The Planetary Society of Japan

次世代太陽系探査

衛星エンセラダスと宇宙物質科学

Updated : October 09, 2016 - 木星・土星圏のサイエンス

化学同人「アストロバイオロジー」(2013)19章

高野淑識 1,関根康人 2.
1. JAMSTEC 海洋研究開発機構, 2. 東京大学大学院新領域創成科学研究科.
 

序章

土星の第 2 衛星であるエンセラダス(Enceladus)は、宇宙物質科学の観点から興味深い対象である。その特筆すべき魅力は、「定常的なエネルギー、水、有機物」という極めて重要な物質進化的要素が揃っている点である。また、衛星の内部構造形成論の観点からも議論が尽きない。氷地殻の下には、液体の水、すなわち、「海の存在」が強く示唆されている。ホットスポットから噴出しているジェットプルームは、ナトリウム塩やケイ酸塩のみならず、種々の有機物を含んでいる。エンセラダスは、新しく深宇宙探査の時代を迎えようとする我々人類にサンプルアクセスの好機を提供している、と表現することもできる。本章では、エンセラダス内部に秘められた地質学的特徴について概説し、海水のプルームが意味するもの、そして、次世代の宇宙物質科学が目指す展望の一つを述べる。
 

1. 土星の衛星エンセラダスとその氷地殻

土星の氷衛星エンセラダスは、直径 504 km、平均密度 1.61 g cm -3 である。この氷衛星の密度は、彗星の物質密度(約 0.5 g cm -3 程度)より大きく、小惑星サンプルリターン「はやぶさ」の対象となった Itokawa(asteroid 25143 : 1.9 ± 0.13 g cm -3  1) のそれより、小さいということになる。観測された密度と質量から、エンセラダスのおよそ 60 % は岩石成分、残りの 40 % は氷成分で構成されると考えられている 2) 。太陽系元素存在度から予想される土星系の平均的な微惑星の岩石の割合(およそ 30-40 %)よりも顕著に岩石に富んでいる。エンセラダスは、氷地殻、つまり氷殻で覆われている。エンセラダスの地表面は、南北でクレーター密度が異なっている。北半球のクレーター密度は高く、約 40 億年前に形成された古い氷地殻が保存されている。一方、南半球にはクレーターは少なく、約 1 億年~数 10 万年前に形成した非常に若い氷地殻で構成されている。このような極端な地質的南北非対称が存在するのもエンセラダスの大きな特徴である。

南半球の表面年代が若いということは、この地域における地質活動が活発であることを意味している。実際、南極付近には虎縞模様(Tiger stripes)と呼ばれる複数のリッジ(尾根、稜線)が見られる(図 1)。このリッジは、約 130 km に渡って並行して伸びており、平均的な地表面温度(約マイナス 200 ℃)に比べると、リッジ周辺の温度は約マイナス 90 ℃ と周囲に比べて 100 ℃ 以上も暖かい。では、このような地質活動の駆動エネルギーは、何に起因するのだろうか。それを解くヒントは、この衛星の氷地殻の下、衛星内部にある。
 

図 1 (a):土星の衛星エンセラダスの概観と南極付近の虎縞模様と温度(PIA09037: 文献(13)を一部改変)、右上は温度分布、右下は虎縞模様の拡大写真。

 

図 1 (b) : リッジに沿う高温域(-93℃)の分布図、白い部分が高温域。
図 1 (c) : ジェットプルームのスポット(o)とリッジの名称(PIA 07800, PIA 10361, PIA 08385)

 

2. 海水のプルームは、何を意味するか

近年、探査機カッシーニの調査により、前述のリッジ付近から噴出するプルーム(噴泉、ガイザーとも呼ばれる)が発見された。このような場所からは、約 60 W m -2 もの熱量が湧出しており、現在、Damascus と Baghdad と呼ばれるリッジ内にある噴出孔周辺が最も活動的である。この熱エネルギー流量は、太陽から土星系が受けるエネルギー流量よりも約 4 倍大きく、何か別のエネルギー源が必要である(図 2)。エンセラダスは土星の周りを公転する間に、外側を周る氷衛星ダイオーネとエンセラダス、そして土星が周期的に直線状に並ぶ。その際、エンセラダスは土星とダイオーネの重力によって両側に引き延ばされる。エンセラダスの氷地殻の下に、物理的な流動性をもつ液体の海が存在すれば、土星とダイオーネによる重力的な引き延ばしの際に大きく変形し、これにより内部が加熱されることになる(潮汐加熱)。このような潮汐加熱が、エンセラダスでは大きなエネルギー源となっている可能性が高い。この氷衛星内部に、いつどのように内部海が形成され、どのくらい長く維持されているのかといった謎は、プルーム活動の機構を考える上で重要である。これは、惑星科学者あるいは天文学者にとって今後解明すべき、重要な課題の一つになるだろう。
 

図 2 : 太陽からの距離(AU : Astronomical Unit)と太陽輻射によるエネルギー流量(W m -2 )の関係。虎縞部分のエネルギー流量は、太陽からの距離の関数で与えられる太陽輻射エネルギーでは説明できない。

 

図 3 に、エンセラダス外部へ噴出するプルームの画像を示す。プルームを構成するのは主に水蒸気と氷粒子であり、質量としては水蒸気が圧倒的に多い。ホットスポットから噴出した氷粒子の一部は、エンセラダスの脱出速度を超えて、土星の E - リングを構成する氷粒子になると考えられている。E - リングに存在している氷粒子密度と、噴出している粒子量から、現在おきているプルーム活動は、少なくとも約 300 年継続しているという推定もある 3) 。2005年には、カッシーニに搭載された質量分析計(INMS : Ion and Neutral Mass Spectrometer)を用いて、プルーム中での水以外の有機化合物の検出に成功している 4,5) 。これまで確認された化合物は、ナトリウム塩のほか、二酸化炭素、メタン、アンモニア、アルコール、エタン、アセチレンを含むガス成分や、炭素数 6 程度までの有機物を含むことが判明している(図 4) 5,6,7) 。プルーム中にナトリウム塩が含まれるという観測結果は、氷地殻下には液体の水が存在し、水-鉱物相互作用によって鉱物中に含まれるナトリウムが水に溶解する反応が進行していることを強く示唆する。土星の E - リング軌道上には、エンセラダスのプルーム由来の塩化物や炭酸塩鉱物、ケイ酸塩鉱物、種々の有機化合物が微細な氷粒子と共に凝結して存在している可能性が高い。今後のエンセラダス探査では、さらに大きい高分子有機物の分子組成の同定が望まれる。
 

図 3 左(a) : エンセラダスのジェットプルーム、 右(b)、プルームの密度勾配を示すカラーイメージ(文献 2) を一部改変)

 

図 3 (c) : エンセラダスと土星のEリングの軌道(PIA 07758, PIA 07759, PIA 08321)

 

図 4 : 探査機カッシーニに搭載された質量分析計(INMS)によるエンセラダスのプルーム内飛行による計測結果と現時点で同定されている主な化学種リスト(文献 5) を一部改変)

 

3. 新しいサンプルアクセスの時代へ?エンセラダス探査の展望

エンセラダスのプルームの発見は、氷衛星の「海洋」とその物質科学の理解を進める上で、大きなブレイクスルーといえる。この発見が契機となり、欧米には、衛星エンセラダスのプルーム調査に向けたミッション提案の胎動がある 8,9) 。一方、日本でも、新しい宇宙惑星科学のマイルストーンとして、地球圏外での無機的な物質から有機的な物質が発生しようとしているエンセラダス・ホットスポットへのアクセス、サンプリング、モデリングの機運が高まっている。エンセラダスから噴出する海水プルームを詳しく調べようとする場合、小惑星「はやぶさ」サンプルリターンの成功で示された日本の宇宙探査技術や分析技術、あるいは、彗星塵「スターダスト」サンプルリターン等でのエアロゲル捕獲技術等 10,11) が、深宇宙探査の時代の幕開けに必要不可欠である。様々な可能性を考慮し、検疫システムの議論 12) も今後構築されていくだろう。

エンセラダス氷床下で現在進行形の「定常的なエネルギー、液体の水、有機物」がそろった物質進化のフラスコは、我々人類にとって非常に限られたサンプルアクセスの場所であり、天然の宇宙物質科学の実験室でもある。
 

用語解説

プルーム
プルーム(plume)とは,ある場所から噴き出した,あるいは,対流する一連の物質の流れのことをいう.その流れの本体は,周囲の物理・化学的な特徴とは異なる.地球上でみられる代表的な例は,火成活動にともなう,海底の熱水プルームや陸上温泉の水蒸気プルーム等である. プリュームと表記される場合もある.

潮汐加熱
潮汐加熱(tidal heating)とは,衛星の軌道が円からずれている場合に母惑星が衛星に及ぼす潮汐力が変化することで,衛星自身があたかも弾性のあるゴムボールのように,周期的に揉まれて加熱される作用のことをいう.衛星の軌道とその力学的性質は,衛星の潮汐加熱に起因する地質活動に対して重要な役割をもっている.
 

参考文献

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[2] Porco, C., Helfenstein, P., Thomas, P., Ingersoll, A., Wisdom, J., West, R., Neukum, G., Denk, T., Wagner, R., Roatsch, T. (2006) Cassini observes the active south pole of Enceladus. Science, 311, 1393-1400.
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さらに詳しく知りたいかたは、
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[15] 宮本英昭, 橘省吾, 平田成, 杉田精司, 『惑星地質学』, 東京大学出版会 (2008).
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[17] Takano, Y., Yano, H., Sekine, Y., Funase, R., Takai, K., (2014) Planetary protection on international waters: An onboard protocol for capsule retrieval and biosafety control in sample return mission. Advances in Space Research, 53, 1135-1142.

 

 

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