カッシーニ探査機 : グランドフィナーレから一年、これまでに得られたこと


NASA カッシーニ探査機がグランドフィナーレを迎えた最終軌道ミッションによって明らかになった新たな研究課題は、土星・リング間の謎に満ちた未知の領域である土星系の理解に大きな飛躍をもたらす。新しい疑問が提起されたことにより、これまでに抱いていた幾つかの先入観が正しくなかったことを表し始めている。
 

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22周回に亘る土星・リング間ダイビングを行う、カッシーニ探査機のイラスト。最終周回で土星の半径より短い高度にまで近づく。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

6グループに分かれた研究チームは、グランドフィナーレミッション開始以降の観測結果を10月05日付の科学誌「サイエンス」に発表している。燃料をほぼ使い果たしたカッシーニ探査機は、リング内側と土星大気層との間をダイビングする、22回に及ぶ最終軌道ミッションを行った。最終周回で土星突入を試み、探査機は摩擦と加熱により崩壊し気化してその役割を終えた。

カッシーニに残された日々が確定したとき、チームは得られる最大限のものを求めることを決めた。
探査機は、そもそもこのような大気層すれすれに飛ぶようには設計されていない。軌道設計チームによるデザインは、かくも象徴的で定めであったかのように、日本列島ほどの幅である隙間に探査機をダイビングさせて見守る地球に住む私たちを驚愕させた。そこでの探査では、初めてとなる土星の磁場環境を観測し、砕けた氷で構成されたリングを横目で見ながら、その狭いの隙間に侵入したのである。このような軌道へのチャレンジは、探査機の限界を最上まで押し上げ、結果として新しい発見を果たすことによって、搭載された機器の能力がいかに信頼のおける機敏で強靭なものであったかを証明したのだ。

今後、グランドフィナーレミッションによる多くの科学的成果が得られるはずだが、以下にこれまでに上った幾つかのハイライトを示す。
 

異なる三つの有機化合物

氷衛星の海洋中に融け込んだ複雑な有機化合物は、土星のリングを経由して上層大気に降り注いでいる。科学者たちは水と珪酸塩は確認していたが、メタン、アンモニア、一酸化炭素、窒素および二酸化炭素も含むことに驚いた。有機物の組成は、衛星エンケラドスに見られるものとは異なっており、これは土星系には少なくとも異なる三つの有機分子の「貯留層」があることを意味する。衛星ティタンのものとも違う発生場があるということだ → Ion Neutral Mass Spectrometer(イオンニュートラル質量分析計)
 

リングレイン現象

カッシーニは、最も内側のリングから土星大気層に向かって降り注ぐ粒子を観測し、リングと土星の相互作用を初めて観測した。一部の粒子は、磁場線に沿って荷電粒子となり、螺旋状に高緯度の大気層へと落ちて行った。この現象は、”リングレイン”と呼ばれる。しかし科学者たちは、リングから大気層に落ちる多くの粒子が赤道付近に引きずり込まれるのを見て驚いた。それは、科学者の想定よりもさらに高速だ。
毎秒22,000ポンド(10,000キログラム)と見積もられる材料がリングから土星本体に落ちている。
 

ナノメートルサイズの微粒子で満たされた土星・リング間

科学者たちは、リングと土星の大気上層との間に存在する物質の密度を知って驚いた。
探査機の通る道は驚くほどに空いていた : JPL日本語ニュース
彼らは、リング全体の粒子が大小様々なサイズで分布していることを知っている。しかし、リング・土星間ギャップでのサンプリングでは、煙のようなナノメートルサイズの微粒子がほとんどであることが判ったのだ。このことは、未知の何らかのプロセスが粒子を粉砕していることを示唆することになる。
 

土星・リング間の電気的な相互作用

土星とそのリングは、科学者が推測していたよりも深く密な相互作用がある。カッシーニは、これまでに判っていなかったリングと土星を磁力線で繋ぐダイナミックな電気回路のような相互作用を明らかにした。
土星とエンケラドスの間を旅するメロディを聞いてみよう : JPL日本語ニュース
 

新たな放射線帯の発見

科学者たちは、活発な粒子で構成された新しい放射線帯(radiation belt)を発見した。このベルトはリングと交差するが、リング自体が非常に薄く、ベルトの生成を妨げていないことも見出した。
 

土星を取り巻く惑星磁場は土星特有という謎

太陽系に磁場を持つ他のすべての惑星とは異なり、土星の磁場はほぼ完全にその自転軸と一致している。新たに取得したデータは、磁場が0.0095度未満の傾斜であることを示している(地球の磁場は自転軸から11度傾いている)。科学者が過去から得た惑星磁場の生成条件についての情報からは、土星のようなプロセス、現状はあるべきでないと考えたいが、このミッションに多数ある、我々に新たに与えた一つの謎となっている。物理学者による解決を待ちたい。
 

数少ない電波伝搬メカニズム研究例

カッシーニは土星の磁極の上を飛行し、電波放射が発生する地域から直接データサンプリングを行った。このことは、宇宙全体で動作すると考えられている電波伝搬メカニズムを地上ではない場所で研究することができた数少ない研究例であり、実際には地球から発生するそれと比較して2倍以上の規模でもあった。
(以上)
 

「土星・リング間では、カッシーニのダイビング飛行の成否ではなく、土星系のこれまで知られていなかった種々のサイエンスが渦巻いている」と、プロジェクトサイエンティストである Linda Spilker(リンダ・スピルカー)は述べた。「この地域で起こっていることは、ほとんどすべて驚きだった」
続けてリンダは語る。
「グランドフィナーレミッションとして、これまでに知られない場所に行くことを重要視していたけれど、結果としてこの「遠征」は本当に報われた。勝ち得たサイエンスデータは、とってもエキサイティング!」
 

カッシーニ探査機搭載の機器で得たデータ分析は今後数年間続ける予定であり、それによって土星系のより明確な姿が「キャンバス」に描き出されるだろう。

「多くの謎が残っているけれど、今はパズルの断片をまとめているところ」
リンダは語る。
「カッシーニのグランドフィナーレミッションによる結果によって、私たちの想像を遥かに超えた土星系の謎を突き付けられたと思っている」

Science 誌に掲載された論文は次のとおり。


 

これらの観測結果を補完する研究を記載した記事は、のちに地球物理学研究誌(GRL)、アメリカ地球物理学連合(AGU)のジャーナルにオンラインで掲載される予定だ。

カッシーニプロジェクトの詳細は以下をご覧頂きたい。

https://www.nasa.gov/cassini

https://saturn.jpl.nasa.gov



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office