ボイジャー探査機 : 37 年の眠りから覚めた TCM スラスタの号砲


数十年も車庫に眠ったままの車を始動させようとしても、エンジンがこちらに気づいてくれるとは思わないのが普通なのかもしれないが、太陽圏を超えたボイジャー探査機に装備されたスラスタは、37年間眠っていたにも拘らず、あたり前のようにその号砲を鳴らした。

NASA の、最も遠くにあり最高速機であるボイジャー探査機一号機は、太陽圏を脱出して星間空間を航行する唯一の人工構造物だ。打ち上げより40年間に亘って航行する探査機は、スラスタと呼ばれる補助推進装置によって、地球との通信方向や航行軌道の微調整などが行われる。ほんの数ミリ秒間の小さな脈動「パフ(一吹かし)」の発射により探査機を微妙に回転させたりする。現在のボイジャーチームは、1980年以来停止している四台のバックアップスラスタ(TCM スラスタ)を活用できる状況だ。
 

NASA ボイジャー探査機を描いたアーティストコンセプト。人類の最長かつ最速の宇宙船は、2017年08月と09月に40周年を祝った。
キャプション原文 : Voyager in Deep Space (Artist Concept)
Image credit: NASA/JPL-Caltech
 

「37年間、その機能を保持しているスラスタによって、数年(2~3)ほど、探査機の寿命を延ばすことが出来る」
NASA JPL ボイジャープロジェクトマネジャである Suzanne Dodd は語った。

2014年頃から、一号機の姿勢制御スラスタが劣化していることに気づいていた。時間が経つにつれ、同程度の推進力を得るためにさらなる「パフ」が必要であることに留意していた。残念ながら、地球から 130 億マイル(200 億キロ余)も離れた星間空間に、スラスタのチューンアップを施してくれるメカニックショップは見つからない。

ボイジャープロジェクトチームは、NASA JPL に一連の推進系エキスパートを呼び集めてこの問題について議論した。Chris Jones、Robert Shotwell、Carl Guernsey、Todd Barber らは、考えられるオプションを分析し、様々なシナリオを探査機に与えてどのように反応するかを予測した。結果、彼らは思いもよらなかった解決策に辿り着き、皆はそれに同意したのだ。スラスタを37年の眠りから放ち、オリエンテーション(※)の仕事を与えてみようということになったのだ。
※ 姿勢制御の意。

「ボイジャーのフライトチームは、何十年も前のデータを掘り起こし、時代遅れのアセンブラ言語でコード化されたソフトウェアを調べ、スラスタを安全にテストすることができるようにしたんだ」
JPL のチーフエンジニア、Chris Jones は述べている。

ミッション初期段階では、一号機は木星と土星、さらにそれぞれの重要な衛星のフライバイを行った。正確なフライバイと搭載機器の目標に向けた方向制御のために、エンジニアたちは、姿勢制御スラスタと同規格の軌道微調整(TCM)用の探査機下方にあるスラスタを使用してきた。しかし、一号機最後のフライバイは土星であったことから、フライトチームは1980年11月08日以降、TCM スラスタを使用する機会はなかったのだ。当時の TCM スラスタの使用は、より連続的な発射モードで行われ、探査機の姿勢制御に必要な短い「爆発モード」では一度も使用されてこなかった。

ボイジャーの総てのスラスタは、Aerojet Rocketdyne によって開発された。MR-103 と呼ばれる同じ種類のスラスタが、土星探査機 Cassini と小惑星探査機 Dawn などの NASA 探査機に使用されている。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office