トロヤ群小惑星の形はどこまでわかったか
特集「将来木星圏・土星圏探査計画へのサイエンス:その2」

佐藤勲(中野星の会), 浜野和弘已(浜野和天文台)

この遊星人記事は、日本惑星科学会遊星人編集専門委員会より許可を得て掲載しております。
 



要旨

木星のトロヤ群小惑星は,まだ探査機が到達していない天体で,その素性はよくわかっていない.小惑星による恒星の掩蔽観測は,地上観測によって遠方の天体でもその大きさや形が正確に測定できる重要な手段である.これまで,いくつかのトロヤ群小惑星による恒星の掩蔽の観測が行われ,その大きさや形が次第に明らかになってきた.特に,将来の国内トロヤ群ミッションの検討例の一つに挙げられた(624)ヘクトル[1] については,日本でその掩蔽が観測され,本体が非対称な 2 成分の接触連星であるというモデルが出されている.今後,すばる望遠鏡や掩蔽観測によって,これらトロヤ群小惑星の詳しい研究が進むことが期待される.
 

1. 小惑星による恒星の掩蔽とは

小惑星による恒星の掩蔽とは,小惑星が天球上を動いていく時に,その経路上にある恒星を隠す現象である.この現象が見られる範囲(掩蔽帯)は,皆既日食が見られる地域のように,小惑星の大きさ程度の幅の帯状の地域であり,現象が起これば,隠される恒星と小惑星の合成された明るさから小惑星のみの明るさまで,数秒から数十秒にわたって減光する.多くの場合は,小惑星が 10 等級以下の暗さであるため,恒星が一瞬にして消えたように見える.この現象を掩蔽帯内の複数の地点で恒星が隠された時刻を観測することにより,隠した小惑星の断面の大きさと形を知ることができる.その精度は,一般的に IRAS などの赤外観測によるサイズ推定より高い.

小惑星による恒星の掩蔽の可能性は,1952年にイギリスの G.E. テーラーが四大小惑星による恒星の掩蔽の予報を出したことに始まり,1958年にスウェーデンのマルメで,世界で最初の成功となる(3)ジュノーによる恒星の掩蔽が観測された[2]

1976年01月24日にアメリカで起こったアモール型小惑星(433)エロスによるふたご座 κ 星(3.7 等)の掩蔽は,小惑星が小さかったにもかかわらず,地球に近かったことと,隠された恒星が 4 等星と明るかったことから,8 ヶ所で観測され(全て眼視観測),エロスが 12 x 23 km のおむすび型のいびつな形をしていることがわかった[3].後にエロスがニア・シューメーカーによるターゲットとなったのは,この掩蔽観測成功がもとで,エロスに対する関心が高まったことが理由の一つと考えられる.

この成功の後,1970年代後半から,アメリカ,日本,ヨーロッパなどでアマチュア天文家を中心に盛んに観測が行われるようになったが,予報の対象となる小惑星の多くは,メインベルトの直径数十 km 以上の大きな小惑星で,しかも大きいものでも直径数百 km 程度の小惑星の大きさに対して,予報の精度が 1000 km 以上と悪く,どこで現象が見られるのかわからないという状態だったため,予報された現象の多くは観測されず,観測に成功しても一ヶ所ないしは数ヶ所という場合が大半だった.しかし,小惑星の断面形状を求めるには,もっと多くの地点での観測成功が必要である. 1991年01月13日に起こった小惑星(381)ミルラによるふたご座 γ 星(1.9等)の掩蔽は,当時としては史上最輝の 2 等星が隠される現象(後にレグルスの掩蔽が観測されて記録は更新された)が日曜の夜9時に東京や横浜などの首都圏で観測されたことから,肉眼や眼視,写真,ビデオ,光電管による観測を含む約 30 ヶ所で観測され,日本で最初の本格的な観測成功例となった.この現象の観測結果から,小惑星の形が楕円形をしていることや,分光連星として知られていたふたご座 γ 星の 7.5 等級の伴星が初めて直接的に観測された[4].この観測成功をきっかけとして,日本では筆者による多数の現象の予報計算が始められ,本格的な小惑星の掩蔽観測の時代に突入していった.

1997年以降,位置天文衛星ヒッパルコスの観測による高精度の星表の完成と,アメリカ海軍天文台の CCD 子午環による恒星と小惑星の高精度な位置観測により,掩蔽の予報精度は大きく向上した.現在では,ものによっては小惑星の大きさと同程度あるいはそれ以上の予報精度にまで向上し,現象や天候の条件さえ良ければ,多くの地点で現象が観測されるようになっている.現在,世界では約 2000 回,日本でも約 200 回の現象が観測されている.しかし,対象の多くは直径数十 km 以上のメインベルトの大きな小惑星である.現在の予報精度では,直径 10 km 以下の小さな小惑星や彗星に対しては,予報精度と観測者の分布密度の両面の理由から,なかなか観測は成功していない.

小惑星に探査機が飛ぶ前の時代,この掩蔽現象は,小惑星の大きさを直接測定できる重要な方法で,IRAS の赤外放射観測によって多くの小惑星の大きさが熱的に測定された時も,その熱モデルの校正として掩蔽の観測結果が利用された[5,6].現在,探査機によっていくつかの小惑星(ガスプラ,イダ,マティルド,エロス,イトカワ,シュテインス,ルテティア,ベスタ)の大きさが直接測定されているが,それらはメインベルトより内側の小さな小惑星が大半であり,ベスタとルテティア以外は,多くの掩蔽現象が観測されている大きなサイズの小惑星ではない.探査機によって既に直接観測された小惑星による掩蔽現象が観測されても,そこから得られる新たな知見は少ないので,掩蔽観測はまだ探査機の行っていない天体に対して有効な手段である.
 

2. トロヤ群小惑星による恒星の掩蔽観測

トロヤ群小惑星は,木星軌道上の,木星と太陽と正三角形をなすラグランジュ点の周辺にある天体である.ラグランジュ点は,制限 3 体問題の安定解で,木星の前方 60゚ にある点を L 4,後方 60゚ にある点を L 5 と言う.18世紀にラグランジュが制限 3 体問題の特殊解として正三角形解を発見した当時は,トロヤ群小惑星は発見されていなかったので,ラグランジュ解は数学上の産物としか考えられていなかったが,1906年に最初のトロヤ群小惑星(588)アキレスが発見されると,ラグランジュ解は,にわかに注目されるようになった.

トロヤ群小惑星は,このラグランジュ点の周りにあるゼロ速度曲面(木星を固定した回転座標系で見て,速度が 0 になる点の包絡面)の内側領域を秤動(ひょうどう)し,木星に接近することはない.エネルギーが保存されている制限3 体問題では,この領域に外部から天体が入り込んでも,いずれ出て行くことになるので,現実のトロヤ群小惑星は,ガス抵抗や小惑星同士の衝突や他天体の摂動などの非保存なメカニズムによって,この領域内に捕らえられたと考えられる.

そのようなメカニズムによってトロヤ群小惑星の起源を説明するシナリオとしては,ニースモデルが最近注目されている[7].それによれば,今より内側の軌道にあった土星が,付近の微惑星に摂動を与えて内側の軌道に落としていった反作用で外側の軌道に移動し,その途中で木星との 2 : 1 の不安定共鳴を通過する際に軌道離心率が大きくなる.その際に海王星は土星に接近して外側の軌道に飛ばされ,木星トロヤ群の領域は不安定になって,この領域での微惑星の出入りが激しく起こる.このような出来事によって,太陽系ができて約 7 億年後に起こったとされる後期重爆撃期仮説をうまく説明できる.土星が 2 : 1 の不安定共鳴から外れると,トロヤ群領域は再び安定化し,その時にトロヤ群領域内にあった微惑星が捕らえられて現在に至ったというのである.このモデルでは,現在のトロヤ群の総数や軌道傾斜角の分布を見事に説明できるという.だが,このようなシナリオが実際に起こったかどうかは,今後のトロヤ群小惑星の観測的研究によって検証される必要がある.トロヤ群小惑星の研究によって,太陽系誕生の謎に迫ることができるわけである.

パリザの提案により,トロヤ群小惑星には,ギリシャ神話のトロヤ戦争に関係した人物の名前がつけられるようになった.トロヤ戦争とは,ホメロスの叙事詩「イリアス」に記述されたギリシャとトロイの戦争で,シュリーマンらによるトルコのトロイ遺跡の発掘により,紀元前1200年ごろに起こった歴史的史実と判明したもので,2004 年に「Troy」として映画化された.木星の前方にある L 4 にはギリシャ側,後方にある L 5 にはトロイ側の人物の名前がつけられる慣習になっているが,L 5 の(617)パトロクルスと L 4 の(624)ヘクトルは,パリザの提案の前に命名されたために,例外となっている.

これらのトロヤ群を含む木星軌道より外側にある天体による掩蔽の観測は,遠いために予報精度上とても難しく,大きなガリレオ衛星や土星の衛星ティタン,(2060)キロン,(134340)冥王星による恒星の掩蔽観測がやっと成功する程度だった.現在でも難度が高い.
 

そんな中,1997年11月07日,トロヤ群小惑星によるものとしては世界初となる(1437)ティオメデス(L4)による HIP014402A(7.4 等)の掩蔽が東日本の 7 ヶ所(北原勇次,大國富丸,大槻功,小島卓雄,松葉佐陽子,上原貞治,佐藤勲)で観測され,(180 ± 28 km)x(96 ± 5km)の細長い断面形状が得られた(図 1).その後の国立天文台三鷹の 50 cm 反射とチェコのオンドジェヨフでの追跡測光観測によって,ディオメデスの光度曲線が得られ,自転周期が 24 時間 29.6 ± 0.7 分であることなどがわかった(図 2).この掩蔽と測光観測の結果から,小惑星の自転軸の方向や立体形状についての強い制限が得られ,(284 ± 61 km)×(126 ± 35 km)x(65 ± 24 km)の3 軸不等楕円体モデルが得られた[8].図 3 において,ディオメデスの自転軸の方向は,黄経 275 ゚,黄緯 +34 ゚ (左上のへびつかい座) 付近に最も確率の高い領域があることがわかる.掩蔽観測と測光観測の組み合わせによる制限は,一般に測光観測だけによるエポック法やライトカーブインバージョン法よりも強い制限となる.
 

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図 1. 1997年11月07日 L 4 トロヤ群小惑星(1437)ディオメデスによる HIP014402A の掩蔽の観測結果.国内の 7 ヶ所で現象の観測に成功した.縦軸,横軸の目盛りは 10 km 間隔,各観測地点における恒星の軌跡の時間間隔は1秒.立体形状は,測光観測との組み合わせから最も可能性の高い推定形状で,当てはめられた楕円は,(180 ± 28 km)×(96 ± 5 km).
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図 2. 1997年11月 三鷹(右側)とチェコのオンドジェヨフ(左側)でのトロヤ群小惑星(1437)ディオメデスの測光観測結果.縦軸は V 等級,横軸は極小からの自転位相角.自転周期は 24 時間 29.6 ± 0.7 分,当てはめられた正弦曲線の変光幅は 0.64 等級.三鷹での測光精度は,空の状態の悪さのために,オンドジェヨフの観測に比べてあまりよくない.
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図 3. L 4 トロヤ群小惑星(1437)ディオメデスの自転軸方向の確率分布.1997年11月07日の掩蔽の観測結果と,その時の測光観測および1988年の測光観測の結果を組み合わせて得られたもの.黄道座標で表されている.中央の正弦曲線は天の赤道を表し,主な恒星がプロットされている.黄経 275゚,黄緯 +34゚( 左上のへびつかい座) 付近に最も確率の高い領域がある.
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その後,日本では,2007年05月13日に L5 トロヤ群小惑星(1867)デイフォブスによる HIP053416(8.5 等)の掩蔽が 7 ヶ所(石田正行,田中利彦,田名瀬良一,内山雅之,渡部勇人,伊藤敏彦,ハートピア安八天文台)で観測され,(147 ± 15 km)×(110 ±6 km)の断面形状が得られた(図 4).

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図 4. 2007年05月13日 L5 トロヤ群小惑星(1867)デイフォブスによる HIP053416 の掩蔽の観測結果.国内の 7 ヶ所で現象が観測された.縦軸,横軸の目盛りは 10 km 単位.各観測点における恒星の軌跡の目盛りの時間間隔は 1 秒.当てはめられた楕円は,(147 ± 15 km)×(110 ± 6 km).
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これまでに世界で観測されたトロヤ群小惑星による恒星の掩蔽は 12 回あるが,そのうち 3 回が日本で観測され,延べ 29 地点での観測成功のうち半数以上の 16 地点での観測を日本が占めている(表 1).日本は,トロヤ群小惑星による恒星の掩蔽観測で,世界のトップを走っているのである.
 

表 1. これまでに観測されたトロヤ群小惑星による恒星の掩蔽.

年月日 小惑星 L4 / L5 観測地点数 観測地
1997. 11. 07 (1437)Diomedes L4 7 日本
2001. 03. 21 (911)Agamemnon L4 2 アメリカ
2001. 04. 25 (2920)Automedon L4 1 ニュージーランド
2004. 05. 06 (911)Agamemnon L4 2 ニュージーランド
2005. 01. 28 (617)Patroclus L5 1 アメリカ
2005. 09. 29 (23135)2000 AN146 L4 1 フランス
2007. 05. 13 (1867)Deiphobus L5 7 日本
2008. 01. 24 (624)Hektor L4 2 日本
2010. 06. 01 (1867)Deiphobus L5 1 アメリカ
2010. 08. 17 (3317)Paris L5 2 オーストラリア
2010. 10. 30 (624)Hektor L4 1 アメリカ
2011. 04. 17 (1538)Antilochus L4 2 アメリカ

 

3. トロヤ群ミッションへ向けて

日本では,木星に接近した後に L4 のトロヤ群小惑星を探査するミッションが計画されているが,その探査候補天体の一つとして(624)ヘクトルが挙げられた.ヘクトルについては,既に 40 年以上前の1960年代にダンラップらによって測光観測が行われ,円筒状の形状をしているのではないかというモデルが出されていた[9].

1993年には,ハッブル宇宙望遠鏡によってヘクトルの観測が行われ,370 x 190 x 190 km というサイズが得られたが,分解能が足りなかったために,接触連星か分離連星かはわからなかった[10].

2006年07月には,ハワイのケック望遠鏡の補償光学を使ってイメージング観測が行われ,L4 トロヤ群小惑星としては初の直径約 15 km の衛星が発見され,本体が接触連星であるらしいことなどがわかった.衛星の公転周期は,3.61 ± 0.09 日,軌道長半径は 1178 ± 4 km とわかった[11].衛星を持つトロヤ群小惑星としては,ハップル宇宙望遠鏡による観測から L5 の(617)パトロクルスの衛星メノエティウスが2001年に発見されているほか,表 2 のような結果が得られている.衛星が発見されると,ケプラーの第三法則を使って系の総質量がわかるので,本体の大きさがわかれば密度が推定できる.密度は,その天体の組成や成因を探る上で重要なパラメーターである.従って,衛星が発見された小惑星本体の正確な大きさを知ることは,とても重要な意義を持つ.掩蔽観測によって衛星が検出され,本体と衛星の大きさがわかった例としては,2006年11月07日に日本で観測された(22)カリオペとその衛星リヌスによる掩蔽があり,相互食の観測との組み合わせから,その形や大きさ,密度がわかった[14].
 

表 2. これまでに発見されたトロヤ群小惑星の衛星.

小惑星名 L4 / L5 本体の大きさ 衛星の大きさ 公転周期 出典
(617)Patroclus L5 121.8 ± 3.2 km 112.6 ± 3.2 km 4.283日 [12]
(624)Hektor L4 363 x 207 km 15 km 50時間 [11]
(17365)1978 VF11 L5 92 km 77 km 12.672時間 [13]
(29314)1994 CR18 L5 32 km 24 km 15.035時間 [13]

 

2008年01月24日,関東の 2 ヶ所(富岡啓行,上原貞治)で(624)ヘクトルによる TYC057700887(10.1 等)の掩蔽が観測された.このうち一ヶ所では,2 回の減光が捕らえられ,整約の結果,ヘクトル本体が非対称な2 成分の接触連星であると仮定するとうまく説明できることがわかった(図 5).この観測の後,福島県郡山市の浜野和天文台で追跡測光観測が行われ,図 6 に示すように,自転周期 6.92 時間で,接触連星に特徴的なV 字型の極小と非対称な形の光度曲線が得られ,ヘクトル本体は非対称な 2 成分からなる接触連星であるというモデルを支持する結果となった.
 

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図 5. 2008年01月24日 トロヤ群小惑星(624)ヘクトルによる TYC057700887 の掩蔽の観測結果.縦軸と横軸の目盛り間隔は 10 km,各観測地点における恒星の経路の目盛りの時間間隔は 1 秒.潜入・出現を示す黒丸に付随する太線は,測定時刻の誤差を表す.上側の富岡啓行氏はビデオ観測,下側の上原貞治氏は眼視観測である.上原氏の地点では恒星が 2 回減光した.ヘクトル本体が非対称な2成分の接触連星であることが示唆される.
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図 6. 2007年12月29日~ 2008年01月17日の浜野和天文台(福島県郡山市)でのトロヤ群小惑星(624)ヘクトルの測光観測結果.縦軸は R バンドでの相対光度,横軸は自転位相.自転周期は 6.92 時間.接触連星に特徴的な V 字型に切れ込んだ極小が見られる.
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ヘクトルには,衛星がある.探査機による直接探査に当たっては,予め本体の形状だけでなく,衛星の軌道や大きさに関する情報も十分に得ておく必要がある.すばる望遠鏡の AO イメージング観測によって,本体の形状や衛星の軌道に関する詳しい情報が得られることが望まれる.

ヘクトルによる恒星の掩蔽は,今後は2012年04月18日にふたご座の11 等星の掩蔽が西日本方面で起こることが予報されている(図 7).現象が起これば,最長 11 秒間にわたって 4.0 等級の減光が起こると予報されている.ヘクトル本体がどんな形をしているのかを明らかにする重要なチャンスであるが,ヘクトルにある直径 15 km の衛星の掩蔽帯は,軌道が詳しくわかっていないために示されていない.軌道長半径が約 1200 km あるため,全国で衛星による掩蔽が捕らえられる可能性がある.かつては,この明るさの恒星の掩蔽観測は,大口径望遠鏡でないと難しかったが,現在は高感度の CCD カメラが普及したために,アマチュアの機材でも観測できるようになっている.そして現在では,これ以外のトロヤ群小惑星による恒星の掩蔽も多数予報され,その予報精度も格段に良くなってきている.筆者による予報は,[15] に随時掲載されている.
 

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図 7. 2012年04月18日 L 4 トロヤ群小惑星(624)ヘクトルによるふたご座の 11 等星の掩蔽の予報図.中央の 3 本実線は,予報掩蔽帯の北限界線,中心線,南限界線,その両脇の 3 本の破線は,限界線から誤差の ± 1 σ~± 3 σ のラインを表す.図左側の破線は,日没薄明線を表す.上部には,現象の起こる日時(日本時間),隠す小惑星の光度,大きさ,移動速度,地心距離,太陽と月からの離角,隠される恒星の位置や光度,減光の継続時間や等級,掩蔽の起こる確率などが示されている.小惑星の影は,21h35m ごろ,推定直径 181 km の幅で日本海から太平洋に向かって西日本を通過し,現象が起これば最長 11 秒間にわたって,11.0 等から 15.0 等まで 4.0 等級の減光が起こる.ヘクトルには,本体のほかに直径 15 km の衛星があり,その掩蔽帯は示されていないが,軌道半径が約 1200 km であるため,全国が可能性圏内にある.
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掩蔽の観測の方法は,例えば WATEC 社製の高感度 CCD ビデオカメラを赤道儀式望遠鏡の直焦点に取り付け,通常のビデオレートまたは数フレーム蓄積モードで撮影する方法が一般的である.恒星が暗くてビデオに映らない場合は,望遠鏡を固定して,CCD カメラの流し撮りで撮影する方法もある.時刻同期は,市販の GPS 時計をビデオに同期する方法や,短波ラジオや NTT の時報を同時録音する方法がある.フレネル回折により,恒星は瞬間的に消えたり出現したりすることはなく,通常は数フレームかかるので,時刻の精度は,0.1 秒程度あれば十分である.一ヶ所で高精度で観測することよりも,多くの地点で観測することの方が,全体としての観測精度の向上のためには重要である.より詳しいやり方については,[16] などを参照のこと.
 

小惑星による恒星の掩蔽観測では,隠される恒星が 2 重星であることや,小惑星の衛星が検出されることがあり,日本でもこれまでにいくつかの実例がある[4,8].掩蔽観測では,分解能などの点で,すばる望遠鏡などの大口径望遠鏡による観測よりも高精度な観測結果が得られる可能性がある.是非,多くの観測が得られ,トロヤ群小惑星の形状の解明が進むことを期待したい.
 

参考文献

[1] Bellerose, J. and Yano, H., 2009, Proc. ISTS (JSASS), 2009-k-48.
[2] Taylor, G. E., 1962, Observatory 926, 17.
[3] O’Lealy, B. et al., 1976, ICARUS 28, 133.
[4] Sato, I. et al., 1993, Astron. J. 105(4), 1553.
[5] Harris, A., 1998, ICARUS 131, 291.
[6] Tedesco, E. et al., 2002, Astron. J. 123, 1056.
[7] Morbidelli, A. et al., 2005, Nature 435, 466.
[8] Sato, I. et al., 2000, ICARUS 145, 25.
[9] Dunlap, J. L. and Gehrels, T., 1969, Astron. J. 74(6), 796.
[10] Storrs, A. et al., 1999, ICARUS 137, 260.
[11] Marchis, F. et al., 2006, IAUC 8732.
[12] Merline, W. J. et al., 2001, IAUC 7741.
[13] Rita, K. et al., 2007, Astron. J. 134, 1133.
[14] Decamps, P. et al., 2008, ICARUS 196, 578.
[15] http://www.toybox.gr.jp/mp366/
[16] 広瀬敏夫(監修),相馬充(編集),2009,天体観測の教科書「星食・月食・日食観測編」(誠文堂新光社).
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Web edited : A. IMOTO TPSJ Editorial Office