「はやぶさ2」リュウグウへのタッチダウン成功現場レポート
April 18, 2021 Modified

元稿 - March 09, 2019 日大理工学部ニュース



阿部新助

日本大学理工学部航空宇宙工学科宇宙科学研究室准教授、TPSJ 理事

 



リュウグウとの距離を測るレーザー高度計「ライダー LIDAR」のサイエンス側のタッチダウン運用を JAXA の運用室で行っていた、航空宇宙工学科 宇宙科学研究室の阿部新助准教授の「はやぶさ2」リュウグウ タッチダウン成功の現場レポートが届きました!
 

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日大航空宇宙工学科阿部新助准教授の心揺さぶる現場レポート

2019年(平成31年:以下全て日本時間(およその時間)で示す。これらの時刻は地上局で電波を受信した時刻であるが、地球と小惑星リュウグウの距離は約 3 億 4 千万 km あり、光(電波)の速さで片道 19 分の距離であるため、実際に探査機・小惑星でイベントが起きた時刻は、19 分前になる。)レーザー高度計 LIDAR(LIght Detection And Ranging)のサイエンス側のタッチダウン運用のため、前夜から運用室に篭った。予定より約 5 時間遅れの降下開始となったが、当初予定の秒速 40 cm の降下速度から秒速 90 cm まで増速したことで、高度 5000 m 付近で計画軌道に追いつき降下速度を秒速 10 cm に減速。また、カリフォルニア・モハベ砂漠にある NASA/JPL のゴールドストーン深宇宙通信アンテナ局では、極めて珍しい(10 年振りの?)雪が降り通信速度が落ちていたが、通常の直径 34 m アンテナに加え、直径 70 m アンテナも使えたため地球からのコマンドが探査機に届いた。不幸中の幸いであった。

午前06時40分過ぎに高度 300 m に到達し、LIDAR が遠距離モードから完全に近距離モードに切り替わり一安心(ここで近距離モードに切り替わり測距に十分なシグナルが得られないとアボート=降下中止になる)。

07時15分頃には直下点高度 100 m に到達し、順調に降下を続ける。

07時26分に高度 45 m に到達し、姿勢変更により高速データ通信用の指向性の高いハイゲインアンテナ(HGA)が地球方向から外れるため、指向性の広いローゲインアンテナ(LGA)に切り替わった。もはや情報が乗っていない、か細いビーコン電波でのみしか地球と繋がっていない。管制室の巨大スクリーンに映し出されるビーコン電波のドップラー変位と JAXA 臼田アンテナからのシグナル変動が、まるで心電図のように、探査機「はやぶさ2」が3.4億km彼方で生きている証拠を伝えてくれた。小惑星の自転により徐々にターゲットマーカーが探査機の広角航法カメラ ONC-W1 の視野に入って来るはず。「はやぶさ」初号機で実績のある小天体表面の特徴点を計測し自律6自由度制御て?航法誘導を行う GCP-NAV(Ground Control Point NAVigation)で、表面に投下されている 18 万人の名前が刻まれたターゲットマーカーにフラッシュライトを浴びせながら小惑星表面へと導かれて行く。もやは地球から光の速さで指令を送っても、タッチダウン・イベントが進む小惑星時間には追いつけない。レーザー高度計も LIDAR から 4 本ビームの近距離高度計 LRF に切り替わった。

07時38分、高度 8.5 m でホバリング体制に入った。ここから獲物を狙うハヤブサのごとく、探査機自身がカルマンフィルターを駆使してターゲット地点上空をホバリングする。管制室は静まり返り、誰もが巨大スクリーンに映し出される時間と共に変化する視線方向速度が分かるドップラー変位グラフの上下変化に注視する。

07時46分、ドップラーが上(プラス側; 地球から離れる側)に振れ始める。探査機が地球から離れる方向、「はやぶさ2」がリュウグウ表面の着地地点を自ら捉えて、躊躇なく降下を開始したことを示した。

「よし行った!」誰かが叫ぶ。探査機「はやぶさ2」は、高度 8.5 m からの最終降下を開始。一部歓声が上がったが、まだタッチダウンではない。そして、ドップラー変位が止まった。リュウグウ表面にタッチしたのか!? 管制室の誰もが息を飲む瞬間だった。次の瞬間、ドップラー変位が下(マイナス側; 地球に近づく側)に大きく振れた。上昇に転じたのだ。

07時48分(小惑星時刻 07時29分10秒)。小惑星リュウグウにタッチダウンした!!
管制室内が大きな拍手と歓喜に包まれた。2005年11月26日午前07時07分、初号機「はやぶさ」が小惑星イトカワにタッチダウンしてから 13 年 3 ケ月振りに人類は再び、それも同じ日本の宇宙探査船シリーズによって小惑星の表面に降り立った瞬間だった。二つの歴史的瞬間に現場で立ち会えた小職は、なんと幸運なんだろう。
タッチダウンの 20 分後には、探査機のハイゲインアンテナが地球を向き、タッチダウン直後のデータが送られてきた。サンプラーホーンに取り付けられた温度センサーは、タッチダウン時刻から熱伝導の遅れを表す温度上昇を示しており、弾丸を発射した際の爆薬点火の確実な証拠となった。タッチダウン前後に撮影された画像が届くと、驚愕の様子が写り込んでいた。「はやぶさ」初号機も撮影したが、タッチダウン後に姿勢を崩して電力を失い、メモリがリセットされて地球に送信できなかった待ち焦がれた画像の数々。「はやぶさ2」が初号機のリベンジを果たしてくれた最高のタッチダウン記念日となった。このタッチダウンの後に、研究室の大学院生が「はやぶさ2」サイエンスチームメンバーに正式承認された。次回のメインイベント(SCI インパクターによる、クレーター形成実験)や、二回目タッチダウンには是非参加してもらい、リュウグウからもたらされるデータ解析を進めて、新たな知見を得て行ければと思う。

阿部新助
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Web edited : A. IMOTO TPSJ Editorial Office