JPL News (Ja) - Space Topics 2025
JPL News (Ja) 日本語訳解説
NASA Cassini(カッシーニ)データから、土星の衛星 Titan(ティタン、タイタン)には全球的な海洋が存在しない可能性がある
NASA Cassini-Huygens(カッシーニ・ホイヘンス)mission「NASA Cassini(カッシーニ)データから、土星の衛星 Titan(ティタン、タイタン)には全球的な海洋が存在しない可能性がある」
原文 : December 17, 2025 : NASA Study Suggests Saturn’s Moon Titan May Not Have Global Ocean
NASA Cassini(カッシーニ)探査機のデータを再分析した結果、土星の衛星ティタンは、全球的な海洋というよりも、スラッシュ状の層と孤立した液体の水のポケットで構成されているのではないかという可能性が出てきた。
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このアーティスト・コンセプトは、NASA Cassini(カッシーニ)探査機が土星最大の衛星ティタンに接近飛行する様子を描いている。地球との間で送受信される電波信号のドップラー効果を分析することで、ミッションはティタンの重力場を精密に測定した。
Credit : NASA/JPL-Caltech
2008年の NASA カッシーニ探査機の重要な発見は、土星最大の衛星ティタンが、表面下に炭化水素に富む広大な水の海を保有しているかもしれないというものだった。しかしミッションデータの再分析により、より複雑な構造が示唆されている。ティタンの内部は氷で構成され、その岩石核付近にスラッシュ状の層と温かい水の小さなポケットが形成されている可能性が高い。
南カリフォルニアにある NASA JPL(ジェット推進研究所)の研究者らが主導し、水曜日に学術誌ネイチャーに掲載されたこの新研究は、ティタンや太陽系内の他の氷の衛星に関する科学者の理解に影響を与える可能性がある。
「この研究は、惑星科学のアーカイブ・データの力を強調している。これらの探査機が収集した驚くべきデータは永続的に存在し、分析技術が高度化するにつれ、数年、あるいは数十年後にも新たな発見が可能になることを忘れてはいけない」と、JPL の上級研究員であり本論文の共著者である Julie Castillo-Rogez(ジュリー・カスティーヨ=ロジェズ)は述べた。
「それは贈り物が永続的に届くようなものだ」
惑星や衛星、小惑星をリモート探査するため、科学者たちは宇宙機と NASA の深宇宙通信網(DSN)の間を行き来する電波通信を研究している。これは多層的なプロセスだ。衛星の天体は質量分布が均一でない場合があり、宇宙船がその内部を通過する際に重力場が変化するため、宇宙機の速度がわずかに増減する。この速度変化は宇宙船との間で送受信される電波の周波数を変動させるドップラー効果として知られる現象だ。ドップラー効果を分析することで、衛星の重力場とその形状に関する知見が得られる。衛星は親惑星の重力圏内を公転するため、その形状は時間とともに変化する可能性がある。
この形状変化は潮汐歪みと呼ばれる。ティタンの場合、土星の巨大な重力場が、わずかに楕円形の軌道上で惑星に接近した際に月を圧縮し、遠ざかった際に伸長させる。この歪みによって生じたエネルギーは内部加熱の形で失われる(散逸する)。
カッシーニ探査機(現在は任務終了)が、ティタン接近10回目の際に収集した電波データ分析から、科学者らはこの衛星の変形が極めて大きいことを発見。固体内部であれば変形ははるかに小さいため、液体内部が存在すると結論付けた。(水で満たされた風船とビリヤードの球を比較すると理解しやすい)
新たな手法
新たな研究は、この可塑性に対する別の可能性を示す:氷と水が混在する層構造を持つ内部が、衛星の変形を可能にしているという説だ。このシナリオでは、土星の潮汐力と衛星の変形兆候の間に数時間の遅れが生じる。内部が完全な液体状態の場合よりもはるかに遅い。また、半流動状態の内部構造は、液体構造よりも衛星の重力場においてより強いエネルギー散逸の痕跡を示すはずである。なぜなら、これらの半流動層は氷結晶同士が摩擦を起こす際に熱を発生させるためだ。しかし、データにはこの現象を示唆する明らかな兆候は認められなかった。
そこで JPL の博士研究員 Flavio Petricca(フラビオ・ペトリッカ)率いる研究チームは、ドップラー・データの分析を再検討した。新たな処理技術を用いることでデータのノイズを低減。その結果、ティタンの深部で強いエネルギー損失を示す特徴が明らかになった。研究者らはこの特徴を、固体氷の厚い殻で覆われたスラッシュ層に起因すると解釈した。
この新たなティタンの内部構造モデルに基づき、研究者らは液体状態の物質は融解水のポケット状に存在すると提案している。潮汐エネルギーの散逸によって加熱された水ポケットは、表面の凍結した氷層に向かってゆっくりと移動する。上昇する過程で、下層から供給される有機分子や隕石によって運ばれる物質によって富化された、独特な環境を形成する可能性がある。
「ティタンの内部でこれほど強いエネルギー散逸が起こるとは誰も予想していなかった。しかしドップラー・データのノイズを減らすことで、こうした微細な振動が浮かび上がった。これが決定的な証拠となり、ティタンの内部構造が従来の分析から推測されていたものとは異なることを示した」とペトリッカは述べた。
「スラッシュ状の物質の低粘性により、衛星は土星の潮汐力に応じて膨張・圧縮し、氷を溶かして海を形成する熱を除去できる」
生命の可能性
「ティタンに全球的な海が存在しないとしても、生命が形成可能だと仮定すれば、基本的な生命体を宿す可能性は排除されない。むしろ、それがティタンをより興味深い存在にしている」とペトリッカは付け加えた。
「我々の分析によれば、摂氏 20 度(華氏 68 度)にも達する可能性のある液体の水のポケットが存在し、その水が、岩石質の核から高圧スラッシュ層を経て、表面の固体氷殻へと栄養分を循環させているはずだ」
より決定的な情報は、NASA の次期土星探査ミッションから得られる可能性がある。2028年以降に打ち上げ予定の Dragonfly(ドラゴンフライ)ミッションは、この霧に包まれた衛星の真実を明らかにするかもしれない。世界初の回転翼機がティタンの表面を探査し、生命存在の可能性を調査する。搭載された地震計は、地表での地震活動に応じて、ティタンの内部構造を探る重要な測定データを提供する可能性がある。
More About the Mission(ミッションの詳細)
カッシーニ・ホイヘンス・ミッションは、NASA、ESA(欧州宇宙機関)、イタリア宇宙機関の共同プロジェクトである。カリフォルニア州パサデナにあるカリフォルニア工科大学の一部門である JPL(ジェット推進研究所)は、ワシントンにある NASA 科学ミッション本部(Science Mission Directorate)総括の下、ミッションを管理した。JPL はまた、カッシーニ探査機の設計、開発、組み立ても担っている。
カッシーニ・ホイヘンス・ミッションの詳細については、以下を参照いただきたい。
Akira IMOTO
Editorial Chief, Executive Director and Board of Director for The Planetary Society of Japan

