JPL News (Ja) - Space Topics 2018
Space Topics JPL日本語訳ニュース : December 07, 2018. Latest
原文 : November 07, 2018 :
Cosmic Detective Work: Why We Care About Space Rocks
宇宙を探る : 何故小天体なのか?
人類が存在したこれまでの歴史というのは、45億年に亘る太陽系の歴史上、類を見ない全く稀な出来事の連続だ。形成初期の原始惑星が劇的な変化を遂げ、現在の状態に安定するプロセスを観察した者は当然誰もいない。地球誕生から今に至るまでを理解するには、地球本体を見るでは不十分であり、未分化の小さな天体や形成過程が異なる他の惑星を探査し、その神秘的な遠い過去への手がかりを探る必要がある。
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※ クリックすると、動画(380 KB)を再生。彗星を含む太陽系の小天体は、歴史と進化を追跡するのに役立つ。このビデオクリップは、2010年11月4日の Hartley 2 彗星の飛行を、NASA EPOXI ミッション宇宙機が撮影した画像から編集されたもの。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/UMD
手掛かりとしては、小惑星、彗星、その他塵に到る小さな天体の形で今も太陽系全域に存在する。惑星科学者たちは、これらの大小さまざまな天体を慎重に探査し、我々の起源についての洞察を求める。こうした無数の流星・彗星・小惑星などは、大きな惑星に降り注いだり、あるいは太陽に引かれて燃えつき、あるものは海王星の軌道を越える軌道を持っていたり、互いに衝突して砕け散って微小天体となった過程を今に伝えている。冥王星からさらに遠くに存在する氷の彗星から恐竜の統治を終焉させた大型の小惑星まで、宇宙空間に息づくこれら天体の形成物質には、地球上の生命を含む今日の太陽系を形作る壮大な出来事の手がかりが含まれている。
これら、古典大惑星ではない小天体での探査ミッションは、地球型の惑星がどのように形成されたのか、またこれらの天体による地球への危険性を探り、今後の太陽系天体探査の必要性や意義について研究者の理解を深めることになる。これらの天体は、我々の太陽系形成史において重要な役割を演じており、現在に至っても変化し続けている。
「このような小さなオブジェクトは、巨大な火山や全球的な海洋・砂塵の嵐を持っていないかもしれないが、小さな世界ではありながらも太陽系起源についての重要な質問への答えを語ることができる貴重なオブジェクトなのだ」と NASA 本部惑星科学部門の Acting Director、ロリ・グレイズ(Lori Glaze)は語る。
NASA の小天体探査は、ガリレオ探査機による1991年の小惑星ガスプラのフライバイから始まり、その歴史は長い。初めて小惑星のランデブーに成功したニア・シューメイカー探査機(Near Earth Asteroid Rendezvous(NEAR)Shoemaker)は、2000年には小惑星のエロスに成功裏に着陸し(実際は少し違う)、計画されていなかった観測を行った。
2005年にテンプル第1彗星を探査したディープ・インパクト・ミッションは、彗星が形成された領域について科学者に再考をあたえた。以降の惑星探査プロジェクトは、これらの成功に基づいており、太陽系についての発見・解明はさらに進むだろう。
科学探査について、以下に概説する。
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合成色で表現された小惑星ケレスのオッカトル・クレータ(Occator Crater)。表面組成の違いを示している。
JPL Space Imaes : Occator in False Color
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA
惑星の構成要素
我々が住む地球は太陽系という星系に在る。太陽を中心とした円盤上に小さな岩石、金属、氷の粒子から形成されたものだ。この渦巻く円盤の材料のほとんどは、原始太陽に落ちていったが、いくつかのビットはその消滅の運命を回避し、衝突・合体を繰り返して惑星に成長していった。その形成プロセス途上のまま残ったものが今日まで多数生き残っている彗星や小惑星などだ。それら小天体を調べることにより、小さな物質から大惑星へと成長していった過程を紐解くことが出来るのだ。
「小惑星、彗星、およびその他の小型の天体は、太陽系の誕生から在る初期物質を保持または記録している。我々がどのように発生したのかを知りたい場合、これらの小天体を調べることが必要だ」とロリ・グレイズは語った。
このような太陽系形成史の手がかりを提供するふたつの古代の化石とも言える天体が、火星と木星の間の小惑星帯にある最大級のベスタとケレスだ。10月をもってミッションを終了した Dawn 探査機は、このふたつの天体をランデブー探査し、これらの天体が通常の「小惑星クラブ」の一部ではないことを明確に示した。
多くの小惑星は緩やかな瓦礫の集まりで構成されているが、ベスタとケレスの内部は層状構造となっており、コアは密度の高い材料で構成されている(科学的に、内部は「区分け」されている)。このことは、ふたつの天体が惑星への集積過程にあったことを示しているが、その成長は何らかの事情で減退してしまった。
ベスタは大部分が乾燥しているが、ケレスは濡れている。その大部分は鉱水や氷として地下に貯蔵され、総質量中、最大で 25% の水分を持つとみられる。
ケレスにおけるアンモニアの存在も興味深い。そのためにはケレスの現在の場所よりも涼しい気温が必要だからだ。これは、小惑星が木星以遠で形成されて今の場所に移動したか、少なくとも太陽から遠く離れた場所で形成された物質を含む可能性があることを示している。ケレスの起源の謎は、惑星形成過程の多様性を示し、またそれは、我々の太陽系形成史が非常に複雑であることを強調するものだ。
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表面が剥奪された小惑星を探査する Psyche のアーティストコンセプト。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/Arizona State Univ./Space Systems
NASA インサイトミッションのように、大惑星である火星の深い内部を間接的に調査して、その起源についての手がかりを探るということはできるが、地球を含む太陽系宇宙に存在する様々な大きな天体の中核にまでドリルダウンすることは不可能だ。しかし、プシケ(Psyche)と名付けられた珍しい小惑星は、掘り起こさずに惑星のような天体の核を探査する機会を提供するかもしれない。小惑星プシケは、太陽系の形成初期に形成されたものの、惑星の大きさに達することのなかった小さな世界である原始惑星そのままの姿(鉄 - ニッケルで形成されたと思われるコアが暴露している)を残しているものとみられる。ベスタやケレスと同じく、プシケの在り様からは、惑星へと成長する道が大きく乱れているのを見ることが出来る。2022年打ち上げ予定の NASA Psyche ミッションは、この金属質天体を詳細に探査・研究することにより、惑星形成のストーリーを今に伝えることができるかもしれない。
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2019年01月01日に、冥王星から 10 億マイル(16 億キロメートル)離れたカイパーベルト(Kuper Belt)天体に到達するニューホライズンズ探査機を描いたアーティストコンセプト。
Image Credit : NASA/JHUAPL/SwRI
ニューホライズンズ探査機は現在、2014 MU69 と呼ばれる遠方の小天体に向かっており、ミッションの性格から「ウルティマ・トゥーレ(Ultima Thule)」と呼ばれている。冥王星からさらに 10 億マイル遠方にある 2014 MU69 は、海王星軌道の外輪に位置する氷が豊富な天体領域であるエッジワース・カイパーベルトの居住者だ。2014 MU69 のような天体は、太陽系内に残る最も始原的または分化・変遷していない天体の代表的なものかもしれない。
太陽系天体の多くは、太陽の周りを楕円で軌道を描いているが、2014 MU69 や他の多くのカイパーベルト天体は、極めて円形に近い軌道を持ち、45億年を経た現在も元の軌道からほとんど移動していないことを示唆している。これらの天体は、冥王星や他の遠い凍った領域での惑星形成構造を表しているのかもしれない。2019年01月01日、ニューホライズンズは、惑星探査史上最も遠い領域において 2014 MU69 をフライバイする。
「ウルティマ・トゥーレは、太陽系とその系内惑星の起源を探るために科学的に価値がある」と Southwest Research Institute ニューホライズンズの主任研究員、アラン・スターン(Alan Stern)は語った。
「この領域にある天体は古いながらも元気で、これまでの探査では見たことのないものが目に入るだろう」
生命の素を宅配する
小さな天体であろうとも、地球の生命発生のために種を撒く義務がある。それら天体がどれだけの水分を含んでいるかを探査することは、地球上の生命起源にどのように関わったかの証拠となる。
「小天体は、時間の経過とともにゆっくりと、しかし明らかに太陽系の進化に参加しており、惑星の大気構造や生命発生の機会に影響を与えている。地球史も間違いなくそのストーリーの一幕である」と NASA の主任科学者、ジム・グリーン(Jim Green)は語った。
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小惑星 Bennu のこの高解像度ビューは、NASA の OSIRIS-REx 探査機が2018年10月29日に約 205 マイル(330 キロメートル)の距離から得た 8 枚の画像を使用して作成された。
Image Credit : NASA/Goddard/University of Arizona
NASA OSIRIS-REx(オシリス(オサイリス)・レックス)ミッションの目標天体であるベヌー(ベンヌ、Bennu)は、生命の構成要素を含んでいるとみられる小惑星の一例だ。
ベヌーには炭素と水の分子が存在する可能性がある。どちらの要素も我々が知るように生命に必要なものだ。地球が形成された後、ベヌーのような天体が地球に降り注ぎ、これら生命発生に必要な材料を届け続けた。ベヌーのような天体は海洋を持たず、水分子はミネラルに結合していた。地球の水の最大 80% は、ベヌーのような小さな天体からもたらされたと現在では考えられている。 ベヌーを探査することにより、不毛の若い地球が生命で繁栄することを許した物体の種類をよりよく理解することができる。
ベヌーは、火星と木星の間のアステロイドメインベルト由来の小惑星と見られており、8 億年前から 20 億年前に起こった壊滅的な衝突から生き残った天体であると考えられている。ベヌーは、炭素が豊富な大型小惑星が数千個に粉砕されたのちに生き残った残骸の一つではないかと研究者はみている。 ベヌーは固体天体(solid object)ではなく、重力と別の力で繋がった岩石の緩やかなコレクションである「ラブル・パイル(rubble pile)」構造の小惑星と考えられている。イトカワなども同様な天体だ。OSIRIS-REx は 1.2 億マイル(2 億キロメートル)の旅の後、2020年12月初旬にベヌーに到着し、2023年にサンプル回収カプセルによってこの興味深い天体のサンプルを地球に持ち帰る予定だ。
日本のはやぶさ2ミッションは、生命発生に寄与した材料を地球に届けたと考えられている小惑星の「族」であるリュウグウを探査している。現在、リュウグウの太陽周回軌道でランデブーしており、表面に小さなホッピングローバーなどを降ろしている。2020年末までに試料を採取し、リエントリーカプセルで地球に運び解析する。ベヌーとリュウグウを比較して多くのことを検証し、それらのサンプルの違いをみることも予定されている。
太陽系進化のトレーサー
地球を含む私たちの太陽系を構成する物質のほとんどは、太陽系形成史という物語を伝えるために生きてはこれなかった。太陽の中に落ちたか、最も高性能な望遠鏡を駆使しても手の届かないところに放出されたのだろう。しかし、太陽の周りに不確実な運命を持ち、原始惑星からの形成初期の時代からこれまで、いくつかの形成プロセスに乗れなかった残骸が今も残っている。
太陽系形成史のなかで特に壊滅的な進化過程は、50億年前から05億年前に起こった。なかでも最大級の惑星である木星と土星は、小惑星などの周辺の天体と大きな重力による相互作用過程を経て、天体の配列を再構成して行った。天王星と海王星は、ふたつの大惑星の重力作用によって、外側に追いやられたのかもしれない。土星においては、地球などの中規模の天体が木星によって捕えられることを防いだ可能性もある。土星の重力が木星による他天体への影響を限定的にしたということだ。
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トロヤ群小惑星を探査するルーシーの想像図。
Image Credit : NASA/SwRI
トロヤと呼ばれる小惑星の「群れ」は、その激動時代の詳細を整理するための格好の材料だ。トロヤ群は、木星との軌道共鳴の位置(ラグランジュ点)にある小惑星のふたつのクラスタで構成され、木星の先を周回するグループ(L4 点)と木星を追尾する格好のグループ(L5 点)となる。しかし、トロヤ群小惑星はスペクトル観測で判明する通り様々な色を持つことから、異なる材料で構成されていることも判っている。あるものは他のものよりもはるかに赤みを持ち、海王星の軌道以遠で生成された可能性を示唆するが、灰色のものは、より太陽に近い領域で形成されたのだろう。
考えられる理論としては、木星が現在の位置に移動したはるか昔に、これらトロヤ群の天体がラグランジュ点に集まったということだ。この領域は木星と太陽の重力が小惑星を捕まえることができる軌道共鳴するエリアだということだ。科学者は、トロヤ群の多様性は木星の現在の位置への旅を反映するものだ、と言っている。
「木星が最後に移動したときに起こったことによる残骸だろう」と SRI(Southwest Research Institute)の研究者、ハル・リヴィソン(Hal Levison)は語る。
NASA がトロヤ群に初めて探査機を送る、2021年10月に打ち上げ予定のルーシー・ミッション(Lucy mission)は、六つのトロヤ群天体(各群の三つの小惑星)を徹底的に探査する。この探査機の主任研究者であるリヴィソンは語る。
「このミッションは、木星が太陽系を再構成することについて、何十年にも亘って同僚と取り組んできたアイデアを試すことになるだろう。ただ本当に興味深いのは、私たちが予期していなかったこととの遭遇だ」
太陽系進化のプロセス
日没後の良好なシーイングのなかで、惑星が通る軌道面(黄道面)で、太陽光が散乱しているのを見たことがあるだろうか。これは、彗星や小惑星のような小さな天体の衝突・被衝突によって生じた塵によって太陽光が散乱されているからだ。一般的にこの現象を「黄道光」と呼び、太陽系がまだ活発であることを示している。他の星系の黄道でみられる塵もまた、活発な惑星系を持つ可能性を示すものだ。
小天体が放つ塵は、我々地球のような惑星にとって重要な役割を果たした。およそ 100 トン(300 トンとも)もの塵が、地球上に毎日降り注いでいる。それは地球の生命進化に直接的な影響を及ぼす彗星から来ているものもある。彗星が太陽に近づき、その熱を浴びるにつれて、彗星内部のガスが噴き出し、彗星から埃にまみれた物質を放出させる。NASA スターダスト探査機は、81P/Wild 彗星をフライバイし、彗星の塵の中に生命のブロックを構成するアミノ酸が含まれていることを発見した。
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2016年9月29日に撮られたこのビューは、ロゼッタ探査機が 67P/チュリュモフ - ゲラシメンコ彗星から 14 マイル(23キロメートル)の高度から、探査機に搭載された広角カメラ OSIRIS が捉えたもの。
Image Credit : NASA/SwRI
彗星でよく観測されるガスやダストの噴出は、表面上での地層のずれやその周辺で発生する。2016年に 67P/Churyumov-Gerasimenko 彗星探査を行った ESA ロゼッタ(Rosetta)ミッションは、彗星活動に関する前例のない洞察をもたらした。探査機は、彗星上で大規模な崖の崩壊を観測し、大きな亀裂はさらに大きくなり、岩石が動く彗星本体の変化の様子を観察したのだ。
「大型トラックほどの巨大な岩石が、彗星の表面を飛び移るように移動できることを発見した。その距離は 1.5 ㎞ にも及ぶ」と、米国のロゼッタサイエンスチームのメンバーである Ramy El-Maarry(レミー・エルマーリー?)は述べた。
彗星は今も惑星の動きから影響を受けている。木星の重力によって彗星が外向きに飛ばされることにより、氷のボディであることと重力の影響によって僅かに内向きに軌道が曲げられる。一方、海王星は彗星を内向きに投じ、順を追って僅かに外側に向けて曲げる。天王星と土星も、このようなプロセスによって非常にゆっくりではあるが外向きに移動している。
「今話せるのは、総数から言って僅かなサンプルについてだ。なぜなら、その他多数のサンプルは既に残っていないのだから」とレヴィソンは言う。
Fun Fact:
最も多くの彗星を観測した宇宙機は、NASA の太陽地球観測衛星(SOHO)であり、太陽の観測・研究で最も知られた探査機だ。 SOHO は、太陽が何千もの彗星を「食する」現場の目撃者だ。これら彗星などの小さな世界は、太陽系の内側に向けて物質を散布し、太陽はそれを「夕食」としてたいらげている。
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太陽系の内領域に近づく彗星を描いたもの。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
地球に対するハザード
小惑星は我々人類も含め、惑星に大きな影響を与える可能性を持っている。
トロヤ群小惑星は木星系周辺の群れだが、OSIRIS-REx ミッションの標的であるベヌーは、地球と衝突する確率は比較的低いものの、現在知られている小惑星のなかでも地球にとって潜在的に最も危険な小惑星(Potentially Hazardous Asteroid, PHA)のひとつである。研究によれば、ベヌーが22世紀後半に地球に近づく軌道によって地球に接する確率は、1/2,700 だということだ。
2135年に小惑星ベヌーが地球の近くを通過するが、それ以前にその軌道を非常に正確に予測することが研究者には可能だ。OSIRIS-REx による厳密な観測は、ベヌーの太陽周回旅行にさらに緊密に対処し、危険な小惑星から地球を護る努力を行う研究者に知見を与える。必要であれば、衝突軌道から逸らすための対応も目指す。
「我々は小惑星探査を行うにあたって、理学・工学における最上の情報取得を目指す技術を習得している。小惑星の軌道をコントロールするにしても、まずそれら情報の取得が必要だ」
アリゾナ大学にあるOSIRIS-REx ミッションのプロジェクトマネージャ、ダンテ・ローレッタ(Dante Lauretta)は、このように語っている。
Dart Moon Collision
DART(Double Asteroid Redirection Test)が、バイナリ小惑星の小さな片方にどのように衝撃を与えるかを示した動画。
自然発生的な衝突の危険から地球を護るための技術を試すもう一つのミッションが、比較的小規模な小惑星の軌道を変える、ダブル・アステロイド・リダイレクション・テスト(Double Asteroid Redirection Test, DART)ミッションだ。いったいどうやるのか?
キネティックインパクトという手法を用いる。言い換えれば、衝突させるが、ランダムではなく正確で制御された方法で衝突させるということだ。
DART ミッションのターゲットは、互いの周りを周回するふたつの天体からなるバイナリ小惑星ディディモス(Didymos)だ。大きなボディは直径およそ半マイル(800 メートル)、小さなムーンレットは幅が 10 分の 1 マイル(150 メートル)未満となっている。この規模の小惑星になると、地球に広範囲の地域的被害をもたらす可能性がある。
DART は意図的にムーンレットに衝突し、この小さな天体の軌道速度をわずかに変更させる。それを地上から光学観測を行い、ムーンレットの周回軌道が完了するのにかかる新しい時間を測定する。これは、1 % 未満の変化であると予測されるが、将来のインパクトのシナリオでは、予期されたインパクタ、または地球衝突軌道からを逸らすためには、そのわずかな変更であっても十分である可能性が有り得る。
ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所(Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory)が開発したこの宇宙機は、2021年春夏頃に打ち上げ予定だ。
ディディモスとベヌーは、軌道が判っている 19,000 個の NEA(地球近傍小惑星)のうちの二つに過ぎない。そのうち、約 8,300 個の NEA がディディモスのムーンレット以上の大きさであるが、科学者らは、この規模程度の小惑星が地球近傍の空間に約 25,000 個存在すると推定している。衝突可能性を含むこれらの分類の天体を発見して詳細を得るために活動したのが NEOWISE(ニオワイズ)宇宙望遠鏡だ(Near-Earth Object Wide-Field Infrared Survey Explorer の略)。
「ほとんどの小惑星では軌道以外のことは判らないが、NEOWISE によって物体から放出される熱を測定し天体規模をより正確に知ることができる」と NEOWISE の主任研究員であるエイミー・メインザー(Amy Mainzer)は述べた。
「小惑星が衝突すれば、相当なダメージを受けることがある。そのエネルギー量は天体の大きさに強く依存するため、こうした観測は重要だ」
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地球周回中の WISE を描いたもの。延長ミッションの NEOWISE では、小惑星に特化した観測を行った。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
ピットストップとしての太陽系小天体、さらには将来探査のためのリソース
宇宙空間にはガソリンスタンドは未だ設営されていないが、科学者やエンジニアは、遠く離れた深宇宙航行のために、いつか小惑星が何らかの形で宇宙航行船の給油所として役立たないかを真剣に考え始めている。これらの小さな天体世界は、宇宙飛行士への補給も助けるかもしれない。例えば、ベヌーは粘土鉱物(層状ケイ酸塩鉱物)で水分が結合している可能性がある。楽観的に言えば、渇望する宇宙旅行者の水分補給のためにそれら鉱物から水分を収穫することができる可能性があるのだ。
「未来は確かに科学に鉱業が加えられるだろう」とグリーンは語った。
「宇宙に在る材料は、さらなる宇宙探査のために宇宙において使用されることだろう」
金属は何故小惑星に存在するのか。
小惑星やその他の小さな天体は、形成過程初期段階である数十億年前に重い元素を収集した。小惑星で発見された鉄やニッケルは、過去の世代の星で生成されたものであり、原始星雲であった段階から存在し、その後の太陽系の形成に組み込まれたと思われる。
これらの小天体の形成構造には、超新星と呼ばれる恒星の爆発で鍛造された重い金属も含まれている。ブラックホールの形成にもつながる場合がある恒星の激しい終焉は、宇宙全体に水素とヘリウムより重い元素を拡散する。これらには、金、銀、プラチナのような金属だけでなく、生存のために必要な酸素、炭素、その他の元素も含まれる。中性子星と呼ばれるもう一つの「大災害跡地」は、重金属を作り続けることもできる。このようなことから小天体は、爆発や衝突で終焉に至った星の「法医学的証拠」とも言える。
大きなもののために、非常に小さなものが現在たくさん存在している。そして、小さなものから、我々は過去についての大きな手掛かりを得ている。これらのオブジェクトを探査することは、たとえ大惑星でなくてもとても重要なのだ。
彼ら小天体は小さな天体世界であるが、そもそも総てがそうなのだ。
News Media Contact
By Elizabeth Landau
2018-259
Akira IMOTO
Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan