小野雅裕 : 宇宙ヒッチハイクで小天体ツアー


太陽系のある天体から別の天体への旅行は簡単ではない。安全に宇宙船を着陸させ、次の目的地へ到達する方法を見つけなければならない。小惑星などは重力が弱いため、特に着陸の部分は困難だ。
 

このアーティストコンセプトは、ハープーン(銛)とテザーシステムを使って小惑星や彗星をランデブーする様子を示している。
Image credit: NASA/JPL-Caltech/Cornelius Dammrich
 

NASA のジェット推進研究所で開発されたこれら一連の技術は「宇宙ヒッチハイク (Comet Hitchhiker)」と呼ばれ、小天体の運動エネルギを利用して彗星や小惑星の軌道に乗り着陸させることを言う。JPL主任研究員の小野雅裕は、このアイデアを思いついた時、「宇宙ヒッチハイクガイド」と命名した。

「天体のヒッチハイクは、道路脇で親指サインしているのとは訳が違う。やつらは天文学的な速度で動いていて親切に止まってくれことはないからだ。だから親指の替りに、テザーの付いた銛を使うのだ」と、小野は語った。

再利用可能なテザー付きの銛は、その設計コンセプトによれば、軌道に乗るためと着陸のための推進力を置き換えるので、燃料の心配はなくなる。

先ず、ターゲットとなる天体に充分近づいて飛行し、伸縮可能なテザー付きの銛を小惑星や彗星に向かって打ち込む。テザーを繰り出しながらブレーキを掛け、運動エネルギーを収穫して蓄え、また同時に加速する。

釣りに似ているとも言えるかも知れない。湖でボートに乗っていて釣り竿を持っていて、相当に大きな魚を捕まえたい。魚がヒットしたら、適度な張力で充分な長さのラインを繰り出す。ラインが出て行っている間、その張力でボートは牽引されている。十分な長さのラインがあれば、ボートの速度は最終的に魚に追いつくだろう。

宇宙船が「魚」、つまり彗星や小惑星の速度と一致したら、単にテザーを巻き取り、緩やかにに下降して着陸が出来る。着陸して用が済んだら、次の天体に向けて、収穫し蓄えたエネルギでテザーを打ち込んで、さよならだ。

「このヒッチハイクを使えば、主小惑星帯やカイパーベルトの単一のミッションで、5 以上 10 程度の天体を調査できる」と小野は語った。

小野らは、銛が打ち込みの衝撃や牽引に耐えられるかどうか、スーパーコンピュータを利用して研究している。

研究者は「宇宙ヒッチハイク方程式」と呼ぶものに辿り着いた。これは、テザー強度、宇宙船とテザーとの質量比、牽引するために必要な速度の変化に関する一連の等式だ。

従来の推進燃料を使用するミッションでは、宇宙船は軌道に到達するための加速だけで大量の燃料を消費している。

「宇宙船がターゲットから運動エネルギーを収穫するため。宇宙ヒッチハイクでは、加速と減速に推進燃料を必要としない」と、小野は語った。

彗星や小惑星へ安全に着陸するために、充分減速できるということが重要だ。宇宙ヒッチハイクの実現には、軌道導入と着陸の際の速度の急速な変化による、膨大な張力と熱に耐えることができるテザーが必要だ。小野らは、約 1.5 km/sec の速度変化であれば、すでに存在しているいくつかの材料、ザイロンやケブラーで実現可能であると結論した。

「それは 7 分でサンフランシスコにロサンゼルスから行くようなものだ」と小野は語った。

軌道導入に必要な速度変化が大きくなるほど、必要な飛行時間が短い、要するに、彗星や小惑星にもっと早く到達したい場合、さらに強力な材料が必要だ。10 km/sec の速度変化を可能にするには、カーボンナノチューブ製のテザーとか、ダイヤモンド製の銛とか、より高度な材料が必要だ。

研究者はまた、テザーは 100 から 1000 km ほどの長さにする必要があるだろうと推定している。小隕石からの損傷や切断を回避するため、伸縮可能で振動を吸収する必要があるとしている。

研究の次のステップは、より忠実度の高いシミュレーションを行い、彗星や小惑星に見たてた擬似ターゲットに銛を打ち込んでみることだ。
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Japanese Translation : A. IMOTO TPSJ Editorial Office