The Planetary Society of Japan

次世代太陽系探査

地球からの小惑星物質回収

Updated : October 12, 2016 - はやぶさ2からポストはやぶさ2へ

日本惑星科学会誌「遊星人」 Vol. 25, No.1, 2016 掲載

中村智樹1,Jong Ik Lee2,Changkun Park2,長尾敬介2
1. 東北大学大学院理学研究科, 2. 韓国極地研究所

この原稿元ファイル:[ 日本惑星科学会誌「遊・星・人」第25巻(2016)1号 - PDF ]
 

要旨

探査機による小惑星からのサンプルリターンと並行して,南極大陸からの小惑星や彗星由来の物質の回収も続けられている.本稿では南極において,どのように隕石や宇宙塵が回収されているかについて簡潔に紹介する.
 

1. はじめに
 

図 1. 地球スイングバイを終えた後に,ONC-T と呼ばれる光学航法カメラ(望遠)で撮影した地球(JAXA デジタルアーカイブ P100010393).南極大陸が中央右に写っている.
 

2015年12月4日の日本時間午後01時09分に,小惑星探査機「はやぶさ2」は太陽系第3惑星の地球に近接し,可視カメラ ONC-T を用いて氷大陸の写真を撮影した(図 1).その氷大陸には小惑星から飛来した岩石が多数存在しており,探査機は大陸に着陸して小惑星物質の回収を行う予定・・・という訳ないが,ちょうどこの日のこの時間,私はその氷大陸(南極)の氷河の上を,目を凝らしながら小惑星物質(隕石)を捜し歩いていた.この日の氷河地域は天候不良で,風が強く,雪吹雪が真横に飛び交っていた.

南極大陸において小惑星由来の隕石を探査し回収することは,宇宙探査機を飛ばして小惑星からサンプルリターンを行うことと同様に,太陽系初期進化を解明することを命題とする惑星科学の進歩には重要である.日本は南極隕石の最大保有国の一つであり,数多くの貴重な隕石が東京・立川の国立極地研究所に保管されており,隕石を用いた科学研究に供されてきた.本稿執筆を渡邊誠一郎さんから依頼されたときは,隕石の物質科学および分光について記載しようと思ったが,この分野の丁寧な解説は,「火の鳥」過去記事において,北里さんや橘さんなどによりすでになされている.したがって,本稿では視点を変えて,惑星科学の世界ではあまり知られていない,南極からの宇宙物質の回収について紹介しようと思う.「火の鳥」ではなく「氷の島」の話である.
 

 

2. 南極上陸まで

南極大陸に隕石探査に行く場合,以前は越冬隊に参加し一年以上日本を留守にしていたが,近年は南極の夏の間(11~2月)のみ探査することが主流になってきている.したがって,大学を留守にする期間が短くなり,大学の教員は参加しやすくなってきた.海外に目をやると,日本以外に南極での隕石探査を定期的に行っている国は多く,米国,中国,韓国,イタリアなどである.私は今回,長年の共同研究者である韓国極地研究所の Lee Jong-Ik さん率いる韓国隕石隊に Changkun Park さん,長尾敬介さんとともに参加し,南極への行き帰りを含めて二か月弱の間日本を留守にした.南極に行く前に,いくつか準備をする必要がある.南極の基地には医師が常駐しているが,手術をする設備は整っていない.このため,南極に行く前に詳細な健康診断を行い,大きな疾患がないことを証明することが求められる.また,南極での調査活動に支障をきたさないように,出発までの数か月の間,体力増強を目的に毎朝1時間のランニングなどを行って備えた.

南極大陸は広いが南半球のほかの大陸とは陸続きにはなっていない.したがって,南半球のいくつかの都市から,飛行機か船で南極入りする.私の場合はニュージーランドのクライストチャーチからプロペラ機で出発し,約8時間かけて南極大陸に上陸した.驚いたことに,飛行場は凍った海を整地して作られたものである.夏になり気温が上がると氷が溶け始め危険になり,飛行場として使えなくなる.飛行場は私が着陸した日から10日後に使用禁止になった.そのため南極からの帰途は,飛行機は使えず船になった.
 

3. 隕石探査
 

図 2. 南極大陸全図.韓国基地を矢印で示す.地図内で四角で示されているのは,世界各国の南極基地.
 

韓国ジャンボゴ基地は南極大陸の沿岸に位置し(図 2),昨年度に完成した新しい基地である.建物の色は真っ青で,上から見ると三方に伸びたヒトデのような星形をしている.基地の周りには何もなく,氷と岩石の荒野である.基地内では水は近くの海水から作成し,電力は石油から発電をしている.夏は白夜であるため,夜中でも夕方ぐらいの明るさである.理由はわからないが,ニュージーランド時間で生活をした.基地近くの雪山で歩行訓練やクレバスからの脱出方法などを学び,隕石探査に備えた.

 

図 3. エレファントモレーン(隕石採集地)の青氷.写真手前にみえる平行な筋はクレバス.
 

韓国基地から南方に数百 km の位置にエレファントモレーンという裸氷域がある(図 3).裸氷域とは,大陸内部の氷が地下から上昇して地表に露出している場所で,南極大陸の内陸部に点在している.エレファントモレーン域には,1領域の広さが数十 km 四方程度の裸氷域が複数存在している.この領域ではかつて米国隊が大量の隕石を発見している.我々は米国隊がまだ調査していない領域を優先的に調査した.安全確保のためヘリコプター二台で基地から調査地域に向かう.ヘリは 5 人乗りで合わせて 10 人で移動する.エレファントモレーンに向かう中途にて,いくつかの大きな氷河を横切る(図 4).

 

図 4. リーブス氷河.エレファントモレーンからの帰りにヘリコプターから撮影.
 

エレファントモレーンでは,基本的にはパイロットの二人を除く八人で調査を行う(パイロットの一人は 1 ㎏ を超える隕石を発見した).隕石調査は裸氷上を歩いて隕石を探す.氷は青い.氷には多数の割れ目(クレバス)があり,幅が 50 ㎝,深さが数十 m を超えるものも多くあり,これに落ちると大変危険である.場所によっては表面が雪に覆い隠されているクレバスもあるため,細心の注意が必要である.今回初日に隊員の一人がクレバスに落ちたが,幅が狭いものであったため,下半身だけが割れ目にはまり腕が引っ掛かったため,事なきを得た.また,南極ではカタバ風と呼ばれる南風が吹いている.南極のどこにいても風は南から吹いてくる.南風というと暖かいイメージがあるかもしれないが,北半球の北風と同じで冷たい.凍傷を避けるため(風にあたり続けると皮膚が凍ってしまう),調査は必ず裸氷域の南側から北側に向かって歩き,カタバ風を背に受けるようにする.しかしながら風速が 10 ノットを超えると,吹雪が吹いて青氷の表面が見にくくなるため,調査がしにくくなる.

 

図 5. 氷上に発見された炭素質コンドライト隕石.中央が筆者.
 

調査方法は,基本的には,間隔 100 m 程度をあけて八人が左右に並び,北に歩いて進むというものである.一日に約 10 ㎞ 程度歩行する.八人のうち二人がフィールドガイドであり,他よりも早く進んで調査領域に大きなクレバスがないかを調べ,事故がおこらないように常に備えている.青氷は固く滑るため,金属スパイクを靴底に装着する.我々が今回調査したエレファントモレーン域には,地球の岩石が少なく,氷上に発見される岩石はほぼ隕石である.通常隕石は大気圏突入時の加熱で表面が焼けただれており,容易に地球岩石と区別することができる.隕石はほぼ真っ黒であり,青氷上(図 5)かクレバスに詰まった雪上に発見される.後者は比較的小さな隕石が多く,おそらく風で飛ばされた隕石がクレバスのへこみにトラップされたものであると思われる.

良く知られている事実であるが,地球に飛来する隕石の大部分が平衡普通コンドライトである.実際,今回の隕石探査で回収された隕石の大部分がこのタイプであり,普通コンドライトの中では H コンドライトが圧倒的に多かった.H コンドライトは普通コンドライトの中で最も金属鉄に富み,固くずっしりと重い.一方,始原性をよく保存している炭素質コンドライト隕石は少なく,10 個程度しか回収されなかった.炭素質隕石の中では CM タイプが最も多く回収された.

小惑星の溶融分化を記録している分化隕石も 10 個程度が回収された.回収された隕石の質量は,多くが 100 g 以下であるが,数個の隕石試料は 1 ㎏ を超えるものであった(重いのはすべて H コンドライト).今回トータルで 170 個以上の隕石が回収された.この隕石数は韓国隊のこれまでの年間回収個数の新記録である.私自身は全部で 15 個しか発見できなかったが,新記録達成に多少なりとも貢献できてよかったと思っている.

図 5 の隕石は岩石組織などから炭素質隕石であると考えられる.面白いことに,この隕石の表面には直径 5~10 mm,深さ 5~10 mm 程度の穴が多数確認された.私が知る限り,このような構造は他の炭素質隕石には確認されていないため,この隕石には何らかの特殊なプロセスが作用した可能性がある.穴の内部は丸みを帯びた比較的滑らかな表面である.Lee さんによると南極の岩石表面のこのような穴は,南極での強い風が原因である可能性があるとのことである.確かに基地周辺の地球岩石表面を観察すると,同じような表面構造を持つ岩石が散見される.また,上記の炭素質隕石の穴が開いている面は,青氷と接触していない風にさらされている面であり,風穴である可能性は十分あると考えている.
 

4. 宇宙塵探査

南極における探査は隕石回収が主目的であるが,並行して宇宙塵探査も行った.地球には直径 1 mm 以下の地球外物質である宇宙塵が年間4万トン程度飛来している[1].この集積量は宇宙塵よりもサイズの大きい隕石の集積量(~1000 トン[2])に比べるとはるかに多い.宇宙塵の主な供給源は彗星と小惑星である.南極における大規模な宇宙塵回収はフランス隊が始めた.最初は氷を溶かした水をフィルターして氷中の宇宙塵を回収し[3],その後雪を回収して溶融した水をフィルターして雪中の宇宙塵を回収した[4].日本隊も氷からの宇宙塵回収[5],雪からの宇宙塵回収[6]を行い,大きな成果を上げている.

氷からではなく雪から宇宙塵を回収する利点は,地球での変質がほとんどないということである.雪は最近降ったものであり,その雪に含まれる宇宙塵も最近地球に降下したものである.一方,氷はかつて降った雪が長時間かけて圧密され生成されたものである.したがって,雪中の宇宙塵は雪との接触時間が氷中の宇宙塵よりも短く,地上での化学・鉱物変質が少ない.一方,宇宙塵回収の別の手法として,高層大気での飛行機を用いるものがある.この手法では大気中を落下する塵を Si グリースを添付した板に接着させて回収する.板と塵の間に飛行機速度程度の相対速度があるため,板と塵が接触する際に多くの細粒の塵が衝突破壊されてしまうという欠点がある.雪から回収される宇宙塵は,雪に軟着陸し,また,雪中ではあまり圧密されないため,細粒の宇宙塵が破壊されずに回収される可能性が高い.

雪から宇宙塵を回収する際に重要になるのは,回収地域の年間降雪量と平均気温である.宇宙塵の年間降下量に関しては,南極地域間差はないと考えられるので,降雪量が多いと回収した雪に含まれる宇宙塵の個数が減ってしまう.また,回収地域の平均気温が高いと,雪が解けて液体の水になり宇宙塵を変質させてしまう.今回は,標高 2500 m 程度の Talos dome の雪を回収することにした.Dome とは雪の山のことを指すが,実際はかなり緩やかなので雪原に近い.Dome は標高が高く雪以外の地球物質が少ないため,宇宙塵採取には適した場所である.

2015年11月に二回 Talos dome で雪を回収した.一回目が約 350 ㎏,二回目が約 300 ㎏ である.二回とも表面から深さ 20 ㎝ 程度の雪,及び表面から 50㎝~100 ㎝ 程度の雪を回収した.表面付近の雪は,最近一年間に降った雪であり,深さ 50 ㎝~100 ㎝ の雪は数年前の雪である.この地域での年間積雪量は,およそ 10 ㎝~20 ㎝ 程度であると見積もられている[7].
 

図 6. Talos Domeで回収した雪の箱をヘリで輸送.プレスリー氷河に沿って移動中.
 

雪の回収を行う際は,ヘリコプターや人間由来の微粒子を避けるために,ヘリコプターに対しカタバ風の上流(南)約 100 m において,クリーンルーム用のスーツを装着して雪を回収する.雪は塵を発生しない特殊なプラスチック袋に約 20 ㎏ ごとに封入する.そして,その袋を一つずつ段ボール箱に入れ,箱ごとヘリコプターで釣り上げて基地まで運ぶ(図 6).通常 400 ㎏ の重量物は釣り上げることが可能なヘリコプターを使用していたが,20 ㎏ の段ボール箱が 20 箱(計400 ㎏)が Talos dome では持ち上がらなかった.その理由は,標高が高く空気が薄いため,ヘリコプターの浮力が低下したためである.せっかく回収した雪を約 50 ㎏ 程度捨てて,17 箱にしてようやくヘリコプターで釣り上げることができた.

基地に冷凍室があり,持ち帰った段ボール箱は韓国に帰還する船に積むまでは,そこで保管される.韓国の極地研究所において,雪を溶かし,フィルターで濾すことで塵を分離する.塵が乗ったフィルターを日本に持ち帰り,電子顕微鏡を用いて本物の宇宙塵を同定する.ここ数年間 Talos dome 以外の雪を回収しており,それらの雪からこれまでに我々が特定した宇宙塵の多くは,10~100 ミクロンの大きさであった.ほとんどの宇宙塵は,目で見ると真っ黒である.また,多くの宇宙塵は大気圏突入時の摩擦熱で溶融して球状になっている.科学的価値が高い宇宙塵は,大気圏で溶けていない,つまり飛来元の天体の物質情報をよく保存している宇宙塵である.
 

5. 南極の生き物たち
 

図 7. ケープワシントンのペンギンコロニー.写真上部に数多くのペンギンが写っている.
 

基地がある沿岸部では,夏になると気温が上昇し,海の氷の一部が溶け,海水が露出する.そこから,多くのアザラシが出てきて日向ぼっこをする.南極では,昼夜なく日向ぼっこができる.そのため,アザラシは間断なく寝ている.一方,基地からヘリコプターで 30 分程離れた場所にケープ・ワシントンという皇帝ペンギンの一大コロニーが存在する(図 7).ここには,80,000 匹以上のペンギンが生息している.私が訪れたのは,夏の初めであり数多くの子供ペンギンが育てられていた.親ペンギンの多くは,1 キロメートルほど離れた海へ,子供のための餌をとりに出かけており,子供ペンギンの方が数が多かった.

 

6. 南極からの帰還
 

図 8. 遭難している二隻の漁船.氷に囲まれて身動きできない状態.甲板に船員が見える.
 

12月17日に砕氷船アラオンに乗船し,南極を後にした.アラオンは,日本の砕氷船しらせの三分の二程度の大きさである.約 50 名の研究者やエンジニアが基地から船に乗り込んだ.南極から離れるにつれて海上の氷が薄く小さくなっていくのがわかった.航海の途中で二隻の漁船からの救助依頼があり,せっかく南極から離れつつあったのだが,急きょ転回し救助に向かった.数十人が乗務する二隻の漁船が,氷に囲まれて身動きが取れない状態になっていた(図 8).我々の船は,砕氷船であったため,遭難している船の周りの氷をすべて破壊し,救助に成功した.一隻の船は最後はロープで引っ張って乗り上げた氷から引き離した.二隻の漁船は,自力で航海し漁を続けることになった.この救助劇は,韓国国内で大きく報道されたそうである.Lee さんによると,救助した船からお礼にメロウという魚を三匹もらったそうである.しかしながら,救助には燃料代を含めて約1000万円かかったそうである.つまり,三匹の魚を1000万円で買ったようなものである.

この救助劇と予定外の海底ボーリング調査を行ったために,ニュージーランドに到着する日付が12月23日から12月28日に延期になった.24日の夜は,船上でクリスマスパーティーが催され,楽しいひと時を過ごした.南緯66 度を超えると,夜が暗い生活に戻った.船は無事に28日にクライストチャーチに到着し,翌日29日に私は飛行機で帰国した.初めて南極での隕石探査及び宇宙塵回収の作業に参加し,南極の自然の美しさとサンプルを回収する作業の楽しさと厳しさを実感することができた.
 

参考文献

[1] Love, S. G. and Brownlee, D.E., 1993, Science 262, 550.
[2] Bland, P. A. et al., 1996, Monthly Notices Royal Astronomical Society 283 551.
[3] Maurette, M. et al., 1991, Nature 351, 44.
[4] Duprat, J. et al., 2007, Advances space reseach 39, 605.
[5] Yada, T. et al., 2004, Earth Planets Space 56, 67.
[6] Noguchi, T. et al., 2014, Earth Planet. Sci. Lett. 410, 1.
[7] Frezzotti, M. et al., 2007, JGR 112, F02032.

 

 

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