸収された水が、放出される岩の亀裂や細孔に圧力を掛けると、表面が撹拌されて粒子が噴出する可能性もある。

しかし、自然は常に簡単な説明を許してはくれない。NASA JPL の論文執筆者であり主任研究員である Steve Chesley(スティーブ・チェスリー)は、次のように話す。
「これらの考えられる二つ以上のメカニズムが機能しているかもしれない。例えば、熱破壊は表面の材料を細かく切り刻み、流星体の衝突がその刻まれた小石を宇宙空間に放出するのをはるかに容易くする」

熱破壊、流星体の衝突、またはその両方が実際にこれらの粒子放出イベントの原因である場合、この現象は同様なメカニズムが発生するすべての小惑星での現象である可能性がある。ただし、水の放出がこれらの放出イベントの原因である場合、この現象は、Bennu などの含水鉱物を含む小惑星に固有の現象と言える。

Bennu のこれらの活動は、採取されたサンプルが地球に届くと、より大きな解明の機会をもたらす。放出された粒子の多くは、探査機のサンプリングミッションで採取できるほど小さいため、リターンサンプルには、放出されて Bennu の表面に戻った物質が含まれている可能性がある。特定の粒子が排出されて Bennu に戻ったと判断することは、干し草の山で針を見つけることに似た難業かもしれないが、しかし、Bennuから地球に戻ったサンプルによって、類似しているが変化を起こしていることを確認するだろう。粒子放出現象が謎であり続けているとしても、その手がかりはデータや研究のための資料の形で我々の元に帰ってくる。

Bennu 表面からのサンプリングは、2020年夏に予定されており、採取されたサンプルは2023年09月に地球に届く予定だ。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office