火星における塩水による地形模様の形成に対する塩析出の役割
特集「火星圏のサイエンス」 : May 18, 2021. Published

今村翔子 : 東京工業大学地球生命研究所, 東京大学大学院理学系研究科. 関根康人 : 東京工業大学地球生命研究所. 佐々木猛智, 前川優 : 東京大学総合研究博物館

この遊星人記事は、日本惑星科学会遊星人編集専門委員会より許可を得て掲載しております。
 



要旨

現在の火星表層の中低緯度の低地では,気温や湿度の日変化・季節変化に応じて,液体の塩水が形成と蒸発をくりかえす可能性が示唆されている.本論文では,火星上の塩や塩水の存在,中低緯度の急斜面にくり返し現れる暗い筋模様(Recurring slope lineae : RSL)について近年の探査結果をレビューする.さらに,塩水の形成と蒸発がくり返される場合の土壌中での塩水の振る舞いを調べた著者らの室内実験を紹介する.実験では,塩水が蒸発することにより土壌中に析出した塩化物が,砂粒子の空隙を埋めて浸透率を低下させることで,再び供給される塩水の土壌へのさらなる浸透を妨げることが示唆された.浸透を阻害された塩水は表層流となり,斜面下方に流れることで縦に伸びた特徴的な流跡が形成する.このメカニズムにより形成する流跡は,火星の RSL の形状的特徴とも整合的である.
 

1. 背景

乾燥寒冷状態にある現在の火星表面において,純粋な液体の水は熱力学的に不安定であり,水による活発かつ大規模な地形形成は起きていない.しかしながら,近年の着陸探査機のその場分析によって,火星表面においても,高濃度の塩水であれば一時的に液体として安定に存在できる可能性が示されている [1, 2].これは高濃度の塩水による凝固点降下と蒸発率低下に起因しており,現在の乾燥寒冷な火星における水循環の理解や,将来の有人探査での水資源の獲得において,塩水の形成・消失,それらによる地形形成の理解は本質的に重要となる [1 - 3].

本稿では,前半で火星表層における塩や塩水の存在に関する最近の探査結果を述べた後,近年注目を集める,火星上の急斜面にくり返し出現する黒い筋模様(Recurring slope lineae : 以下,RSL)について,これまでの観測結果と提案されている形成メカニズムをレビューする(1 章).後半では,火星上での塩水の形成・流出・蒸発という一連のサイクルに伴う地形の形成に着目し,土壌中をどのように塩水が運動するかを調べた著者らの実験的研究について,その結果を紹介する(2 - 4 章).
 

1 - 1. 火星上における塩の存在と塩水の形成

現在の火星表層には,液体の水と岩石との相互作用により形成したさまざまな二次鉱物が存在する [4].その一つである塩化物は,一般的に,岩石中に含まれるナトリウムやマグネシウム,塩素が表層水・地下水に溶脱した後,水が蒸発する過程で塩化ナトリウム(NaCl)や塩化マグネシウム(MgCl2)として凝結し形成される [5].火星表層における塩化物の全球的な分布は,主に周回探査機オデッセイに搭載された熱放射写像カメラ THEMIS により明らかにされてきた [5, 6].THEMIS は赤外線領域の九つのスペクトル帯(6.78,7.93,8.56,9.35,10.21,11.04,11.79,12.57,14.88 μm)を使用して,火星のごく表層(~ 100 μm)の鉱物や熱放射を観測する装置である(空間解像度 : 約 100 m/ピクセル).この波長領域で塩化物は特徴的な吸収ピークを持たず,なだらかな右下がりのスペクトルを示す [6].THEMIS で得られた赤外スペクトルのデータ解析から,約 38 億年前にあたるノアキアン中期に堆積したとされる南半球低 - 中緯度域の高地や,その縁に存在する約 30 - 35 億年前のヘスペリアン期に形成された平地で,塩化物が広く発見されている [5, 6].塩化物の存在地点は周囲よりアルベドが低く局所的な低地となっており,当時の水循環の結果,周囲より低いくぼ地に岩塩として析出したと推定されている [5].これら塩化物の存在地域は,河川地形であるバレーネットワークの存在地域ともよく一致している [4].

過塩素酸塩も火星上で発見されている塩の一つである [1].これら過塩素酸塩は,比較的現在に近い時代に,大気中やごく浅い表層で塩化物が紫外線により酸化されることで生成されると考えられている [7].実際,北極周辺の高緯度に着陸した探査機フェニックスは,搭載した Wet Chemistry Laboratory(WCL)内で火星土壌を液体の水に混合し,水に溶けたイオンをイオンクロマトグラフによって分析した.その結果,土壌から約 10 mmol/L の塩が溶け出し,その塩のうちの 0.4 - 0.6 重量 % が過塩素酸(ClO4-)であった [8].また,探査車キュリオシティは,南北半球境界付近に存在するゲイル・クレータにおいても過塩素酸塩を見つけている [9].搭載された Sample Analysis at Mars(SAM)を用いた土壌の熱分解ガス質量分析の結果,得られたガスの質量スペクトルが過塩素酸カルシウム(Ca(ClO42)の熱分解の際に生成するガスと整合的であるということが示されている [9].このように塩化物の一部は,火星表層での光化学反応によって過塩素酸塩となり,現在の火星上に広く分布している.

これら塩化物や過塩素酸塩は,現在の火星において潮解などで液体の塩水を形成する可能性がある [2, 10].潮解とは大気中の水蒸気が塩に吸着し,塩を融解することで起きる [2, 10].潮解性を持つ塩には MgCl2 などの塩化物や,Ca(ClO42 などの過塩素酸塩があり [11],上記のようにこれらの塩は火星上に広く見つかっている [1, 3, 4].潮解は,周囲の相対湿度と温度が,塩固有の臨界相対湿度と共融温度よりそれぞれ大きくなるときに起こる [11].潮解で形成した流体の組成は塩と水との共融点となるため,一般的にその塩分濃度は極めて高くなる(例えば MgCl2 の場合は塩分濃度が 21.6 %)[12].また,過去に存在した塩水が地下で凍結し凍土層となり,それが気温の上昇とともに融解する可能性もある [2].その場合も,塩と水の共融点付近の塩水が形成されうる.

このような高濃度の塩水は,現在の火星上でも熱力学的に安定に存在できることが,近年の着陸探査から示されている.Martin-Torres らは,探査車キュリオシティに搭載された Rover Environmental Monitoring Station(REMS)が得た火星のゲイル・クレータにおける温度 - 相対湿度の時間変化データを用い,Ca(ClO42 と水との共融点付近の液体が存在可能であることを示している [1].例えば,ゲイル・クレータにおける冬の日(太陽経度 Ls = 93 の日.ただし太陽経度Lsは火星北半球の春分点を 0,秋分点を 180 として定義される)の地表の温度と相対湿度の変化を見ると,日の出(午前06時ごろ)に伴い温度上昇と相対湿度の減少がおき,正午ごろに温度が最高かつ相対湿度が最低になる.その後日没に伴い,温度は下降,相対湿度は上昇し,次の日の出の直前(午前05時ごろ)に温度が最低かつ相対湿度が最高となる [1].この日変化のデータとH2O - Ca(ClO42 系の相図から Ca(ClO42 は,冬の 1 日において午後09時から午後11時ごろにかけて液体の Ca(ClO42 溶液が形成可能であり,その後,午前05時ごろまでに冷えて氷となり,正午ごろには液体の水が蒸発して過塩素酸塩を形成することが予想される [1].また,他の季節についても同様の解析を行うと,夏には午前02時から03時にかけてと午前06時ごろ,春は午前01時から午前06時ごろ,秋は午後06時から午前0時にかけて,Ca(ClO42 が一時的に安定して液体の塩水として存在可能であることが示された [1].これらのその場観測はゲイル・クレータで行われたものであるが,同様の温度・湿度条件は火星の低緯度地域で広く達成されうる.以上のことから,現在の火星表層では火星の日変化・季節変化にともない,液体の塩水が形成と蒸発をくりかえすことが示唆される.
 

1 - 2. Recurring slope lineae(RSL)

塩水が斜面において形成されれば,それらが表面を流れることによって特徴的な地形や模様,物質を表面に残しうる.RSL は,このようにくりかえし流れる塩水によって形成された可能性が提案されている地形模様である [2, 3, 13].ただし,1. 3 章で述べるように,RSL のすべての特徴を液体の塩水(あるいは水)の流出では説明できておらず,液体を伴わない土壌斜面の重力崩壊の可能性も提案されており [14, 15],現在論争を引き起こしている.本 1. 2 章では,まず観測事実に基づく RSL の地形的な特徴ついてまとめる.
 

RSL とは,赤道向きの急斜面(勾配 30 度程度)の土壌に現れる,細長く(幅 : 0.5 - 5 m,長さ : 数 100 m)周囲より暗い複数の縞模様である(図 1)[2, 3].同様の小規模地形に,地表面が表層水などで削られてできる溝であるガリーがあるが,ガリーには気温変化に伴う明確な形成・消失が現在において見られない点で RSL とは明確に異なる.また,RSL は溝の形成のような浸食作用を伴っておらず,土壌表面のアルベドの変化で特徴づけられる.ただし,RSL が生じる斜面の上部の基盤岩にはしばしばガリーが見つかり(図 1),両者の形成には関係性があることが示唆されている [13].
 

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図 1. マリネリス峡谷に存在する RSL(南緯 11.517 度,西経 69.683 度).画像上が斜面の上部,下が斜面下部になっている.黒い矢印は RSL の代表例を示しており,黒く長く伸びる筋模様が存在していることがわかる.また,RSL の斜面上部には,侵食地形であるガリー(図中白抜き矢印)も見られる.
Image Credit : ESP_031059_1685/NASA/JPL/University of Arizona
 

これまで,周回探査機マーズ・リコネッサンス・オービターの高空間解像度カメラ HiRISE によって RSL の活動が長期的に観測されてきた [2].RSL として判定される基準は,① 温かい季節(夏)に斜面の下方向へ定期的に伸長すること,② 寒い季節(冬)に消失すること,③ 毎年くりかえし伸長・消失が起きることの三つである [13].これらすべてを満たすものを confirmed RSL(確実な RSL),三つの基準を一部満たしているものを candidate RSL(RSL 候補)と呼び,基準を一つも満たしていないものの RSL らしい暗い筋模様を呈するものを likely RSL(RSL らしきもの)と定義している [1, 12].RSL は火星上で,南半球中緯度域,赤道領域,北緯 30 度周辺のクリュセ平野とアシダリア平野域,赤道近くのマリネリス峡谷域の四つの中低緯度地域に集中して分布しており,2016年05月までに見つかっている 474 か所中 239 か所の RSL(confirmed, candidate, likely すべて含む)がマリネリス峡谷内の低地に集中している [13].

近年では,RSL を構成する物質を明らかにする目的で,RSL 表面の反射スペクトルが取得されている.Ojha らは,南半球中緯度域に存在するパリカー・クレータ,ホロウィッツ・クレータの中央丘,ヘイル・クレータの中央丘,マリネリス峡谷域に存在するコプラテス・カズマの 4 ヶ所に対して,マーズ・リコネッサンス・オービターの分光計 CRISM(波長領域 : 0.370 - 3.920 μm,空間解像度 : 約 18 m/ピクセル)を用い,それぞれ RSL の密集した領域の表面反射スペクトルの解析を行った [3].パリカー・クレータのRSL密集地域では,波長約 1.4,1.9 μm の水和塩鉱物の吸収が見 ら れ,MgCl2,Mg(ClO42,塩素酸マグネシウム(Mg(ClO32)の混合塩による吸収と整合的であった.他の地点についても,ホロウィッツ・クレータの RSL 密集地域では,波長 1.9,2.15,2.43 μm の吸収により過塩素酸ナトリウム(NaClO4)が,ヘイル・クレータの RSL 密集地域では約 1.48,1.9 μm の波長での吸収により Mg(ClO42 が,それぞれ土壌と混合している可能性が示唆された [3].コプラテス・カズマでは,吸収された波長が 1.9 μm のみであったため鉱物を同定することができなかったが,水和塩が存在することは示唆された.このようにいくつかの RSL では,その出現に伴って塩化物や過塩素酸塩の存在が示唆されている.
 

1 - 3. RSL 形成メカニズム

RSL について,これまで大きく二つの形成メカニズムが提案されている.一つは,土壌中に液体の水(塩水を含む)が流れ出た可能性であり [2, 13],もう一つは液体の流出を伴わない斜面の重力崩壊の可能性である [14, 15].前者の液体の塩水(水)の説では,気温の高い時期に地下の凍土層の融解や塩の潮解がおき,これが急斜面に流れ出ることによって RSL を作ったとするものである [2, 13].一方,斜面の重力崩壊による RSL 形成説の代表的なものには,土壌の間隙中に存在する気体分子が太陽光によって暖められることで生じる上昇気流が砂粒子を持ち上げ,安息角に近い斜面の土壌が重力崩壊を引き起こすというものである [14].重力崩壊した斜面では暗い基盤岩が見え,その上に徐々にダストが沈降することで暗い模様が消えるという可能性が提案されている.

両説とも,火星の温度・湿度や太陽光強度の年変化により RSL が発生するという,RSL の季節性を説明することができる(表 1)[1, 15].しかし,液体の塩水(水)の場合,次のようないくつかの RSL の特徴を説明できていない.まず,RSL 周辺地域の赤外分光分析から,液体の水による吸収が観測されていないという事実を説明できていない [3].このことは,RSL において液体の水が土壌表面に最大でも 4 重量 % 程度しか含まれていないことを意味し [16],この結果は液体の塩水により RSL が形成したとする考えとは一致しない [14].また,RSL は勾配が 30 度程度の急峻な坂にのみ出現しているが [2],土壌への塩水(水)の流出の場合,このような急勾配にのみ出現する明確な理由は今のところ不明である(表 1).さらに,過去の実験的研究では,潮解や氷の融解などの液体の供給フラックスが低い場合には,土壌中を流れる流体は供給源から同心円状に広がり [17],RSL のような縦に伸びる地形的特徴を再現できないという問題点もある.ただし,RSL 密集地域に観測された水和塩の存在は,土壌に塩水が流出し,その後乾燥したとする考えとは調和的である(表 1)[3].
 

表 1. RSL 形成に対する,塩水流および斜面の重力崩壊による形成メカニズムの比較.観測事実の整合性について,各説で説明可能なものを「◯」,明確な理由がないものを「?」とした [3, 13, 14, 16].本研究では,塩水により長く伸びた形状が形成されうるかに着目している.

塩水流によるメカニズム RSL に関する観測事実 斜面崩壊によるメカニズム
水和塩の検出
季節性
赤外スペクトルにより
水の吸収が見られない点
急峻な坂にのみ存在
(本研究) 長く伸びた形状の形成

 

一方で,RSL が斜面崩壊で形成されるとする場合にも以下のような問題点がある.斜面崩壊説の場合,RSL の分布が南半球の中低緯度域に偏っていることや RSL に伴って水和塩が検出されていることに対する説明は明確ではない.さらに,RSL が粒子流によって形成されたとすると,RSL とその周囲の領域には標高差が生まれ,また斜面下方には流れた粒子が堆積するはずだが,RSL においてこのような高度変化や堆積物は観測されていない [14].しかしながら,液体の水の赤外吸収が RSL 上に見つかっていないことや,勾配 30 度という砂の安息角に近い急峻な坂にのみ RSL が出現することとは整合的である [14].

このように,現状ではどちらの可能性も RSL の一部の特徴を説明するものの,すべてを整合的に説明することはできていない.液体が関与する過程と斜面崩壊過程の複合プロセスである可能性も提案されているが [17],火星上のリモートセンシングによる観測やモデルのみからは,形成プロセスについて決定的な理解に至っていない.特に,RSL 最大の特徴である縦に細長く伸びる地形模様の形成は,どちらの説も十分に説明できているとはいいがたい(表 1).現状の RSL 形成メカニズムの理解を阻む大きな問題点の一つは,高塩分濃度の塩水の土壌中での振る舞いや,それによって形成する地形模様の理解が不十分であることにある.これまで,火星上での地形形成要因の理解は,地球上で形成したそれらとの比較によって行われてきた.しかしながら,上記のように,塩との共融点近い流体の形成が予想されること,相対湿度の日変化・季節変化に応じて塩水が流出・蒸発・凝結を繰り返すことといった条件が [1, 12],地球上で達成されることは極めて稀であるため,RSL の地形的特徴がどのようなメカニズムに起因しているのか理解することができていない.

本論文の後半では,火星表面での形成が予想される高塩分濃度の塩水が,土壌内に流出した場合の動的振る舞いを実験的に調べた著者らの研究を紹介する.塩水が流出と蒸発を繰り返すと,固体の塩が土壌内に析出することによって,この析出した塩が土壌の空隙率を減少させ,また,砂粒子の表面を塩が覆うことで,液体と砂粒子との間の表面張力(毛細管力)も変化しうる.これらによって,次に流れてくる塩水の土壌内での浸透流の運動に影響が生じることが考えられる.本研究では,特に上記の点に着目し,塩の析出が土壌内の浸透流の運動に与える影響を評価し,RSL の特徴である細長く伸びた地形模様の形成に塩が果たす役割を議論する.
 

2. 実験

本研究では,5 mol/L の飽和 MgCl2 溶液を,グローブボックス内に設置した粉末ガラスビーズ粒子から構成される斜面へと注入し,斜面上での溶液の流れをビデオカメラ(HC-VX985M:Panasonic)を用いて撮影した(図 2).比較のため,純水(Milli-Q:ミリポア社)を,MgCl2 溶液と同様にガラスビーズ粒子から構成される斜面へと注入し撮影した.MgCl2 を使用したのは,火星の RSL 上で発見されている塩化物であり,潮解性も持つためである [18].溶液を注入・乾燥の後,斜面のガラスビーズ試料を回収し,走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope : SEM)エネルギー分散型分光(Energy Dispersive Spectroscopy : EDS)(JSM-7000F : 日本電子株式会社)を用い化学分析を行い,マイクロ X 線 CT(MicroX-Ray Computed Tomo-graphy)(ScanXmate-B100TSS110 : コムスキャンテクノ株式会社)を用いて,空隙率や内部構造の観察を行った.
 

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図 2. 実験装置の概念図.グローブボックス内にガラスビーズ粒子の斜面を設置し,送液ポンプを用いて,MgCl2 溶液および純水を定常的に流す.グローブボックス内はエア―ドライヤによって,相対湿度が制御されている.
Image Credit : 遊星人
 

実験における各パラメタは,以下のように設定した.斜面の勾配は,火星上で RSL が存在する典型的な斜面の勾配に基づき 30 度とした [2].周回軌道衛星マーズ・グローバル・サーベイヤーの熱放射スペクトロメータ TES が計測した地表の熱慣性 [2] から,RSL の存在する斜面上では,一様に細かい土壌が玄武岩質の基盤岩の上に数十 μm から数 cm の厚さで薄く堆積していると推定されている [19].また,火星土壌を構成する鉱物粒子径は,探査機キュリオシティのその場観察から約 50 % が 250 μm 以下と推定されている [20].このような細かい土壌堆積物の透水係数が 10-3 - 10-2 cm/s 程度である [21] のに対し,玄武岩の透水係数が 10-12 cm/s 程度であることから [22],土壌に対して基盤岩は不浸透層であるとみなすことができる.そこで本実験では,これらの観測結果に基づき,不浸透層と見立てた基盤岩を模擬した斜度 30 度のアクリル板(縦 : 225 mm,横 : 165 mm)の上に,粉末にしたガラスビーズ(径 45 - 250 μm)を,厚さ 3(± 0.1)mm になるように一様に敷いた.ガラスビーズは,市販のガラスビーズ(粒径 0.7 - 1.0 mm)をタングステン製試料粉砕機(TI-100 : CMT)で砕いたのち,アルミ製のふるいにかけ選別したものである.実際に,45 - 250 μm の範囲にあるガラスビーズが 60 % を超えることを,粒度径分析装置(Hydro 2000s : Malvern)を用いて確認した.この斜面を,気温 27(± 2)° C,相対湿度 35(± 5)% に保たれたグローブボックスに設置した.その際,グローブボックス内の相対湿度は,接続されたエアードライヤにより常に一定となるよう制御した(図 2).

実験手順は以下のとおりである.本実験では,グローブボックス内に設置したガラスビーズ層の上部 8 mm から,MgCl2 溶液および純水を流し,そのガラスビーズ層内への流入・拡散の様子を斜面上部からビデオカメラによって継続的に撮影した.また,RSL の平均伸長速度は 0 - 20 m/火星日と推定されている [2].本実験では,これらの観測の上限値に近い伸長速度(約 20 m/火星日 ~ 1.3 cm/分)を再現する流量を与えた.つまり,本実験での流跡の幅(約 1 cm),ガラスビーズ層の厚さ(3 mm)と空隙率 35 % から,伸長速度 1.3 cm/分を実現する流量はおよそ 0.15 ml/分となる.本実験では,これに基づき,送液ポンプを溶液の流速を用いて 0.15 ml/分に設定した.MgCl2 溶液および純水は,それぞれ 1 回につき 5 分間連続して流し,10 時間以上かけて乾燥させた.この作業をそれぞれ 5 回ずつくり返した.1 回の流入時間を 5 分間としたのは,塩水流がガラスビーズ層斜面の下端に到達することを防ぐためである.

実験後,ガラスビーズ層内における MgCl2 塩の析出,およびそれに伴う空隙率の変化を調べるため,MgCl2 溶液を流した後のガラスビーズ層の一部を回収し,顕微鏡観察および固体分析を行った.サンプルは流跡の 2 ヶ所からそれぞれ約 2 mm(縦)× 約 2 mm(横)× 約 3 mm(厚さ)の体積を回収した.試料の一つは MgCl2 溶液の注入地点の直下で MgCl2 溶液が 5 回流れた領域から採取し(以降,サンプル X と呼ぶ),もう一つは流跡の先端でMgCl2溶液が1度だけ流れた流域から採取した(以降,サンプル Y と呼ぶ).ガラスビーズ層内の観察・物質分析に用いた SEM-EDS 分析は加速電圧 15kV で行い,空間分解能は約 3 nm である.Micro X 線 CT はサンプル X,Y の断面をそれぞれ,空間解像度 2 μm,X 線管電圧 100 kV,撮影範囲の縦,横,厚さ方向の各画素数を 1024,1024,1012 で撮影した.Micro X 線 CT によって得られた画像は,画像解析ソフトウェア Image J(National Institutes of Health)を用いて二値化し,空隙とガラスビーズ粒子,MgCl2 塩の領域を区別した.また,ガラスビーズ粒子および MgCl2 塩と空隙の各面積を全断面図で足し合わせそれぞれの体積を求め,空隙率を算出した.またこの二値化した画像を,3D 画像表示ソフトウェア Molcer(ホワイトラビット)を用いて三次元構造を構築した.
 

3. 結果

3 - 1. 純水と MgCl2 溶液の比較

実験で観察した,純水の注入後のガラスビーズ層の画像を図 3(a)に示す.
 

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図 3. (a)純水流を注入したときの流跡.ほぼ同心円状に浸透流が広がっていき,乾燥後は元の状態に戻る.5 回くりかえし流しても,流れ方はほぼすべて同じであった.(b)MgCl2 溶液を注入したときの流跡.くりかえし流すたびに流跡が伸長し,浸透流のみならず表層流も形成する.図(a)中の点線は流跡の先端部分を示している.
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純水はガラスビーズ層に到達後すぐさま浸透流となり,ガラスビーズ層内に注入口を中心としてほぼ同心円状(直径 : 約 85 mm)に広がる.その後,乾燥させると流跡は完全に消え,ガラスビーズ層は見かけ上,初期状態と同様の状態に戻る.その後,くりかえして純水を流した 4 回とも 1 回目と同様に同心円状にガラスビーズ内を浸透する浸透流となり,流跡は下流方向には伸びず乾燥後には流跡は残らない.

一方,MgCl2 溶液の流れ方は純水の場合とは大きく異なる.MgCl2 溶液の注入後のガラスビーズ層内および表面での流れの時間変化画像を図 3(b)に示す.1 回目の注入において,MgCl2 溶液はガラスビーズ層に到達後,すぐさま浸透流となったものの,純水のときのように注入口を中心とする同心円状(幅 : 約 42 mm)に広がる成分以外にも,下流に線状(幅 : 約 17 mm)に伸びながら層内を浸透していく成分が見られる.また,乾燥後も可視光で暗い流跡が浸透流の流れた跡に残る.2 回目以降の注入において,MgCl2 溶液はそれ以前の注入時に浸透流の流れた領域に再び浸透したのち,一部がガラスビーズ層の表面を流れる表層流となり斜面下方向へ流跡が伸長する.この表層流の量は MgCl2 溶液をくりかえし流すたびに増え,また流跡は下流方向に長く伸長する(5 回目終了後の流跡の全長 : 約 116 mm).動画解析から求めた,各実験での伸長速度とその流れの様式(浸透流または表層流)を表 2 に示す.表層流による伸長速度は,MgCl2 溶液を流す回数を重ねるごとに約 5 mm/分から約 21 mm/分へと上昇する.
 

表 2. MgCl2 溶液を注入した場合における,各回の流域の伸長速度と伸長を引き起こした流れの形態.

  伸長速度 [mm/分] 伸長を引き起こした流れ
1 回目 7.4 ± 0.3 浸透流
2 回目 4.9 ± 0.5 表層流
3 回目 7.7 ± 2.7 表層流
4 回目 11.1 ± 2.2 表層流
5 回目 20.8 ± 1.8 表層流

 

3 - 2. 固体試料の観察・分析結果

図 4 にサンプル X の SEM 画像を示す.SEM 画像はサンプルの表面を撮影したもので,図中には点 A に代表される滑らかな部分と,点 B に代表される角張った部分が見られる.EDS 分析の結果,図 5 中の点 A からはマグネシウムと塩素に由来する X 線ピークが強く検出されたことから,点 A は MgCl2 溶液の注入後,乾燥によって析出した MgCl2 塩であることがわかる.一方,点 B の EDS 分析の結果,マグネシウム,塩素の他にケイ素のピークも主要成分として検出され,析出した MgCl2 塩とガラスビーズ粒子が混在していることがわかる.以上のことから,点 A に代表される滑らかな部分は MgCl2 塩のみで構成されていることがわかる.一方,点 B に代表される角張った物質はガラスビーズの粒子であり,その表面の一部に MgCl2 塩が付着していると考えられる.点 A の周囲には角張った粒子が数粒存在しており,その間隙を埋めるように MgCl2 塩が析出していると考えられる.
 

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図 4. MgCl2 溶液が 5 回流れたサンプル X の表面物質の電子顕微鏡(SEM) 画像.点 A に代表されるなめらかな部分と,点 B に代表される角張った部分が存在する.点 A,B をそれぞれ元素分析(エネルギー分散型 X 線分光分析 : EDS)すると,点 A は MgCl2 塩,点 B は MgCl2 塩とガラスビーズ粒子からなることがわかる(右パネル上が点 A,下が点 B の EDS スペクトル ).
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MicroX 線 CT で撮影したサンプル X の断面の例を図 5(a)に示す.X 線 CT 画像では,密度,物体の厚さ,物質の原子番号の違いにより,明暗が決定される.SEM での観察により(図 4),角張った物質がガラスビーズ粒子で,その表面を覆う物質,あるいは粒子の間隙を埋める物質は析出した MgCl2 塩であることが示されている.これらの形状的特徴から,図 5(a)中の明るい灰色の領域(破線内)はガラスビーズ粒子,暗い灰色の領域(破線の周囲)は MgCl2 塩,黒色領域は空隙と解釈される.これらの物質の同定に基づき三次元構造から空隙率を算出したところ,MgCl2 溶液が一度しか流れていない流跡の先端部分であるサンプルYでは空隙率が 38(± 4)% であったのに対し,MgCl2 溶液が五度流れた注入部付近のサンプル X では空隙率が 21(± 1)% であった.また,サンプル X の二値化した X 線 CT 画像から三次元構築したガラスビーズ粒子と MgCl2 塩の立体図(図 5(b))から,析出した MgCl2 塩により空隙が一部完全に埋まり,浸透流の経路が遮断されていることが確認できる.
 

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図 5. (a)MgCl2 溶液が 5 回流れたサンプル X の X 線 CT 断面図.破線で囲った部分がガラスビーズ粒子,その周囲の灰色の領域が MgCl2 塩,黒色の部分が空隙を表している.(b)サンプル X の断面図を三次元構築した立体図.MgCl2 塩とガラスビーズ粒子を不透明にしている.内部の空隙の多くは周囲の空隙と繋がっておらず,大部分の空隙が孤立していると考えられる.
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4. 実験結果の解釈 : メカニズム

はじめに,MgCl2 溶液と純水に関して,それぞれの 1 回目の注入における流れ方の違いについて解釈する.MgCl2 溶液と純水はどちらもガラスビーズ粒子層内に浸透し,粒子との間の表面張力による等方的な拡散の影響と,斜面下向きの重力の影響を受けると考えられる.等方的な拡散の影響は溶液の動粘度に依存し,動粘度が高いほど拡散しにくい性質を持つ [21].実験条件での純水の動粘度は約 0.9 mm2/秒,MgCl2 溶液の動粘度は約 6.0 mm2/秒である.したがって,同じ浸透流ではあるが動粘度の高い MgCl2 溶液は拡散しにくく,一部は等方に拡散するものの,重力の影響で斜面下方に伸びる流れとなったと考えられる.一方,動粘度の低い純水では,等方的な拡散による効果が顕著になりほぼ同心円状に拡散したと考えられる.実際,1 回目の流跡の幅は純水で 85 mm であるのに対して,MgCl2 溶液で 42 mm であり,動粘度の高い MgCl2 溶液が等方的な拡散を起こしにくかったことがわかる.液体の注入量やフラックスが同じである場合,1 回目の注入における形状は,液体の動粘度に強く影響されることが示唆される.

次に,2 回目以降の MgCl2 溶液および純水の流れの違いについて考察する.まず,純水の場合では 1 回目の浸透流の乾燥後も,析出物がガラスビーズ層内に残らない.そのため,ガラスビーズ層内の空隙率や浸透率は変化せず,2 回目以降も 1 回目と同様の流れ方をくり返すと考えられる.一方,MgCl2 溶液がガラスビーズ層内に流入・乾燥することにより,ガラスビーズ粒子の表面および間隙に MgCl2 塩が析出する(図 5).特に,液表面から水分子の蒸発が起きることで,溶液の浸透領域に(特に浸透領域の先端領域を中心に)MgCl2 塩が析出することになる(図 6(a)).この際,溶液が到達したガラスビーズ層の空隙率が MgCl2 塩の析出により減少する(図 5).再び MgCl2 溶液が供給されると,はじめは浸透流としてガラスビーズ層内を広がっていくが,1 回目の溶液供給時に層内に析出した MgCl2 塩が存在する領域まで到達すると,その先への浸透が MgCl2 塩によって妨げられる.水平方向の浸透も 1 回目に析出した MgCl2 塩によって遮られるため,浸透領域の幅は 1 回目の溶液注入に伴う浸透流の幅によって決定される.これにより,1 回目の浸透領域を浸し,行き場のなくなった MgCl2 溶液が,表層流として表面にあらわれる(図 6(a)).表層流に働くのは主に重力であり,斜面下向きに表層流が流れることで,1回目の浸透領域を超えてその下方のガラスビーズ層に MgCl2 溶液が到達し,そこに浸透していく(図 6(b)).下方のガラスビーズ層内で浸透流となった溶液は,1 回目と同様,ガラスビーズ層内に広がり,乾燥後,MgCl2 塩が析出する(図 6(c)).3 回目以降の MgCl2 溶液の供給でも,同様のメカニズムで,それ以前の溶液が浸透した領域の空隙率が MgCl2 塩の析出で低下することで表層流が生じ,斜面下方の領域へと溶液の浸透が広がることとなる.特に,4 回目,5 回目の MgCl2 溶液供給では,それ以前の浸透領域の下方に表層流が到達した段階で,表層流の初速度が高くなっている.そのため,伸長速度が上昇し(表 2),下方に到達した浸透流もより下方へと広がる形状となると考えられる.
 

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図 6. 実験から示唆される,MgCl2 溶液がガラスビーズ層の斜面を流れるメカニズム.各パネルにおいて,左図は斜面を上から見た概念図,右図は斜面のガラスビーズ層の断面の概念図を表す.(a)ガラスビーズ層内に析出した MgCl2 塩により,浸透を阻害された MgCl2 溶液が表層流として現れる.(b)表層流が重力により斜面下方へ流れることで流跡が伸長する.(c)その後,MgCl2 溶液が蒸発し,浸透した流跡に MgCl2 塩が析出する.この一連のサイクルをくりかえすことで斜面下方に長く伸びる流跡が形成する.
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5. 火星 RSL への示唆

本研究の実験結果から,現実の火星上においても塩水の供給・乾燥がくり返されると,そのたび土壌内に塩が析出することで土壌の空隙率・浸透率が低下し,これによって表層流が形成することで流跡が斜面下方に向かって伸長する可能性が示唆される.このような斜面下向きに向かって長く伸びる塩水の流跡は,火星上の RSL(中低緯度の急斜面にくり返し現れる暗い筋模様 : Recurring slope lineae)の地形模様と定性的には整合的といえる.一方,純水の浸透では,供給源から同心円状に浸透流が広がるため,RSL の地形模様を説明することができない.この結果は,RSL が液体によって形成したのであれば,その組成は高濃度の塩水である可能性が高いことを示唆する.この結果は,RSL 密集領域に塩化物や過塩素酸塩が見つかること [3, 5, 6] とも整合的である.

本実験結果を現実の火星へ応用する際の不確定要因の一つとして,塩の化学組成の違いがあげられる.本研究では MgCl2 溶液を用いて実験を行ったが,現実の火星には,上述のように過塩素酸塩やマグネシウム以外の塩化物も存在する [4].しかしながら,本実験で明らかになった塩水の流動メカニズムは,塩水が蒸発し析出した塩が粒子の空隙を埋めることが原因であるため,塩の組成の違いは斜面下方に伸びる流跡になるという形状的特徴の形成には大きく影響しないと考えられる.ただ,4 章で述べたように溶液の動粘度によって 1 回目の浸透流の形が変化することが考えられる.1 回目の浸透流によってその後の流跡の幅が決定されるため,溶液の動粘度は流跡の形状に対して重要な要素である.例えば,今回用いた MgCl2 以外の潮解性をもつ塩化物である CaCl2 の 6 mol/L の飽和水溶液は,動粘度が 25° C で 5.3 mm2/秒である.これは本実験に用いた MgCl2 水溶液の動粘度(6.0 mm2/秒)よりわずかに小さいが,純水の動粘度(0.9 mm2/秒)に比べれば顕著に大きい.動粘度が小さい流体は粒子内で拡散しやすくなるため,CaCl2 飽和水溶液によって形成される流跡は,本実験で得られた MgCl2 飽和水溶液の流跡よりも幅が広くなり,斜面下向き方向への成分が小さくなることが予測される.しかし,純水の動粘度と比べると CaCl2 飽和水溶液の動粘度は十分大きいため,形成される流跡は本実験で見られたように線状になると考えられる.したがって,定性的には,本研究の結果は他の塩化物に対しても適応できると考えられる.

RSL が塩水の流入で形成された場合にも,まだ多くの未解決の課題がある.高濃度の塩水は,上述のように,土壌中の塩の潮解や塩を含む氷の融解によって形成しうる.したがって,RSL 供給源である RSL 最上部には,塩化物や過塩素酸塩の存在が予想される.これらの塩がいかにして RSL 供給源に供給されたのか,RSL が何度となく形成されるなかで,なぜ現在でも供給源に塩が存在しつづけられるのかといったことは明らかではなく,今後解決すべき課題といえる.また,RSL が急峻な斜面にのみ形成される理由も,本研究の結果のみからでは明らかではない.緩やかな勾配の斜面上でも同様に塩水が形成されている可能性はあるが,斜面下方へ塩水が流れずその場に溜まり RSL のような空間的に広がった形状に発展しないのかもしれない.その場合,リモートセンシングの空間解像度によっては,発見されない可能性もあるだろう.斜面の勾配に対する塩水の流れ方の違いについては,今後の室内実験で明らかにしていくべき課題である.
 

6. まとめ

本論文では,火星表面において塩水が出現・蒸発をくり返す可能性,および RSL について,それらの最近の探査結果や形成メカニズムに関する議論をレビューした.そして,RSL の細長く伸びる形状に着目し,塩水がくり返し供給される場合の斜面での流体の流れ方のメカニズムを室内実験により調べた.実験の結果,塩水が蒸発することで析出した塩が土壌の空隙率を低下させ,それによって一度塩水が流れた領域の浸透率を低下させることが示唆された.さらなる塩水の供給時に,土壌中で塩水が浸透するのを妨げ,表層流の形成に寄与することも示唆された.このようなメカニズムによって,塩水が供給と乾燥をくり返されるに従い,形成される流跡が斜面下方に線状に長く伸びうる.本研究は,火星上の RSL の特徴である線状に伸びる形状を説明しうるものであり,RSL が液体の塩水によって形成しているという考えを支持するものである.
 

謝辞

投稿原稿に対する丁寧な査読を行ってくださった城野信一博士,およびゲストエディターの玄田英典博士に感謝申し上げます.本研究は,文部科学省による新学術領域研究(研究領域提案型)(水惑星学の創成 : JP17H06458),および自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターから研究助成を受けました.ここに感謝申し上げます.
 

参考文献

[1] Martin-Torres, F. J. et al., 2015, Nat. Geosci. 8, 357.
[2] McEwen, A. S. et al., 2011, Science 333, 740.
[3] Ojha, L. et al., 2015, Nat. Geosci. 8, 829.
[4] Ehlmann, B. L. and Edwards, C. S., 2014, Annu. Rev. Earth Pl. Sci. 42, 291.
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[6] Osterloo, M. M. et al., 2010, J. Geophys. Res.: Planets 115, E10012.
[7] Schuttlefield, J. D. et al., 2011, J. Am. Chem. Soc. 133, 17521.
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[21] 登坂博行, 2006, 地圏水循環の数理 - 流域水環境の解析法, 東京大学出版会.
[22] グッドマン, R. E.(大西有三, 谷本親伯 翻訳), 1984, わかりやすい岩盤力学, 鹿島出版.
 


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Editor : Akira IMOTO

Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

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