JPL News (Ja) - Space Topics 2017
Space Topics JPL日本語訳ニュース : October 13, 2017. Latest
原文 : October 11, 2017 - Reconstructing Cassini's Plunge into Saturn
カッシーニ探査機 : 土星へのダイビングで起こったこと
09月15日、土星の大気圏上空にダイビングしたカッシーニ探査機から、搭載された8機の科学機器によるライブストリーミングデータが地球に送られた。様々なエンジニアリングシステムが得たデータの読み出しであった。
この最後のダイビングによって得られた科学データの解析には時間が掛かるが、カッシーニのエンジニア達は事前に探査機自体がどのように挙動していたかを確信を持って理解している。この最終データは、土星大気のモデリングに役立つ。また、これにより次期土星探査計画をデザインする際のベースラインを研究者にもたらす。
このイラストは、土星大気に突入する探査機の様子を描いたもの。スラスタによる姿勢制御により探査機の通信機器は地球方向を向いている。大気の摩擦によってスラスタでの制御が及ばなくなったその時点以降、カッシーニ探査機は転がり始める。これが起こると地球との通信が切断され、その瞬間がミッションの終了となる。通信の途絶後、探査機は土星の上層大気中を流星のように燃え尽きる。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
これらの工学データのうちの主なテレメトリデータは、探査機の小さな姿勢制御スラスタの性能を示すものである。各スラスタは、ニュートン(1N=0.102kg)の半分の力を生み出すことができる。
最後のダイビングにより、カッシーニは土星の大気を通り抜けていた。この時点の土星大気は、国際宇宙ステーションが地球上を周回する薄いガスとほぼ同じ密度であった。言い換えれば、そこは、ほぼ空気がない状態だということだ。
この空気圧が真空に近いという事実にもかかわらず、カッシーニは宇宙ステーションよりも約4.5倍速く飛行していた。より高い速度は、薄い大気がカッシーニに及ぼす力、すなわち動圧に大きく影響していた。それは、時速15マイルで動く車の窓の外に手を差出すことと、時速65マイルで動く車の窓の外に手を出すことの違いと言い換えれる。
カッシーニが最終的なアプローチを開始したときの大気進入1時間前からのデータは、アンテナを地球方向に維持するためのスラスタ制御によって微妙に前後に変化していた。この時に起きた唯一の乱れは、土星の重力による探査機への微小な影響であった。
「アンテナを地球面に向けるために、”bang-bang control”(銃を連射するような意味だと思います)を使用した」と NASA JPL の Cassini's spacecraft operations チーフ、Julie Webster は語る。
「探査機には回転可能な狭い範囲(※)が与えられており、一方向にその限界に向かって叩くと、スラスターが発射されて逆向きに戻る」
※ この範囲は実際には小さく、わずか2ミリラジアン(角度(平面角)の単位)で、0.1度に等しい。再構成されたデータは、信号の損失の約3分前まで、カッシーニは微妙にその向きを修正していたことを示している。
この時点での探査機は、雲頂から約1,200マイル(1,900キロメートル)に位置し、土星の大気に遭遇し始めた辺りとなる。カッシーニ探査機は、長さ11メートルの磁力計ブーム方向から土星表面に近づいた。薄いガスがレバーのようにブームに圧力を掛け、それが後部に向かってわずかに回転力を与えた。それに応じてスラスタは、ブームがそれ以上回転しないようにするために、ガスジェットにより制御した。次の数分間で、エンジニアが予測したように、スラスタはより長くより頻繁な「発砲」を開始した。土星との戦いが始まったのだ。
スラスタはほとんど連続的に発射し、土星の大気に対して91秒間自らが持つ制御力を保持した(予測では1分から2分であった)。スラスタは信号がなくなる前(通信途絶前)の20秒間に能力の100%に達した。最後の8秒間のデータは、カッシーニがゆっくりと後方に傾き始めたことを示している。これが起こったとき、アンテナの狭幅に集中した電波は地球から遠ざかり始め、83分後(土星から地球に電波が届く時間)、カッシーニ探査機からの声は JPL のミッションコントロールのモニターから消えた。始めに実際のテレメトリデータが消えて無線キャリア信号のみが残った。その後、テレメトリの喪失から24秒後にカッシーニ探査機は話さなくなってしまった。
これらデータ受信のなかで、ほんの少しの短い時間であるがカッシーニは信号復旧のそぶりを見せた。信号のスパイクは、まず数秒で減少し始めたが、消える直前に再び短く上昇したのだ。
「いや、それはカムバックではなかったんだ」と Webster は語る。
「ラジオアンテナのサイドローブパターンが見えただけだ(アンテナでは種々のローブと呼ばれるパターンが必ず生じる)。本当のところは、探査機がゆっくりと転倒し始めるにつれ、回転した状態での狭い無線信号の焦点が合っていない部分だったんだ」
このアニメーションはカッシーニ探査機のXとSバンドの電波が2017年9月15日にミッションコントロールから消えた最後の30秒を示している。ビデオのスピードは2倍。画像をクリックするとアニメーションがポップアップしますが、「3.9MB」ほどありますので、お気を付けください。
Image credit: NASA/JPL-Caltech
「カッシーニが惑星大気内を飛行するように設計されていないことを考えれば、探査機はそれまでの宇宙空間と同様に動作し、科学機器が最後の1秒までデータを送り返すことが可能であったことは注目に値する」とカッシーニプロジェクトマネージャーは語る。
「カッシーニはしっかりと作られた工芸品のようであり、私たちはこの工芸品を以って求めたものを総て完遂できた」
Akira IMOTO
Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan