The Planetary Society of Japan

小惑星の内部構造を探る

Updated : October 19, 2016 - はやぶさ2からポストはやぶさ2へ

日本惑星科学会誌「遊星人」 Vol. 25, No.3, 2016 掲載
火の鳥「はやぶさ」未来編 その11

並木則行1, 2,水野貴秀3,千秋博紀4,山田竜平1,平田成5,野田寛大1,LIDAR サイエンスチーム
1. 国立天文台 RISE 月惑星探査検討室, 2. 総合研究大学院大学, 3. 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所, 4. 千葉工業大学惑星探査研究センター, 5. 会津大学 先端情報科学研究センター

この原稿元ファイル:[ 日本惑星科学会誌「遊・星・人」第25巻(2016)3号 - PDF ]
 

要旨

はやぶさ2では小惑星内部構造の解明を目指している.レーザ高度計からは測距と送受光レベルの観測データが得られ,形状モデルや重力推定の基礎データが提供される.小惑星の不均一性や形状の静水圧平衡からのずれ,形状中心と重心のずれは小惑星の合体成長史を知る手掛りになるだろう.また,レーザ高度計のダスト観測モードでは浮遊ダストの検出に挑戦する.もし検出されれば,小惑星表層進化の理解に一石を投じることになる.さらに宇宙衝突実験で発生する地震波動は表面流動と地形緩和を広範に引き起こす可能性があり,小惑星内部構造の研究に新たな分野を切り拓くことになるかも知れない.
 

1. 小惑星の内部構造という科学

筆者らはレーザ高度計(LIght Detection And Ranging: LIDAR)の開発に従事しながら,

・小サイズの小惑星の形成過程を明らかにし,小惑星の衝突進化モデルを検証する
・小惑星上の物質移動など,地質活動を明らかにし,回収試料のコンテキストを与える

という目標を掲げて,小惑星の表層と内部の研究を行っている.はやぶさ2に搭載されるレーザ高度計からは測距値と送受光レベルが得られる.その詳細については3本の機器開発論文が出版されているので,是非,これらの論文を参照していただきたい.基本の測距性能についてはMizuno et al. [1]に,アルベド観測において想定される測定誤差についてはYamada et al. [2]に,ダスト観測の概要についてはSenshu et al. [3] に詳述されている.

小惑星の「内部構造」といっても,月や火星のような重力天体内部と同様に分化が生じているとは考えられない.期待されるのは,衝突・合体の痕跡として残されているかもしれない不均一性と,表層のレゴリス,ボルダーの水平,垂直移動による物質進化である.こうした研究は隕石サンプルの分析データを解釈する上で重要な先験的情報となるだろう.これまでは,隕石サンプルが母天体内で形成されてから地球に到達するまでの間に,母天体同士の合体による天体内部の流動や,サンプルが表層に露出してから後のレゴリス内での上下運動はほとんど考慮されていなかった.しかし,小惑星が静的な母天体という描像を探査が変えていく可能性がある.また,小惑星での衝突,合体,軌道変遷,表層進化についての知見は太陽系形成,衛星形成の理論研究にも波及して,惑星科学の体系を実証的に補強するという意義がある.
 

1 - 1. 惑星科学における意義

はやぶさ初号機はラブルパイル(rubble pile)構造を有する小惑星が実在すること世界で初めて明らかにした.ラブルパイル構造は小惑星が衝突破壊と再集積を繰り返して進化してきたことを意味する.そこで次に重要となるのは小惑星内部での不均一から小天体同士の合体と,その後の形状変化を探ることだろう.そのヒントもはやぶさ初号機からもたらされている.図 1 に示すようにラッコの頭と胴に例えられる小惑星 Itokawa の形状は独立に進化した2天体が緩やかに結合している可能性を暗示する.これは Itokawa に限らず,Toutatis にも共通する特徴である[4].
 

図 1. はやぶさが取得したイトカワ画像(ST-2420855658)に加筆.
 

太陽系内での衝突破壊については,クレーターを始めとして様々な証拠が残されている.しかし,天体同士の合体についての痕跡は非常に少ない.Itokawa のように緩く合体した(らしい)天体内部の不均一を観測し,サンプルを増やしていくことで,合体天体の形状がどのように変化していくかという素過程[5]を調べることができるかもしれない.合体とその後の形状変化が小惑星のサイズ分布や物質進化に与えた影響は,観測的な制約が無いためにこれまでは大きく取り上げられてこなかったが,日本の小惑星探査が新しい分野を切り拓く切掛けになるのであれば面白い.

 

小惑星表層を内部構造と呼ぶのは言辞において矛盾しているかも知れないが,小惑星表層のレゴリスやボルダーの挙動[6],地形もまた重要な研究対象となる.表層の形態が内部での運動や応力場の制約となるからである.例えば Asphaug et al. [7] は小惑星 Eros 表層のボルダーのサイズ分布から,ブラジルナッツ効果によるサイズ分布の変化を提唱した.また,微小衝突とその振動が引き起こす小惑星レゴリスの対流運動については,Yamada et al. [8]によって詳細な検討がなされている.こうした小惑星表層の運動についての仮説は,検証のための観測データが不足しており大きな不確定性を内在している.それでもこれらの仮説が示唆する表層進化の影響は大きい.静的な,安定した環境を前提とした隕石サンプルの太陽風照射や宇宙線照射から推定される深さや年代について見直しを迫ることになるかも知れないからである.小惑星の表層進化の研究には探査機によるその場観察が必須であり,その最先端を行く日本でこそ今後の発展が期待される分野である.
 

1 - 2. 形状モデルと重力観測

小惑星の内部構造を探る上でもっとも基本的な観測量は形状と重力である.Itokawa を含む複数の小天体のバルク密度の推定をもとに,マクロ空隙率による小惑星の分類が提案されており[9],空隙率 30 % 以上の天体をラブルパイル構造天体,20 % 以下を破砕構造天体,ほぼ 0 % を稠密構造天体と定義している.従って,10 % の精度で空隙率を推定することができればラブルパイル構造天体と破砕構造天体を区別することが可能である.これははやぶさの後継機としてはやぶさ2 が必ず達成すべき目標である.また,地溝やリッジ,クレーターの空間分布を正確な形状モデルをもとに記載し,その形態から表層下の層構造や空隙率変化といった物理的状態を明らかにすることは,内部構造を調査するための基礎となる[10].さらに,重力データをもとに等ポテンシャル面形状や地表面傾斜量を推定することで,表層物質の流動過程が議論される[6].

小天体の合体過程の研究という観点では,天体の全体構造に関わる規模の不均一性が重要である.図 1 に見られるように Itokawa では天体を二分するような空隙率や密度の変化があると期待されるが,残念ながら質量(重力場の0次項)以上の観測結果は得られなかった.はやぶさ2が目指している小惑星 162173 Ryugu は Itokawa に比べて球形に近い形状をしている[11]ので,Itokawa のような大きな構造変化は期待できないのかもしれない.それでも,静水圧平衡からの形状のずれや,重心と形状中心のずれから不均一性を調査することは大切な達成目標である.
 

1 - 3. 物理探査

天体の内部構造を調べる上でもっとも空間分解能が高い手法は,もちろん地震波探査である.小惑星探査用のペネトレータの開発はこれまでも度々話題には上がっているが,残念ながら本稿の執筆時点でもまだ実用化されていない.電磁波探査も地球観測では有力な手法であるが,天体深部まで探ることは難しい.将来的にはミューオンを用いた探査も検討されているようなので大いに期待したい.つまり,現状からははやぶさ2での物理探査は検討外,と考えられるかもしれない.しかし,はやぶさ2 には衝突装置(SCI)[12] という大変ユニークな実験装置が搭載されている.SCI の第一の目的は内部物質のサンプル回収のための掘削であるが,SCI 衝突が引き起こす地震波動によって小惑星表面の地形が変化することが考えられる.Seismic shaking と呼ばれる小惑星の地形緩和は表面のクレーター年代の測定[e. g., 10]や,クレーター,ボルダーサイズ分布を解釈する[e. g., 13, 14]上でも,決して無視できない要因であろう.衝突実験の前後で表面地形のビフォー・アフターを観察することにより表層流動のヒントを得ることが出来れば,小惑星表層の物質進化に関してはやぶさ2独自の貴重な観測的制約が手に入る可能性がある.

秤動,自転速度の変化も天体内部を制約する重要な観測量である.外部からのトルクに対する天体の応答から,慣性モーメントやエネルギー消散率を読み取ることができる[e. g., 15].しかしながら,外部に主だった摂動源が存在しない Ryugu では秤動,自転速度の変化から内部構造を推定することは期待できない.なお,Ryugu の自転軸が公転面に対して大きく傾いている場合[11]には YORP 効果によって自転速度が変化する可能性がある[16].これはこれで大変興味深い研究課題であるが,本稿の主旨からは外れるのでこれ以上は追求しないことにする.
 

2. はやぶさ2の観測

形状モデルや重力観測から小惑星の内部構造を探るために,はやぶさ2 LIDAR(図 2)の測距値が有効である.LIDAR は探査機から照射されたレーザが小惑星表面で反射され,探査機に返ってくるまでの時間を計測することで,探査機と小惑星表面の距離を計測する装置である.LIDAR は測距と同時に送光パルスと受光パルスの強度を計測して,小惑星表面の反射率(アルベド)を測定することができる.また,測距モードからダストカウントモードに切り替えて,小惑星表面付近を浮遊しているダストを検出する機能も有している.以下にこうした観測手法を概説し,想定される観測誤差と期待される成果について紹介したい.
 

図 2. LIDARフライトモデル外観.
 

SCI 実験では小惑星表面に地震動が生じるだろう.小惑星の微小な重力下では,僅かな地震の加速度でも容易にレゴリスやボルダーが浮きあがる[13, 14].安息角に近い傾斜があれば重力傾斜の方向に地すべりが起きるだろうし,ブラジルナッツ効果[7]によってボルダーが浮き上がってくるかもしれない.どれくらい広範囲に seismic shaking が起きるかは,表層の層構造や,レゴリスのエネルギー消散率,空隙率,内部摩擦といった弾性波の伝播特性に依る.微小重力下で堆積するレゴリスの物理特性は地上実験では再現が困難である[12] ため,seismic shaking のモデルを実際の小惑星に適用する上で大きな不確定要因となっている.SCI の衝突実験でこうした物理量をおさえることができれば,小惑星の表層進化の研究を一歩前へ進めることになる.

 

2 - 1. LIDAR 測距と重力

測距の基本性能は Mizuno et al. [1]に詳述されている.その主要項目のみをまとめると表 1 のようになる.バルク密度推定に要求される精度は最大 10 % である(1.2).はやぶさ2では初号機の実績も考慮して,要求精度を 7 % と設定し,体積計測目標精度に 5 %,質量(重力)計測目標精度に 3 % と配分した.これに対応する測距精度は,ホームポジション(HP)高度 20 km から 33 m となるが,表 1 から明らかなようにはやぶさ2 LIDAR はこの要求を十分に満足している.一方,重力計測精度ははやぶさ2アストロダイナミクスチームが推定しており,HP から 12 時間以上かけて高度 4 km まで自由落下させる運用を 2 回繰り返すことで重力計測精度 3 % が達成される.小惑星の重力はあらゆる近接運用,降下運用に必須の情報であるので,はやぶさ2では小惑星到着後の早い時期に 2 回の自由落下計測が予定されている.アストロダイナミクスチームの推定の前提となっている測距誤差(標準偏差)は 10 m であり,この要求も LIDAR は満たしている.

表 1 : はやぶさ2 LIDAR 測距基本性能.

項目 性能 (地上試験実績)
測距範囲 30 m - 25 km( 想定アルベドが 0.06 - 0.1 に対して)
測距誤差 ± 1 m( 高度30 mにおいて),± 5.5 m( 高度 25 km において)
フットプリントサイズ 20.4 mrad( 高度1 km以下において),1.5 mrad( 高度 1 km 以上において)
サンプリング周波数 最大 1 Hz

 

形状中心と重心のずれの計測に関しては目標設定が難しい.あまりに小さなバルク密度の差や,あまりに小さい形状中心/重心ずれを計測目標に掲げたとしても,所詮は内部が均一であることを示すに過ぎないからである.大規模な構造の大きなバルク密度差を検出してこそ科学的意義がある.ひとつの目安として,最低でも直径の 1/3 以上のサイズの密度偏りが,最低でも 10 % 以上の空隙率の差異を有していると仮定すると,形状中心/重心ずれは 10 m を超える.そこで重心を 10 m 以下の精度で推定するために必要な自由落下(12 時間以上)の回数をアストロダイナミクスチームが求めたところ,4 回以上必要となることが分かった.2 回の重力測定運用だけでは,この要求は満たされないが,幸いなことにはやぶさ2は 3 回のタッチダウン運用,3 機のローバ放出,SCI クレーター探索と複数回の近接運用を実施することになっている.降下時には探査機の安全確保のために軌道マヌーバを実施しない訳にはいかないが,上昇時は制約が少ないので自由「上昇」を行うことが可能である.これらの機会を利用して,Ryugu の重心位置決定精度の向上と,重力場の高次項推定を図りたい.

測距の空間分解能は 1 秒周期のサンプリング中にどれだけ自転するかによる.自転周期 7.63 時間と有効直径 875 m [11]を用いると,測線上の最大間隔は 10 cm である.一方,測線間隔は自転軸の向きに依るため,見積もりが困難である.もし仮に,1週間に2自転分の測距を 1 年間繰り返せば 104 本の測線が得られる.この測線が北極から南極まで等間隔に並んだとすると,約 13 m 間隔になる.ちなみに形状モデルの解像度は ONC の画像解像度に依るので,LIDAR の平均測線間隔よりもはるかに高い解像度が得られる.

一本の測線上に並んだ測距値は空間分解能が高く,かつ,精度も良い.一本の測線を観測している間に軌道修正が行われることは少ないので,HP における小惑星重心に対する探査機の運動は太陽光圧の影響が支配的になると考えられる.この摂動は,フットプリントの緩やかな水平移動と測距値の単調増加/減少として表れるはずで,形状モデルと測線を照合させれば容易に除去できるバイアス誤差である.この高空間分解能,高精度地形データは特に短波長の roughness の推定に威力を発揮する[17].小惑星表面の roughness は一方で測距とアルベド測定の誤差要因となっているので,測距と roughness 測定を繰り返し解析して地形モデルの精度を上げることが可能かもしれない.
 

2 - 2. 表面アルベド観測

レーザ送光強度と小惑星表面からの反射光強度を測定することで,レーザ波長(1064 nm)における小惑星表面の幾何アルベド(geometric albedo)を観測することができる[2].表層進化の観点からは,特に相対アルベドの地域変化が重要な観測目標となる.アルベドの変化要因としては,衝突によるイジェクタ放出,同じく衝突により励起される seismic shaking,そして地球などの潮汐力の影響が考えられる.急斜面では地表更新が頻繁に起きて宇宙風化のムラが生じている可能性も大いにある.

C 型小天体表面のアルベドの地域変化については,小惑星 Mathilde では比較的小さく ± 6 % 程度であった[25] が,火星の衛星 Phobos では ± 20 % とやや変化が大きいことが知られている[26].両者の違いが何に起因するのかはよくわかっていないが,レゴリスの移動や宇宙風化作用との関連が考えられる.一方で,はやぶさ2 LIDAR のアルベド観測は誤差が大きく,機器固有の誤差要因を積み上げるだけでも ± 18 % に達する[2].加えて,地形傾斜や roughness といった小惑星の表面状態も大きな誤差要因である.形状モデルや一本の測線から得られる roughness 推定値からアルベドの観測精度どこまで上げられるかの検討(2.1)が,探査機が小惑星に到着するまでの重要課題である.
 

2 - 3. 小惑星浮遊ダストの検出

アポロ探査の当時から,月面のダストは舞い上がり易く,また静電気によって付着しやすい特性を持つ事が知られている.また,月では horizon glow と呼ばれる現象が起きる.月面上に置かれたカメラがとらえた現象で,日没後に太陽の方向に太陽光を散乱する層が見られる.これがダストによる光の散乱だとすると,ダスト層の高さは地面から 30 cm 程度,ダストの特徴的なサイズは 3 μm と見積もられる[e. g., 18].月の horizon glow を起こすメカニズムはまだよくわかっていないが,表面付近の電場によって起きているというモデルが有力である[e. g., 18, 19].

上の理解が正しければ,全く同じ現象が小惑星上でも起きるはずである.浮遊ダストが直接確認された例はまだないが,Gaspra,Ida,Eros 等の小惑星の表面には滑らかな地形があることから,粒径が解像度よりも十分に小さな粒子で覆われていると考えられている.中でも小惑星 Eros は NEAR シューメーカーによって詳細な観測がなされており,直径 20 - 300 m のクレーターの底に水面のように滑らかで,周囲に比べて「青い」色をしている地形が発見されている[20, 21].“Pond” と名付けられたこの地形の色の特徴は,50 μm よりも小さなダストが濃集して作られたと考えれば説明可能である[20].

初号機のサンプル分析から,Itokawa が 800 万年に 1 m の割合で小さくなっていると推定された[22].Itokawa では Eros よりも天体との静電反発でダストが重力を振り切って脱出しやすいことから,Itokawa のサイズ減少はダストの消失と理解できるかもしれない.天体重力圏から逃げ出したダストは惑星間空間塵(interplanetary dust particle : IDP)となるため,小惑星からのダストの放出量を直接観測することで IDP の起源と進化,総量の見積もりに制約を与えられるかもしれない.

LIDAR のレーザ光が浮遊するダスト雲に当たれば,ごく微弱な反射光が戻ってくると期待される.LIDAR の閾値は十分低く設定できるので,原理的にはダスト雲からの反射を検出できる.しかし,浮遊ダストの存在を確実に実証するためには,反射光のプロファイルからダスト数密度の視線方向に沿った分布を決める必要がある. 開発当初には, はやぶさ2 LIDAR には反射光プロファイルを取得する機能がなかったが,サイエンスチームの要望により,一部区間について時間の関数として反射光のエネルギーが閾値よりも高いか低いかを検出する機能が追加された.我々はこの新機能をダスト観測モードと呼んでいる.ダスト観測モードで,閾値を変化させながら測定を繰り返すことで,擬似的に反射光のプロファイルを決めることができる.一方で,閾値を下げると電気的ノイズが増大することも地上試験で確認されている[3].小惑星浮遊ダストの実測データが全く無いため,浮遊ダストの検出は予測が困難であるが,LIDAR 以外にも中間赤外カメラ[23]や光学航法カメラ[24]でダスト雲が観測される可能性がある.もし,小惑星周辺で浮遊ダストの存在を確認できれば世界初の観測となり,表層進化に一石を投じることになるだろう.
 

2 - 4. SCI の宇宙衝突実験

はやぶさ2には小型の衝突装置が搭載されており,2 kg のライナーを 2 km/s の速度で Ryugu に衝突させる[12].この宇宙衝突実験で形成されるであろうクレーターについては荒川ら[12]が詳しく説明しているが,本稿ではクレーター形成に伴う seismic shaking について考えてみたい.Seismic shaking については既に詳細な研究がなされており[8, 13],例えば Garcia et al. [14]は 10 g の物体が 6 km/s で衝突した際に生じるであろう鉛直方向加速度と鉛直方向速度の最大値が見積もられている.彼らの計算によれば,直径 1 km の小惑星では,衝突点から少なくとも半径 300 m の領域内で表層物質が持ち上げられるという結果が得られている.単純にエネルギーで比較しても SCI では 28 倍の衝突が起こり,着弾点を中心に Ryugu の広範な地域で seismic shaking の影響が現れると期待できる.

Garcia et al. [14] の見積もりでは seismic shaking によって生じる鉛直方向速度は直径 1 km の小惑星の脱出速度よりも二桁小さく,表層物質は浮き上がっても惑星間空間へ散逸することはない.つまり,衝突の直後に地震ダスト雲が同心円上に湧き上がるのではないかと予想される.残念なことに,着弾時にははやぶさ2探査機は Ryugu の裏側に退避し,ONC カメラも小惑星を捕らえてはいない.分離カメラ[12]で地震ダスト雲を撮像することがもし可能であれば,地震波の伝播速度や表層の変位速度が分析できるかもしれない.また,たとえ地震ダスト雲そのものをとらえることができなくても,地震ダスト雲の再集積や地すべりが起きて,着弾点を中心に広範な地形緩和が起きるであろうと期待される.SCI 衝突実験では,新たに形成されるクレーターを特定するために,衝突の前後で着弾予想点から半径 200 m の範囲を精査する計画になっている. 宇宙衝突実験のビフォー・アフター画像は seismic shaking とそれに伴う地形緩和の貴重な実証データになるのかも知れない.表層レゴリスの深さの違いが表面流動として観察されるかもしれないし,ボルダーのブラジルナッツ効果が実証される可能性もある.そうした成果を Eros や Itokawa といった他の小惑星に応用することができれば,小惑星表層進化の全く新しい展開となる.

Garcia et al. [14]の見積もりには大きな不確定性が含まれている.特に重要な不確定要因は地震動のパワースペクトル,衝突の継続時間,そして表層内で地震動が伝播する際のエネルギー消散率である.SCI の宇宙衝突実験では,むしろこれらの不確定要因を実測値から制約することに大きな意義があるのかもしれない.とりわけエネルギー消散率は表層微粒子の結合力を示す指標として,1 G 下の地上実験では得ることができない貴重な観測データ[12]になるかもしれない.浮遊ダストの原因とも考えられている静電反発力(2.3)は微粒子間の結合力にも影響する可能性があるので,LIDAR ダスト観測も併せて小惑星表層の物理状態に迫りたい.
 

3. 小惑星科学の発展

「小惑星の内部構造」という視点で思いつき程度に話題を並べさせて頂いた.月や氷衛星のような重力天体の内部構造は教科書で学ぶことができるが,小天体の内部構造はそれ自体が研究対象となり得るか否かまだ不明である.はやぶさ初号機によるラブルパイル天体の実証と,それに続くはやぶさ2の観測が新たな分野の開拓につながることを期待している.最後に強調したいのは,「小惑星の内部構造」は未開拓の分野だけに現在のサイエンスチームが想像していない観測結果が見つかるかも知れないという点である.はやぶさ2探査機の小惑星到着までまだ二年ほどあるので,プロジェクトチーム外の読者も今後のはやぶさ2の観測に注目して頂いて,隙あらばサイエンスチームを出し抜くような研究成果を上げて頂きたい.そのための取り掛かりになればと,本稿を執筆させて頂いた.内容に誤記や理解の及ばない点があれば,第一著者の責任である.どうぞお叱りは第一著者に送って頂きたい.
 

謝辞

はやぶさ2 LIDAR の開発に携わった技術者の方々,はやぶさ2プロジェクトを支える技術者,事務員,その支援員,全ての方々に心より感謝します.本稿は渡邊誠一郎プロジェクトサイエンティストに執筆の機会を頂きました.
 

参考文献

[1] Mizuno, T. et al., 2016, Space Sci. Rev., in print, doi:10.1007/s11214-015-0231-2.
[2] Yamada, R. et al., 2016, Space Sci. Rev., in print, doi:10.1007/s11214-016-0240-9.
[3] Senshu, H. et al., 2016, Space Sci. Rev., in print, doi:10.1007/s11214-016-0242-7.
[4] Zhu, M-H. et al., 2014, Geophys. Res. Lett., doi:10.1002/2013GL058914.
[5] Hirabayashi, M. and Sheers, D. J., 2015, Astrophys. J. Lett. 798, doi:10.1088/2041-8205/798/1/L8.
[6] Miyamoto, H. et al., 2007, Science 316, 1011.
[7] Asphaug, E. et al., 2001, LPSC XXXII, Abstract 1708.
[8] Yamada, T. M. et al., 2016, Icarus 272, 165.
[9] Britt, D. T. et al., 2002, Asteroids III (Univ. Ariz. Press, Tucson).
[10] Hirata, N. et al., 2009, Icarus 200, 486.
[11] Muller, T. et al., 2011, Astron. Astrophys. 525, A145.
[12] 荒川政彦ほか, 2013, 遊星人 22, 152.
[13] Richardson, J. E. et al., 2005, Icarus 179, 325.
[14] Garcia, R. F. et al., 2015, Icarus 253, 159.

 

 

CATEGORY: 次世代太陽系探査

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