カッシーニ探査機 : 最後の別れに向けて大気上層に迫る残りの五周回

NASA カッシーニ探査機は、十数年に及ぶミッションの最終段階である「グランド・フィナーレ」で、残りの五周回を最近接距離でダイビングする。
 

このアーティストによるレンダリングは、08月から09月にかけて行われる五回のダイビングの様子を描いている。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

カッシーニは、土曜日の午後9時22分(PDT)に残り五周のうち最初の周回に入る。周回中の探査機の土星との最接近距離は、土星の雲頂より約 1,010~1,060 マイル(1,630~1,710 キロメートル)だ。

探査機は、スラスタにより上層大気への接近を制御され、安定した状態が維持できることを大いに期待できる。衛星タイタンへのフライバイ時と同様だ。
 

カッシーニによるこのビューは、五回に亘る最後の周回が、大気に非常に近づきリングとの狭いエリアにダイビングすることを示している。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech
 

カッシープロジェクトマネージャー、Earl Maize は、次のように述べる。
「カッシーニ探査機のタイタンフライバイは、土星の上層大気への極めて近い距離を通過するための準備であった。過去のそうした経験から、我々が予測する大気上層環境で、この最終のミッションでの探査機がどのように挙動するかは判っているんだ」

Maize は、今回実施するスラスタによる制御能力の 10~60 % で上層大気通過を完了したならば、次の周回も同様に実施出来ると判断する。
スラスタをより強く噴かさなければならない場合、つまり、大気が予測モデルよりも密度が高いとみなされた際は、エンジニアは次周回の軌道高度を上げる。その際「ポップアップコントロール」と呼ぶスラスタは、次の周回では約 120 マイル(200 キロメートル)の軌道調整を行う。

「ポップアップコントロール」が不要であり、五周回中、最初の三周のダイビングで観測される大気上層の密度が予想よりも低い場合、エンジニアは残り二周の軌道の最接近高度を下げるために、約120マイル(200キロメートル)の「ポップダウン」オプションの使用を検討する。これにより、カッシーニの科学機器、特にイオンと中性質量分析計(INMS)によって惑星の雲頂に近い大気上層のデータを取得することができる。

カッシーニプロジェクトの科学者である Linda Spilker は、次のように語る。
「惑星探査において、特化した探査機を土星の大気に送り込むことは長い間の目標だった。私たちはこの初めてのトライで将来の探査の基礎を築いている」

カッシーニに搭載された科学機器は、土星のオーロラ、気温、惑星の極の渦を詳細かつ高解像度で観測する。大気に突入する未知の探査であるグランドフィナーレでは、これらの機器は、これまでより100倍も小さな 16マイル(25キロメートル)の小規模な特徴を明らかにする。

09月11日、既に4月に最後の近接フライバイを済ませたタイタンとの距離のあるフライバイによって、重力による大規模な「ポップダウンコントロール」を行い、カッシーニ探査機の土星周回軌道を鈍化させ、探査機を09月15日に土星大気へのダイビングのために軌道を少し曲げる。

最後の周回半ばに、INMS を含む七つの科学機器を駆動し、ほぼリアルタイムで測定値を地球に報告する予定だ。最後の「奉公」だ。
探査機は、最後の五周回のダイビングにおいて体験した大気密度の約二倍になる高度にまで達すると予想される。カッシーニ探査機がその高密度な高度に達すると、探査機のアンテナを地球方向に向けるためのスラスタによる制御も大気の圧力に逆らえなくなり、土星へのコンタクト機能は恒久的に失われる。その直後の探査機は流星のように崩壊して行き、我々に最大限の知見をもたらした長かったカッシーニの旅は、この瞬間に終わる。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office