「はやぶさ2探査機」の地球スイングバイ観測について
April 20, 2021 Modified

TPSJ 寄稿 : December 06, 2015



井本昭

TPSJ 日本惑星協会

 



2014年12月03日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査プロジェクトとして種子島から打ち上げられた「はやぶさ2探査機」は、365日後の2015年12月03日に地球スイングバイに臨んだ。

ここにその経緯を簡単ではあるが記しておく。
 

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公開天文台、一般観測者向け支援によって得られた撮像地点データを、星図にプロットしてみました。ご協力頂いた皆様にはとても感謝を致しております。ありがとうございました。(画像作成:JAXA はやぶさ2プロジェクト)
 

2015年09月に実施されたイオンエンジンによる軌道制御を経て、11月には化学エンジンによる軌道の微修正(TCM:Trajectory Correction Maneuver)を二度行い、残る一度の修正マヌーバの実施を省き地球スイングバイに臨んだ。発表は現時点では未だ行われていないが、完璧なスイングバイであったことは、関係者から伝わる意見が高評価であることから確実だろう。

スイングバイの詳細は省くが、10月14日、JAXA が開いたスイングバイ記者説明の際、「教育・アウトリーチ活動等利用」のための「はやぶさ2探査機」スイングバイ軌道データ提供が示され、公開天文台協会(JAPOS)による公開施設観測キャンペーンが催されることとなった。

35 施設の参加によるスイングバイ観測は、悪天候にも関わらず多くの観測成果を上げることとなり、今後行われる同様の地上観測において貴重な経験を積むことが出来たことは、支援活動を行った我々だけでなく、参加施設、個人も併せて大きなスキルを得たことになる。さらにこの経験のなかで、各天文台施設における公開された広範なネットワークの構築・運用が円滑に行われ、今後同様な機会において有効な前例を示せたことは意義深い。

一方、当日本惑星協会(TPSJ)では、07月21日設立宣言直後からスイングバイ観測イベント企画を検討していたが、はやぶさ2プロジェクト側から広く一般への観測データ支援を TPSJ で行ってはどうかとの打診をいただき、10月25日、推進事務局はこれを受諾し、観測キャンペーンに臨むことになった。

10月26日より11月06日を締め切りとして一般募集を開始し、観測のための注意・参考情報を JAPOS や科学センター、天文台有志などから提供頂き、11月26日から三日間行った追加募集と合わせて 46 の観測地点を数えるに至った。また、公開天文台協会企画であり、TPSJ としては相乗りのような形で取り組みに加わったにも拘わらず、公開天文台、またその周囲の関係者のご好意で共同キャンペーンとして活動に臨めたのは大変ありがたく心強い限りであった。
 

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富士ヶ嶺高原の天候は当初思ったほど良くはなく薄明時には雲に覆われ観測が危ぶまれる状況でしたが、通過時刻にはきれいに晴れ上がり、現地で合流した方々ともども大変満足する結果となりました。撮影には赤道儀に載せた天体望遠鏡と、カメラレンズを使用しました。帰宅後に撮影画像を検分したところ、18:32からかすかに軌跡のようなものが写っているのがわかりました。
撮影者 : 田中憲明
 

TCM2 後に一般観測者に渡された探査機位置データが実際の観測結果との照合でほぼ完全に一致し、 JAXA の軌道計算精度の高さを広く一般に認知されたことは今後の太陽系探査への支持・関心を大きく高めることの一助になったのは間違いなく、TPSJ としても惑星探査推進を掲げる大儀の一つにもなったと感じる。

また、TPSJ が目指す太陽系科学・探査の「市民活動化」という目的のために、探査機の運用を通じて広く一般から理解を得るための JAXA 以外の団体が行える一つの良好な手段であることを学んだ。観測結果をサイエンスデータとして活用するというのは現在の TPSJ においては主業務ではないが、広く一般からご報告頂いた観測の成果を天文観測サイドにお渡しし、そうしたなかから観測技術の精度の向上等などを以って天文観測の重要性を広く一般に認識頂ければ、一つの貢献として位置付けて頂けるのではないかと期待している。

メディア報道等には出ないが、SNS や口コミ等で今回の観測データ提供支援の存在を広く拡散してくださった TPSJ カウンシルメンバー、小天体探査フォーラム会員、さらには日本が行う太陽系探査を応援しておられる方々のご協力無しには今回の一般向け支援はここまで広く執り行えなかったのではないか、というのが「正直な実感」として今は残っている。
 

井本昭
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Web edited : A. IMOTO TPSJ Editorial Office