Chelyabinsk 隕石
エポックメイキングな隕石たち その 02. : June 23, 2017. Published

杉浦 直治:東京大学理学系研究科

この遊星人記事は、日本惑星科学会遊星人編集専門委員会より許可を得て掲載しております。
 



1. はじめに

Chelyabinsk 隕石は近年もっとも注目を集めた隕石である.本記事の第 2 回目としてこれを取り上げる.Chelyabinsk 火球は2013年02月15 日に観測された,過去 100 年で最大の火球であり,たくさんの窓ガラスが割れて 1500 人余りが怪我をしたと報告されている.直径 20 m に近い天体が事前に検出されることなく落下したことは衝撃的であり,将来おきるかもしれない小天体の地球への衝突による被害を評価する上でも,重要な役割を果たすことになった.Chelyabinsk 隕石は LL5 コンドライトに分類され,過去に衝撃による溶融・破壊を受けた痕跡が多く見られることが特徴であるが,宇宙化学的にはごく普通の隕石である[1].

火球現象は大気に突入した小天体が細かく破壊されることによって起きるが,その破壊過程は良く解らないところがいろいろある.火球が詳細に観測され,それに伴って落下した隕石が回収された例はまだわずかしかない.ここでは回収された Chelyabinsk 隕石について概観し,隕石破片の表面形態の特徴的なものを紹介し,流星(火球)現象との関係を解説する.この隕石の表面形態が他の隕石の形態と格段に違うわけでは(おそらく)ないが,火球現象との対応を考えるという観点からは,とても貴重な隕石といえる.
 

2. Chelyabinsk 隕石破片の回収と質量分布および破壊強度

地上で回収された Chelyabinsk 隕石破片は 1000 個以上ある.最大の破片は凍結したチェバルクル湖の厚さ 70 cm の氷に直径 6 m の穴をあけた.この時の衝撃にもかかわらず,この破片はほとんど破損せず,重さ約 600 kg の隕石として2013 年10 月に回収された.これは Chelyabinsk 隕石の強度に関する重要なデータである.この破片は現在 Chelyabinsk 地方歴史博物館に展示されている.ちなみに,大気圏突入時の大きさは 10000 トンと言われている.小さな破片の量は全部で 3000~5000 kg 程度と考えられており,大気圏突入時の天体の 99.9 % 以上が大気中で熔融・蒸発したことになる.破片の質量の分布はほぼ log-normal 分布になっていて,mode の大きさはおよそ 2 g である[2].この Chelyabinsk 隕石の質量分布は他の隕石シャワーの質量分布に比べて小さいものが多いのが特徴である.これは Chelyabinsk 隕石の強度が弱いと解釈するのが自然である.ただし Chelyabinsk 隕石破片の場合,積雪の上に落下して,落下の跡に小さな穴が開いているということが広く知られたため,小さな破片でも高い収率で回収されたという解釈も成り立つかもしれない.

以上のような隕石の詳細な分類は専門家でない人にとっては煩雑で”マニアック”な意味しかないように見えるかもしれないが,これは単に特徴を区分するというだけでなく,後述のような成因的意味が込められている.従って,隕石の研究に当たっては,まずは分類を正しく行うこと,あるいは認識することが必須となっている(自然科学の基本だが).分類に当たってはある程度訓練を積み「鑑定眼」と知識を十分持てば,それほど大変なことでは無い.

火球の明るさの変化,飛行速度の変化および衝撃波の到達時間から母岩の破壊した高度が解り,それに基づいて母岩の強度を推定できる[3]. それによると,最初の破壊は高度 45 km 程度で起き,その時の前面の圧力は 0.7 MPa であった.([1] によればこれは 0.2 MPa である.)多くの破壊は圧力5 MPa程度で起き,最後の破壊は圧力 13 MPa 程度で起きている.一方で,実験室での圧縮破壊強度は 64 MPa と報告されている[4]. これは他の隕石に比べて小さめの値である.
 

3. Chelyabinsk 隕石破片の表面形態

これらの破片の形態は,それが大きな母岩から分離した過程および大気中を高速で飛行した時の加熱による融解摩耗の程度を反映していると考えられる.たくさんの破片を見ると,それ等はいくつかのグループに分類できることが解り,それは破片が母岩から分離した高度に依存していると思われる.以下,特徴的な形態とその簡単な解釈を示す.
 

pea(豆,図 1)と呼ばれる小さな spheroidal なものはもっとも高い高度で分離したものと思われる.この丸い形状は熔融摩耗が激しかったことを反映している.また図 1 に見られるロールオーバーリップと呼ばれる構造は,この破片の空気中の飛行の最終段階では定方位の飛行をしていたことを示唆する.これと似たもので半球状のものもあり,Chelyabinsk button と呼ばれる.これらの隕石は,サイズが小さく,回収された場所は隕石分布域の東側に偏っており,高い高度で母岩から分離したという解釈を支持する.
 

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図 1. 小さな丸い隕石は Chelyabinsk Pea と呼ばれる.凸凹した盛り上がった構造はロールオーバーリップと呼ばれ,飛行の前面で熔融したものが後面に回り込んで固化して形成する.Encyclopedia of MeteoritesのMario Hoffmann collection より.
 

図 2 に示す隕石は三つの興味深い特徴がある.

(1)後面が平らである.
(2)後面は少し焦げているが熔融物でおおわれているわけではない.
(3)後面のヘリにわずかにロールオーバーリップが見える.
 

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図 2. 平らな,焦げた平面を持ち,わずかにロールオーバーリップを示す破片.全体として角張っていて,低い高度で母岩から分離したことを示唆する.Encyclopedia of Meteorites の Vincent Jacques collection より.
 

ここで見えている面が後面であることは空気力学的にその方が安定であることと,熔融物でおおわれていないこと,ロールオーバーリップが見えることなどから判断できる.わずかなロールオーバーリップの存在は,この隕石がこの形になった直後に短時間,定方位飛行をしていたことを示唆する.後面が熔融物でおおわれていないのに,焦げていることは高い温度のコントレイル(火球の後ろにできる飛行機雲状のもの)の中にいたことによって説明される. また面が平らであることは Chelyabinsk 隕石中に,過去の衝撃によってできたすべり面がたくさん存在することを考えると,既存のすべり面に沿って破壊したと解釈される.全体として角張った形をしていることと,ロールオーバーリップがわずかなことから,これは火球の主爆発の後期に母岩から分離したと推定される.

過去の衝撃によってできたすべり面は Chelyabinsk 隕石にはかなりの密度で存在し,しばしば,それらは互いに平行になっていることが,隕石の切断面の観察からわかっている.図 3 の様な平板状の隕石の存在は,既存のすべり面は破壊しやすく,小天体の急速な破壊に寄与していることを示唆している.二つの面の形状は非対称であり,飛行が定方位だったことを示唆する.
 

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図 3. 平板上の破片.右の図に見えている面は角が丸く,この面を前方にして飛行したことが示唆される.
 

4. まとめ

以上の様に,Chelyabinsk 隕石破片の大きさ分布・形態は火球現象中での母岩の破砕過程および大気中を高速で飛行した時の加熱による融解摩耗に対応していると考えられる.ここで紹介した形態の解釈は定性的なものであり,将来的には,流体力学や岩石力学を用いたより定量的な吟味が必要となる.特に定方位飛行は多くの Chelyabinsk 隕石破片にその痕跡が見られ,破片の形成過程の解釈に重要な役割を果たしている.Chelyabinsk 隕石の場合,大気圏への進入角度が小さかったことが知られている.進入角度が小さいと,大気中の飛行距離が長くなり,定方位飛行に有利であることは容易に推測できる.一方で,小天体が大気圏に突入したときの初期回転速度も定方位飛行にかかわる重要な要素であるが,個々の小天体の地球外での回転についてはほとんどわかっていない. 従って,Chelyabinsk 隕石から得られる結論をすぐに一般化することはできない.今後,たくさんの火球の観察を行い,それに伴って回収される隕石の形態を調べることにより,小天体が大気中で細かく破砕される過程をより良く理解する必要がある.特に,火球現象が,天体の大きさにどのように依存するかを知ることは重要な課題である.
 

謝辞

木村眞氏,野口高明氏からこの原稿執筆の機会を与えて頂き,原稿を読んでいただきました.この場を借りて感謝いたします.また,Encyclopedia of Meteorites から写真を転載させて頂きました.原本を掲載された方々に感謝します.
 

参考文献

[1] Popova, O.P. et al., 2013, Science Express. DOI:10.1126/science.1242642
[2] Badyukov, D.D. and Dudorov A.E. 2013, Geochemical International 51, 643.
[3] Borovi.ka, J. et al., 2013, Nature doi:10.1038/12671.
[4] Grokhovsky, V.I. et al., 2013, 76th Meteoritical Soc. Meeting, 5233.pdf.
 



Editor : Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Akira IMOTO. TPSJ Editorial Office