Dawn 探査機:新たな発見 : ケレスの氷は何処に?~

Dawn 探査機は、今月初旬にケレスから 4,500 マイル(7,200 キロ)以上離れた六番目の科学軌道に到達し、新たな知見を地球に送り続けています。今回のニュースは、輝度の高いクレーターの所見を述べたものです。
 

「ホップ」するケレス表面の水分子
 

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この画像は、ケレスの水分子の理論的経路を示しています。 いくつかの水分子は、「コールドトラップ(以下、本文中の「氷庫」と同義)」と呼ばれる高緯度の寒くて暗いクレーターに落ちて蓄積されます。コールドトラップは、10億年もの時を経ても氷から蒸気に変わることはほとんどありません。 コールドトラップに着床しなかった他の水分子は、ケレスの周りを飛び回りながら宇宙空間に散逸して行きます。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA
 

Dawn 探査機から送られてくる画像から見られる極めて明るい領域は、氷ではなく反射率の高い塩分からなる物質で出来ていることが明らかとなった。しかし、今回、サンフランシスコで開催された米国地球物理学会で発表された研究結果発表において、二つの氷存在の証拠が示されている。

「この結果は、ケレスが形成された初期に岩から氷が分離したことと、天体形成段階から表面に氷が残ったものという考察ができる」と Carol Raymond は述べている。

我々が知るように、地球のような惑星において、天体表面に水や氷の存在は生命を育むには不可欠なものであり、もっとも重要な成分である。遠い過去に水が豊富であった痕跡を発見することによって、太陽系生命起源の手掛かりを探ることが出来る。
 

ケレスは氷の宝庫

ケレスの表面上では水素が豊富で、中高緯度でのその濃度はより高く、水氷の広範な分布とも一致している。
「地球上では、高度の高い山頂に局在するとともに、緯度の高い(南北極に近い)ところに存在している」と、Dawn ガンマ線・中性子検出器(GRaND)の主任研究員 Thomas Prettyman は述べている。

Thomas Prettyman は、GRaND 装置によりケレス高地の水素・鉄およびカリウムの濃度を測定した。GRaND はまた、ケレスから発せられるガンマ線と中性子の数とエネルギーを測定する。
中性子は、銀河からの宇宙線がケレスの表面と相互作用するときに生成される。 一部の中性子は表面に吸収され、他の中性子は逃げる。 水素は中性子を減速させるので、脱出する中性子の数が少なくなる。結果としてケレスでは、水素は凍った水の形になると思われる(これは2つの水素原子と1つの酸素原子でできている)。

固体の氷層ではなく、氷が細孔を満たす岩石の多孔性混合物が存在する可能性が高いことを研究者らは見出した。 GRaND データは、混合物が重量中約10%が氷であることを示している。

「これらの結果は、氷が数十億年の間、ケレスの表面直下で生き残ることができるという、30年近く前の予測を裏付けるものだ。 この証拠は、他のメインベルト小惑星においても、表面近くに水氷が存在するという事実を強めるものだ」
Thomas Prettyman は語気を強める。
 

ケレスの内部構造解明への手がかり

鉄、水素、カリウムおよび炭素の濃度は、ケレス表面を覆う成分が、ケレスの内部の液体水によって変成したというさらなる証拠を示す。科学者たちは、ケレス内の放射性元素の崩壊が、ケレスを岩質の内部と氷の多い外殻に分離するこの変質過程を引き起こした熱を作り出したと理論付けている。氷と岩石の分離は、ケレスの表面と内部の化学組成の違いを示唆している。

地球に落ちる炭素質コンドライトと呼ばれる隕石も水によって変成するため、科学者はそれらをケレスと比較することに目を向けている。これらの隕石は、おそらくケレスよりも小さいが流体の流れが限られているため、ケレスの内部形成の歴史解明に手掛かりを導くかもしれない。

科学研究によれば、ケレスはこれらの隕石よりも多くの水素と鉄分を持っている。おそらく高密度の粒子が沈み、塩水が豊富な物質が表面に浮上したからだと思われる。あるいは、ケレス形成またはその構成要素は、隕石とは異なる太陽系の領域において形成されたとしてもよい。
 

恒久的な影に留まる氷

ドイツのマックス・プランク・太陽系研究所の Thomas Platz 博士が主導し、Nature Astronomy 誌に掲載された第二の研究は、ケレスの北半球にある永久影となっているクレーターに焦点を当てたものだ。科学者たちは数百に上る冷たいダーククレーターを「コールドトラップ」と呼んで調べた。華氏マイナス260度(110ケルビン)未満で氷が非常に少ない領域であり、また10億年を経てもほとんど氷が蒸気に変わらない。研究者らは、これらのクレータのうちの10個に明るい物質の堆積物があることを発見した。部分的に日光が当たる1つのクレーターでは、Dawn 探査機搭載の赤外線マッピングスペクトロメーターによって氷の存在が確認できた。
 

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このアニメーション画像(2.41MB あります。気を付けてください。)は、部分的に一年中影になっているケレスの北極地方のクレーター付近のものです。 このようないくつかのクレーターでは、明るく輝く氷の堆積物が Dawn 探査機のフレーミングカメラによって観測されています。
この発見は、ケレスの寒く閉ざされたダムのようなクレーターにおいて、水の氷がかなりの時間貯蔵できることを示唆しています。 このように蓄積していく領域を「コールドトラップ」と呼んでいます。 華氏マイナス260度(110ケルビン)未満では、これらの領域は非常に寒く、何十億年を経ても氷が蒸気に変わることはほとんどありません。
画像のリンクをクリックするとアニメイション画像が開きます。サイズは、「2.41MB」です。
Image Credit : NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA
 

これは、水の氷がケレスの冷たいダーククレーターに貯蔵できることを示唆している。冷庫に閉ざされた氷は、月にその存在が確認されている。こうした天体表面は、すべて回転軸に対して小さな傾きを持っているため、極付近は極端に寒く、永続的に陰影のついたクレーターが形成されている。
科学者たちは、衝突天体が水星と月に氷を運んできたと信じている。しかし、寒い氷庫におけるケレスの氷の起源は、より神秘的なものだ。

ハワイ大学の Norbert Schorghofer 教授は、
「我々は、この氷がどのようにしてそこに到達したか、それがいかに長期間続いたかに興味を持っている。これはケレスの氷に富んだ地殻に由来する可能性、あるいは天体外宇宙から供給された可能性が考えられる」と述べた。

その起源に拘らず、ケレスの水分子は、より暖かい地域から極に移動できる能力を持っている。ハーシェル宇宙観測所が2012年から2013年に亘って行われたケレスの水蒸気の観測を含むそれまでの研究では、極薄い水蒸気大気の存在が予測されている。表面を離れた水分子はケレスに戻って冷たいダーククレーターに堆積する可能性がある。水分子が宇宙空間に散逸する可能性はあるが、一部は冷たいダーククレーターに堆積し蓄積される。
 

明るいスポットの命名

ケレス表面で最も明るい領域は、北半球のオッカトルクレーターだが、氷によって輝いているのではなく、むしろ反射率の高い塩分を含む物質によって輝く。ベルリンのドイツ航空宇宙センター(DLR)が制作した新しいビデオは、クレーター中心部周辺を飛行し、その地形探検ツアーのシミュレーションだ。オッカトルクレーターの中央の明るい領域は圧し折られたドーム状を含み、Cerealia Facula と名付けられた。中心部の東にある反射率の低いクレータの群は、Vinalia Faculae と呼ばれている。
 

'Bright spots' get names


「オッカトルのユニークな装いは、我々が現在調査中の様々な想定される過程の組み合わせで形成されたかもしれない」と DLR の惑星科学者である Dawn 共同研究者、Ralf Jaumann は語った。「クレーター形成による影響から、塩分を含んだセレスの内側からの液体の湧き上がりを引き起こす可能性もある」
 

Dawn 探査機の次のステップ

Dawn 探査機は、7月に拡張された探査ミッションを開始し、現在ケレスから 4,500 マイル(7,200 キロメートル)以上の楕円軌道で飛行している。Dawnは、2011年7月から2012年9月までに訪れたケレスと原始星ベスタで、本来の目的をすべて達成している。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office