Asteroid Day、PDC から、小惑星リュウグウ・ベンヌへの宣言

September 12, 2023 Modified

The day of deep impact will definitely come!



JAXA はやぶさ2探査機がサンプリングを行った小惑星リュウグウや、NASA OSIRIS-REx(オシリス、オサイリス・レックス)探査機がランデブーミッションを行った小惑星ベンヌなどは、私たちの地球にとって潜在的に危険な小惑星(Potentially Hazardous Asteroid, PHA)として多角的な監視・研究が行われています。

リュウグウは、わが国がその任を受け持ち、科学探査が中心ながら軌道要素の解析なども行われました。ベンヌにおいては、NASA としては探査計画立案当初からベンヌ軌道の今後の変化について調べることをミッション項目に組み入れており、実施しました。

他の天体で起こる危険な接近であれば、「世紀の天文ショー」などと興奮できるのですが、こと地球への異常な接近となれば、僅か?数千万年前の恐竜絶滅などを思い起こしてしまいませんか?
 

Asteroid Day の承認

毎年06月30日は、小惑星による地球衝突についての危機意識を高める目的を持って世界中の人々が集い、小惑星衝突から私たちの惑星・家族・地域社会、そして未来の世代を守るために何が出来るかを学ぶために活動する「Global Awareness Campaign (世界規模の啓発キャンペーン)」が通年開催されています。
 


 

この活動は、2004年の第59回国連総会会期中の宇宙平和利用委員会(COPUOS)により、毎年06月30日を「Asteroid Day」とすることが承認され、United Nations General Assembly (UNGA) 第 71 回(27 Oct. 2016)のセッションによって決定されました。以後継続して啓発キャンペーンを行い、国内では JAXA/ISAS 吉川真氏が代表窓口として当協会やスペースガード協会等に情報を与え、06月30日前後に啓発キャンペーンの一環として講演会や各種イベントを執り行ってきました。

スペースガード協会は観測施設を持つ団体であり、NEO(地球近傍小天体)、PHA(潜在的に危険な小惑星)と言った地球に近づく天体を補足する実活動を行っております。ウェブ上での広報・窓口を受け持つ私ども日本惑星協会ですが、本格的な啓発実績を積み上げるための初期段階から次のステージを目指すところで少しノロノロ運転気味でしょうか。

また、2017年に東京で開催された国際会議 PDC(Planetary Defense Conference)ですが、報道では大きな盛り上がりは有ったのですが(NHK クローズアップ現代特集など)、一般国民への大きな周知には至らず、その後は開催履歴が霧消しているというのが実情です。これも日英両言語でウェブ発信した TPSJ でありましたが、その後の啓発促進に繋がっているとは言い難いです。さらに努力すべき点ですが、取り組みの有り様が今問われており、私たち自身も改革が必要であるという思いを強くしています。
 


 

天体衝突が来る!となったとき、まず極少数の研究機関のみが事態の深刻さを察知し、後に人類全体に大災害を告知するという情報の流れを思うと、過日のコロナ禍騒動を見ていて「空恐ろしい」気がします。タイトルに小惑星リュウグウ・ベンヌを記しましたが、それらの数倍規模以上の天体が地上に落下してくるとなれば、、、恐竜が絶滅した際、小天体の落下は「真夏の昼下がり」と推測されていることから、恐竜はその天体落下を自らの目で太陽方向に眺めながら、直後に壊滅的な衝撃をその巨体で体験したと推測されます。悲惨です。

天体の観測条件上、地球から見た軌道として太陽方向から近づく天体の発見は難しく、その発見は地球最接近直前になることが多くなります。地球を通り過ぎてからの発見も多くあります。常時、少なくない数の小天体の地球近傍通過を MPC(小惑星センター)は伝えています。国内ではアマチュアやスペースガードセンターのような専門施設が接近を報じていますが、ほとんど国民皆さんの知るところなく情報は流れ去っていく状況です。

数年前、小惑星が地球から7,000 ㎞ ほどを通過するという報を聞き、「これは危ない!」と咄嗟に感じました。天体の地球との距離は、筆者の場合は地心距離というものを普段使います。これは地球の中心から天体までを測るもので、7,000 ㎞ と言えば、地球表面すれすれということになります。ISS 国際宇宙ステーションの周回軌道よりもさらに大きく近づくことになるのです。落ちるかも、と思ってしまいます。

その後の確認によって、接近距離が地球表面からのものであることが判明し、胸を撫でおろしました。今回に限って地表からの距離を速報してしまったということですが、筆者としては「近いぞ!」という警鐘を鳴らしたいがため、地心よりも小さくなる地表からの接近距離(測地距離)を記したのではないかと思っています。そうであれば、「ナイス(古い?)」な判断ではないかと感じますね。速報に記された天体サイズは、2~3 m ということでしたので、地球に落下するとなっても分解されバラバラになってしまうことはほぼ間違いないですが、いつもそうであるとは限らないのが私たちが住む太陽系での天文現象です。

小さな天体の落下は、被害の発生は極めて低いですが、地球規模の被害をもたらす天体は、すでに 90 数パーセントの確認が出来ていると言われます。総数 100 個程度でのその確率であれば、大きな心配は無いように感じますが、分母はその数万倍です。たったひとつで恐竜やその他有力な生き物を絶滅させ得る壊滅的な衝撃を起こす天体は、未確認数はまだまだ数多くあるということです。

JAXA「はやぶさ2」探査機や、NASA OSIRIS-REx(オシリス・レックスまたはオサイリス・レックス)探査機は、その探査対象天体の軌道要素も調べました。特にオシリス・レックスは、探査対象である小惑星ベンヌから発する熱放射を調査しました。これは天体から発する熱放射が、その天体の軌道要素を変化させるというヤルコフスキー効果の実証です。この小惑星ベンヌも同様な効果があると考えられており、ベンヌ到達後、直ちに検証を行いました。JAXA においてもリュウグウを地球接近天体のひとつと考え、潜在的に危険な小惑星に分類しています。もちろん、リュウグウの軌道は今後も注目されるだろうし、観測を欠かすことも無く、有事の際は相応の対策が直ちに実施されるであろうと信じております。が、、、

地球と同様に太陽を周回する天体は、魅力のある天文ショーを繰り広げてくれる豊かな宇宙の表現者です。軌道が揺れるような夜空での見え方は、人を惑わす天体として古き観測者を悩ませ、観測精度が高まった現代における小さな惑星たちは、その軌道の不確実性が恐怖の対象ともなっています。

私たち日本では、その小惑星から世界で初めて形成物を地球に持ち帰りました。さらにその第二弾である「はやぶさ2」の二度目のサンプリング試料獲得に成功し地球に持ち帰っています。

今後も日本では「はやぶさ2」に続くミッションは数多く実施されることと思います。サンプリングミッション、ランデブーミッションといった航法や特にエンジニアリングに目を奪われがちですが、小惑星(小天体)探査というものは、太陽系形成、天体の軌道研究、有機物存在の確認や生命起源の謎解きなど、サイエンスが無ければ成立しないミッションであることも理解しないといけません。さらにそのサイエンスには、地球に危険を及ぼす可能性を探ることや、それに至る仕組みを解明するためのミッションも必ず(そうあって欲しい)含まれます。

有史以来、幸いなことに人類の生存を脅かすほどの天体衝突は起きていないと思われています。しかし、10 ㎞ を超えるサイズの天体衝突は無かったにしても、数 10 m、数 100 m 規模であれば地球表面に達した例はたくさんあります。ただし、地球の約 70 % が海であり、陸地でも山岳、森林、砂漠が多くあるため、人々が生活する領域は小さなエリアであることが幸いし、都市圏を襲った天体衝突は今まで知られる限りありません。

空を見上げて「あれはいったい何なの?」と気づいたとき、もう祈るしかないというのでは、あまりにも人類史というのが儚く哀れでふざけた存在に思えてなりません。そのためにも毎年あるいは隔年に行われる「Asteroid Day」や「PDC」という場を活用して私たちは啓発に努め、未来の子どもたちへの「安心感のある警鐘」を送り届けなくてはいけないのです。
 

日本惑星協会、井本昭
 



Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Web edited : A. IMOTO TPSJ Editorial Office