カッシーニ探査機 : リング形成材料によってコーティングされたミニ衛星群


土星系のリングが形成されている領域やリングに極めて近いところに、五つの小さな衛星が存在する。カッシーニ探査機によるリング近接フライバイ観測により、これら異質な衛星表面がリング形成物質で覆われていることを突き止めた。これには少し外側のエンケラドスから発散する氷の粒子も含まれる。
 

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土星リング領域付近を周回する衛星。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

NASA JPL の Bonnie Buratti(ボニー・ブラッティ)は次のように述べる。
「このような奇妙な微小衛星の説明し難い密接な接近周回は、リングとの相互作用がどのようなものなのかを我々に垣間見させた」
ブラッティは、03月28日付のサイエンス誌に発表した35名の主著者だ。
「我々は、土星リング・衛星系が非常に活発でダイナミックな相互作用を持つことの証拠を既に得ている」
 

2017年にカッシーニミッションが終了するまでに6機の観測機器によって収集されたデータからの新たな分析は、リングからの塵と氷がリング形成領域と近くに埋め込まれるように周回する衛星に付着することの明確な確認作業となる。
また研究者らは、衛星表面が非常に多孔質であることも確認された。さらにこの表面への蓄積が多段階を経ていることも判っている。これらリング形成物質は、より大きな物体の残骸である可能性もある。

孔の分布状況は、衛星の形状を説明する。全球降着とはならず、赤道の周りに材料が降着し、それはまるで球状のラビオリのようだ。
「これらの衛星が、リングから氷と塵の粒子をすくい上げて、衛星の赤道の周りに小さなスカート状に形成している様を我々は見つけたのだ」とブラッティは言った。
「重力が材料を引っ張るため、中心の密度の高い球状ボディは、より球形度を増していく」

「こうしたプロセスは、おそらくリング領域全域に渡って進行しており、リング領域にある大きな粒子の周囲にもリング形成材料の付着が起こっている。だから逆にこれら衛星の詳細を調べると、リング形成粒子の挙動について多くのことが学べるのかもしれない」と JPL のカッシーニプロジェクトサイエンティストである Linda Spilker(リンダ・スピルカー)は語った。

今回のデータ分析による衛星のなかで、土星に最も近い Daphnis(ダフニス)と Pan(パン)の表面は、リング形成材料により最も大きな影響を受けている。また、リング外縁付近を周回する Atlas(アトラス)、Prometheus(プロメテウス)、Pandora(パンドラ)の表面も同様にリング素材が蓄積されているが、これらはエンケラドスのプリュームによって噴き出す明るい氷の粒子と水蒸気にも覆われている。
※ 土星の外側にある E リングは、エンケラドスのプリュームから噴き上がる氷状材料によって形成されている。
エンケラドスの巻ひげ構造、その由来が判明
 

謎解きのための重要なパズルのピースは、カッシーニ搭載の Visible and Infrared Mapping Spectrometer(VIMS)のデータセットにあり、この機器により可視光と長波長の赤外光を収集した。

カッシーニが最も内側にある衛星表面のスペクトルマップを取得するのに十分に近づいたのは、土星大気突入となる2017年のグランドフィナーレ一連のリングダイビング軌道による周回が初めてのことだった。スペクトルを分析することによって、VIMS は2017年05月には、これら衛星の構成物質の組成についてのほとんどを知ることができた。

土星に最も近い衛星は、メインリングと同様な赤みを帯びていることを VIMS は観測した。科学者は赤く見える材料の正確な組成を未だ解決していないが、おそらく有機物と鉄の混合物であると彼らは信じている。一方、メインリングのすぐ外側にある衛星は、エンケラドスからもたらされる氷状のプルームによる明光同様に、より青く見えている。

2016年12月から2017年04月の間に行われた六つのリング領域衛星の近接フライバイでは、電磁スペクトルを観測するカッシーニ搭載のすべての光学リモートセンシング機器を駆使した。これら機器による観測は、塵埃、プラズマ、磁場、そしてそれらの元素の衛星との相互作用を観測する機器と併せて実施された。

しかし現時点では、衛星が形成されるきっかけとなったことなど、まだ疑問は残る。科学者たちは衛星の形成およびリングと作用を重ねてきたシナリオをモデル化するために新しいカッシーニデータを使い、他の惑星系の衛星や小惑星にも適用し真実を探ろうとしている。

「氷の巨大惑星である天王星と海王星の衛星いずれかに、それらのより薄い輪と相互作用して土星のリング領域衛星と同様な形成プロセスが見られるか?」ブラッティは疑問を呈する。
「これらの答えは、将来ミッションによって解決されるべきものだ」と、継続ミッションの必要性を強調した。

カッシーニミッションは、2017年09月15日にグランドフィナーレとして終焉を迎えた。ミッションコントローラーは故意にカッシーニを土星の大気中に突入させた。土星系の衛星に探査機が衝突する危険を避けるためだ。グランドフィナーレによる最終軌道周回によって得られたより多くのサイエンスは、今後数カ月以内に皆さんの目に留まることになるだろう。

カッシーニプロジェクトの詳細は以下をご覧頂きたい。

https://www.nasa.gov/cassini

https://saturn.jpl.nasa.gov



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office