キュリオシティローバー「マウント・シャープの麓で多様な環境を見る」

NASA キュリオシティを運用する研究者は、火星のマウント・シャープの麓で広範囲に渡る奇妙な鉱物群を発見したことを明らかにした。年代の経過とともに惑星の水環境が変化したことを示唆するものだと述べた。

キュリオシティは、2012年08月に Gale Crater のマウント・シャープ近くに上陸し、二年後の2014年に山の麓、基底部に達した。この基底部を形成する岩石層は、35億年前の湖底状の中で堆積物として蓄積したものだ。
軌道からの赤外分光は、山の最下層の鉱物は組成に変動(ばらつき)があり、その領域の変化が蓄積(堆積)によって起こったことを示唆していた。

NASA ジョンソン宇宙センターの ARES(Astromaterials Research and Exploration Science)の科学者は、「Earth and Planetary Science Letters」誌に最近掲載された論文で、マウント・シャープの下層付近から収集された最初の四つのサンプルについて考察している。
 

キュリオシティローバは、2014年と2015年に Mount Sharp の ” Pahrump Hills ” と呼ばれる湖底堆積岩の露頭地域を調べた。この図は、調査した中の幾つかの目標位置を示している。 青色の点は、分析のために岩石の掘削サンプルを採取した場所を示している。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS
 

「水流によって集積・沈殿し、様々な年代の形成鉱物が混在するマウント・シャープ基底部の現状を調査するために Gale Crater(ゲイル・クレーター)に向かった」と、この研究論文の主著者であり、ジョンソンの NASA 探査ミッション・サイエンティストである Elizabeth Rampe は語った。
「これらの層は、約35億年前から堆積したもので、地球上で生命が発生し始めた時代と一致している。初期の火星は初期の地球と類似しているのかもしれない」
 

Gale Crater は、中層の層状物質を調査・探検するには魅力的な場所だ。地球上の山と比較して5キロ(3マイル)にそびえる高い山である。このクレータの地層は、おそらく赤い惑星火星の長い歴史に亘り、過去の火星の様子を語るものだ。
軌道上からの観測では、層の高さによって異なる鉱脈が存在することが明らかになった。マウンドの底の近くには粘土鉱物がある。また、クレータ地層の上に硫黄を含む層があり、その上に酸化された鉱物がある。水流痕は、クレータエッジと火口の両方の壁に刻まれた歴史のストーリーを持っているようだ。
キュリオシティローバは、火口のより平らな部分への到達を目指し、上層に向けて形成史を調査する。
” Gale Crater - Mars Science Laboratory ”
 

マウント・シャープの麓近くでサンプリングされた四つの鉱物は、太古の Gale Crater にいくつかの異なる環境が存在することを示唆している。異なる pH および様々な酸化条件を有する水の証拠がある。鉱物はまた、 Pahrump Hills と Marias Pass と呼ぶ地層に複数の岩石由来があることも示している。

この論文は、主に Pahrump Hills 地域の三つのサンプルについて報告しているが、これはマウント・シャープの麓にある突出した形成構造(露頭 - 地層や岩石が露出している場所)で、水の存在によって形成されたと思われる堆積岩を含んでいるようだと研究者は推定する。昨年、 Buckskin(バックスキンと名付けられた岩石)と呼ばれる他のサンプルが報告されたが、それらのデータについても論文内で説明している。
 

このような岩石堆積層を研究することで火星の過去の生命環境に関する情報が得られ、堆積岩の層に含まれる鉱物を調べることで形成された環境に関する多くのデータが得られる。キュリオシティによって、化学・鉱物学実験装置(CheMin)を用いてマウント・シャープで収集されたデータは、多様な鉱物の堆積が示された。

山の基底部には、原始年代頃のマグマ源から供給された鉱脈がある。それらは鉄とマグネシウムが豊富で、ハワイの玄武岩に似ている。この年代層では、シリカの豊富な鉱物が多く見られた。
「Telegraph Peak からのサンプルには、石英に似た鉱物が見られ、Buckskin サンプルでは、tridymite(鱗珪石:SiO2)が見つかった。Tridymite は、地球上の地殻の部分的な溶解や大陸地殻の形成層で発見されている。plate tectonics を持たない火星にしては、とても奇妙な話だ」

マウント・シャープ基底部の Pahrump Hills の中に位置する Confidence Hills と、Mojave 2 と呼ばれる岩石から得たサンプルからは、粘土質のものがが見つかった。粘性鉱物は 一般に中性付近の pH を持つ液体水で形成されるため、生命発生を促進する環境が過去に存在したことを示す良い指標となる。
ここで発見された他の鉱物は、酸性溶液中で生成する塩であるジャロサイト(Jarosite - 鉄明礬石)であった。ジャロサイトの所見は、この地域のある時期に酸性流体が存在していたことを示唆する。

収集した試料には様々な酸化鉄鉱物も見られる。マウント・シャープ上層部ではマグネタイトしか見られなかったが、基底部の近くではヘマタイト(Hematite 赤鉄鉱)が見つかった。ヘマタイトは酸化鉄を含み、マグネタイトは酸化型および還元型の両方の鉄を含む。種々存在する酸化鉄鉱物は、古代の水の酸化ポテンシャルを科学者に伝道するのかもしれない。
 

著者らは、この鉱物学的多様性を説明する二つの仮説について議論する。
一つは、基底部の湖水は酸化していたことから大気中に酸素が多く存在するか、あるいは酸化を促進する他の要因があった。もう一つの仮説(論文中に記述)は、後期の流体によって発生した。その後の堆積に続いて酸化性の地下水がその地域に移動し、ジャロサイトおよびヘマタイトの析出が起こった。
このシナリオでは、湖と地下水に存在する環境条件は全く異なっているか、微生物によって変遷された可能性のある液体の水と化学的多様性を示すものである。

「火星はかつては本当に湿潤であったものが、今は乾いて寒いという過程を経た証拠がここにあるのだ」と Rampe は語った。
「今日、水の多くは氷のような高緯度の極と地面に閉じ込められている。キュリオシティが調査した岩石が、”火星が大気を失い始め、水が宇宙に失われたときに起きた古代の環境変化を明らかにした”と私たちは考えている」
 

この論文では、火星のこの事象が特定の領域に限った兆候であるのか、それともこの地域における自然に乾燥の歴史を辿ったものかについて考察している。研究者は、キュリオシティローバーが山々の上を移動する度に生じる疑問に対して、常に回答を探すことになる。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office