Allende 隕石
エポックメイキングな隕石たち その 01. : June 23, 2017. Published

木村 眞,野口 高明:茨城大学理学部

この遊星人記事は、日本惑星科学会遊星人編集専門委員会より許可を得て掲載しております。
 



要旨

隕石は現在でも貴重な太陽系形成過程や惑星の分化過程などを知るための重要な物質である.本解説記事ではよく知られた代表的隕石を紹介する.第 1 回は Allende 隕石を紹介する.この隕石は炭素質コンドライトに属し,構成物質の化学組成や形成年代などの特徴から,多くの太陽系最初期の情報が得られてきた.
 

1. はじめに

現在,地球外物質を研究するための試料として月や小惑星から回収された物質(リターンサンプル),彗星起源物質など様々なものを利用することが可能となっている.しかし最も古くから研究されている地球外物質である隕石はリターンサンプルに比べると圧倒的に手軽に多量に使えることもあり,今日でも広く研究されている.隕石には様々な種類のものがあり,原始太陽系星雲(円盤)の形成から天体の分化過程に到る一連の過程を明らかにするために貴重な情報を提供している.このような理由で隕石の重要性は現在でも変わらない.

今回,遊星人編集委員会からこのように重要な物質である隕石の中でも代表的なものを簡潔に紹介する連載記事の提案がなされた.われわれはその世話人を依頼されたので,第 1 回目の記事として,隕石の中でも最も有名なものの一つである Allende(アイェンデ)隕石を紹介したいと思う.今後は多くの研究者に執筆を依頼して様々な隕石をこのコラムで紹介していきたいと考えている.なお記事の性格上,文献は最小限にとどめた.

Allende 隕石は1969年02月08日にメキシコ,チワワ州に隕石シャワーとして落下した隕石である.多量に採集されたこと(総回収重量 2 トン以上),数少ない炭素質コンドライトに属すること,そこに含まれる難揮発性包有物から太陽系最初期の物質形成過程が推定されたこと等から最も有名な隕石となっている.多量に試料があることから炭素質コンドライトという貴重な隕石であるにもかかわらず,ミネラルフェアなどで容易に入手でき,博物館などの展示でも最も良くお目にかかる隕石の一つである.
 

2. 分類

まずは Allende 隕石の分類上の位置づけについて述べよう.隕石は始源的隕石(コンドライト)と分化隕石に大きく二分される.前者は基本的に母天体内で溶融して分化した形跡のないもので,そのため原始太陽系内で起こった様々な現象や物質に関する情報が得られる.コンドライトはさらに炭素質コンドライト,普通コンドライト,エンスタタイト・コンドライトに分類される(他にこれらに属さないものも少数ある).なお,最新の隕石の分類体系については Weisberg et al. [1]を参照されたい.

Allende 隕石は炭素質コンドライトのグループの一つであるCVに属している.他のグループ(CI, CM, CO など)とは化学組成,酸素同位体組成に加えて構成物質(後述)によっても区別される.CV グループはさらに酸化的な環境を示す CVox,及び還元的な CVred に区分される.CVox はさらに,CVoxA と CVoxB に細分され,Allende は前者に分類される.

以上のような隕石の詳細な分類は専門家でない人にとっては煩雑で”マニアック”な意味しかないように見えるかもしれないが,これは単に特徴を区分するというだけでなく,後述のような成因的意味が込められている.従って,隕石の研究に当たっては,まずは分類を正しく行うこと,あるいは認識することが必須となっている(自然科学の基本だが).分類に当たってはある程度訓練を積み「鑑定眼」と知識を十分持てば,それほど大変なことでは無い.
 

3. 構成物質

Allende 隕石の外見は暗色で,その中に白色から灰色で不規則形状から球形の構成物質が容易に識別できる(図 1).これをさらに岩石薄片にしてみたものが下図 2 である.Allende はコンドルールという球形等の形状(薄片では円や楕円形に見える)を示す物質(破片になったものも含む),不規則形の難揮発性包有物(CAI など),鉱物片とそれらの間を埋めるマトリックスから構成されていることがわかる.
 

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図 1. Allende チップの写真.暗色のマトリックス中に白色から灰色の構成物質が分布する.横幅 24 mm.
 

特に CV グループの特徴はコンドルールが平均して 45 vol. % ほどを占め,マトリックスも多く含まれる(40 %)ことが特徴である [1].難揮発性包有物は 10 % 程度含まれる.またコンドルールは平均直径が約 1 mm で,他の炭素質コンドライトのものより大きい.難揮発性包有物も CV では大きいものまであり,cm サイズになることもある.このような点で Allende などの CV グループの隕石は他の炭素質コンドライトとは容易に区別がつけられる.
 

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図 2. 薄片写真.大小のコンドルールが多く含まれる.横幅 12 mm.
 

難揮発性包有物は溶融して球形になっているもの(コンドルール状)もあるが,不規則形で融けていないものが多く,また構成鉱物が異なること,縁に薄いリムが観察されることがあるといった特徴からコンドルールと容易に区別できる(図 3).化学組成的には Ca, Al, Ti に富むことが特徴的で,さらにZr, Ir などの元素をコンドルールなどより多く含み,Si, Fe, Na などに乏しい(後述の変質部分を除く).これらの元素は平衡凝縮説で予想される超難揮発性,ないしは難揮発性元素である.このような化学組成を反映して,メリライト (Ca2Al2SiO7-Ca2MgSi2O7),Ca,Al に富む輝石(CaMgSi2O6-CaAl2SiO6),スピネル (MgAl2O4)といった鉱物が主要なものとなっている.また,最近では微少な鉱物の同定が行えるようになったため,次々とミクロンサイズの新鉱物が Allende や他の炭素質コンドライトの難揮発性包有物から報告されている.例えば Allendeite( Sc4Zr3O12) 等が知られている.
 

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図 3. 難揮発性包有物の薄片写真.この写真上の構成物質はほとんどが難揮発性包有物である.横幅 2.3 mm.
 

いずれにせよ,このような特徴から難揮発性包有物は太陽系最初期の高温凝縮物と見なされている.また酸素等の同位体組成異常がこの難揮発性包有物に顕著に認められることや,太陽系最初期の年代を与えることなども広く知られている([2]など).Allende などから難揮発性包有物が多数発見され集中的に研究され,それにより太陽系最初期の情報が得られたことから Allende,あるいは CV グループの隕石が注目されることとなったのである.

コンドルールはさまざまな鉱物集合体がいったん融けて,その中で結晶が生じたものである.コンドルールは化学組成的には Mg, Si などの親石元素としては元素存在度的に最も主要な元素を主としているが,これらは難揮発性包有物を構成する元素の後に凝縮するものである.これを反映して鉱物としてはカンラン石,輝石が多く含まれる.年代としては難揮発性包有物より 1-3My 年ほど若い結果が得られている [2].
 

4. 変質作用と意義

難揮発性包有物もコンドルールも原始太陽系星雲内で生じたもの,と考えられているが,形成後,多くのものが二次的な変質作用を被っている [3]. 特に CVoxA, CVoxB でそれが顕著で,Na, Fe を多く含む変質鉱物が知られている.さらに CVoxB には含水珪酸塩鉱物が含まれている.CV コンドライトの変質作用の場については様々な議論があるが,母天体内で起こったとする考え方が有力である.ただし,最終的な母天体が形成されてからというより,それ以前の段階の可能性が高い.このように最終的な母天体が形成されるまでには複雑な過程があったことが推定されている.なお CV の細分はこのような二次的作用の程度や過程を反映したものである.

こうした意味でも炭素質コンドライト=太陽系の“始源“物質と単純に考えてはいけないことになってきた.つまり Allende などの“始源的”隕石は原始太陽系に関わる初生的性質と二次的作用の両方の性質を持っている.このことを認識して,分析などを行うことにより,それぞれの過程に関する知見が今後とも得られると思われる.いずれにせよ,炭素質コンドライトが太陽系形成時の貴重な情報を保持していることには変わりは無く,今後とも広く研究が行われていくであろう.
 

謝辞

岡崎隆司氏,はしもとじょーじ氏からはこの原稿執筆の機会を与えて戴いた.また岡崎氏には粗稿を読んで戴いた.岸山浩之氏,山口亮氏には写真を提供して頂いた.これらの方々にこの場をお借りして感謝いたします.
 

参考文献

[1] Weisberg, M. K. et al., 2006, In Meteorites and the Early Solar System II 19.
[2] Kita, N. T. et al., 2005, In ASP Conference Series 341, 558.
[3] Brearley, A. J., 2006, In Meteorites and the Early Solar System II 587.
 



Editor : Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

Akira IMOTO. TPSJ Editorial Office